巣材から、少年が出てきた!?
朝。
目覚ましを止めて、ぼんやりした頭でケージを覗き込む。
今日もぷくまるは引きこもったまま、巣材の奥でモコモコしている。
「おはよ、ぷくまる。エサ入れるよー」
返事は当然ない。
ただ、巣材の山が、もぞ…っと微妙に揺れた。
(今日も出てこないのか……)
ここ最近、ぷくまるは昼間まったく姿を見せない。
生きてる気配はあるんだけど、何かを準備してるみたいに妙に静か。
エサ皿にヒマワリの種を入れようと手を伸ばした、その瞬間だった。
モコッ。
巣材が、山ごと盛り上がった。
「ん?」
もう一度、モコッ。
明らかにぷくまるサイズじゃない何かが、下でうごめいている。
「ぷくまる? 元気? え、ちょ、ちょっと……」
ガサガサガサッ
巣材が四方に飛び散り、中から――
白い手が、にゅっと伸びた。
「ひっ!?」
手はゆっくりと巣材を押しのけ、さらに腕、肩、頭が現れた。
そして、完全に姿を表したのは、
腰まであるふわふわ白髪、丸い耳、尻尾のついた……
見た目12歳くらいの、知らない少年。
知らない……はずなんだけど。
少年は巣材の山を踏みしめ、俺をじっと見上げた。
「…………やっと来たか。腹が減ったぞ、飼い主。」
「いや誰!?」
反射でケージごと後ろに引いた。
だが少年は平然と仁王立ちのまま、尻尾をぴょこっと揺らす。
「誰って……わからんのか?」
「わからない! むしろわかったら怖いよ!!」
少年は、少し途方に暮れたように耳をしょんぼりさせた。
「……ぷくまるだが?」
「ぷくまる!? え、ウチのあの……ハムスターの?」
「そうだが?」
即答。
俺の中の現実が、回し車ごと高速回転し始める。
「ちょ、待って。え? なんで? なんで人型なの? 今日突然?
そんな急にキャラチェンできる? お前そんな設定あった!?」
「飼い主は騒ぎすぎだ。静かにせんか。
……まずは飯をくれ。話はそれからだ。」
威圧的な声音で言いながら、少年は餌皿へトテトテ歩いていき、
さっき俺が入れたヒマワリの種をつまんで――
かりゃんっ
その仕草だけ異様にハムスターのまま。
「……え、可愛いな!?」
「当たり前だ。余はハムスターゆえな。」
いや、えらそう。
でも尻尾がぶんぶん揺れてるから嬉しいのバレてる。
「あと寒い。もっと巣材を寄こせ。」
「もう人型で巣材必要なの?」
「必要だ。ふかふかの上じゃないと死ぬ。」
「死なないよ……」
ツッコミどころが多すぎる。
ケージから出た少年は、タオルを勝手に巻いて、俺のベッドの上にドサッと座り、
「では飼い主よ。今後は余の世話を倍にしてもらうからな。」
「いや増えるの!?」
「当然だ。人型は腹が減る。あと撫でよ。」
「要求が多いな!」
「撫でよ。」
「……はい。」
なぜか撫でた。
――こうして、うちのハムスターの奇妙な擬人化生活は、
問答無用でスタートしてしまった。




