裏路地の執行人
薄暗い裏路地に面した一室。男は無造作に、しかし隙一つ見せない動作で黒い包みを広げた。男の名前は源治。彼は白衣の汚れを軽く払い、冷徹な眼差しで哀れなターゲットを見据えていた。
鈍い光を放つ鋼の刃が並んでいる。彼はその中から、最も長く、薄い一本を手に取った。
「旦那! コイツを締めてやって下さい!」
近くで声が上がる。早くターゲットの命の灯火が消えるのを待ちかねているようだ。
(貴様に恨みは無い……だが、死んでもらう)
相手が逃げようともがくのを、強靭な腕で押さえつける。抵抗は無意味だった。彼は手にした刃物で、急所を一息に斬り裂く。
更に、慣れた手つきで腹部を斬り裂き、はらわたを引き摺り出された事でピクピクと痙攣している標的を見下ろす。
(すまないが……これも仕事なんでな)
彼は血脂が付着した仕事道具を、清潔な布で拭い取った。これをしなければ仕事道具が傷んでしまう。一流の仕事人は、道具の手入れも欠かせないのだ。
「旦那、コイツもお願いします!」
依頼人の急かすような声に、彼は手を伸ばした。その先にはあるのは、次の標的だ。それはまだ若く、活きが良かった。全力で後ろに逃げようとしたが、源治の前では無力。その細い首を掴まれてしまった。
メキッ……
硬いものが砕ける音が周囲に響く。眼前には、もはや動くものは何も無かった……。
彼は手早くエビの殻を剥き、先ほどの関アジの造りの近くに添えた。
「ヘイ、お待ちぃ!」
本郷 源治(42歳)……今日も彼の包丁は、静かに獲物を仕留めていた。




