初ドラマ現場!ちくわ、台本の漢字が読めない
ロビーに入った瞬間、ちくわはピタッと立ち止まった。
床が赤い。壁が黒い。天井がやたら高い。
「ここ……なんか、すごい……ッ!」
まるでディズニーランドに来たみたいに目を輝かせているが、ここはただのテレビ局の廊下だ。
マネージャーの凛がため息をつく。
「テンション上がるのはいいけど、今日はドラマの撮影だからね。ちゃんと台本読んできたんでしょうね?」
「もちろん! ぜーんぶ読んだもん!」
胸を張るちくわ。元ハムスターとは思えない自信。
……しかし。
控室に入った途端、ちくわはひそかにカバンから台本を取り出し、ページをペラペラめくり――
「……ん?」
止まる。
眉が寄る。
漢字が、思ったより、めちゃくちゃある。
「凛ちゃーん……これさ……」
「ん?」
「この漢字さ……“なんて読むの?”」
凛は一瞬硬直した。
「……ちくわ。あなた“読んだ”って言ったよね?」
「うん! “読んだ”よ! ……心で!」
「心で読むな!!」
こうして、撮影開始前からトラブルは発生した。
⸻
撮影スタジオに入ると、スタッフがバタバタと動き回り、本番の空気が漂っていた。
ちくわは緊張なのかワクワクなのか、両方の表情を同時に浮かべている。
「ちくわくん、こっち立って! カメラリハ行きます!」
スタッフに呼ばれ、指定の位置に立つ。
大御所俳優・黒川が隣で台本を片手に腕組みしている。
彼はいかにも“芸能界の怖い人”オーラをまとっていた。
「よろしくお願いします!」
ちくわは元気よく挨拶。
黒川はちらっとちくわを見る。
「……噂の“元ハムスター”くんか」
「はいっ! 元気にやらせてもらってます!」
「……うむ」
返事がそれだけ。
だがその「うむ」に圧がありすぎて、ちくわの肩がビクッと跳ねる。
⸻
リハーサル開始。
監督「じゃあ、黒川さんがセリフを言ったあと、ちくわくんが“えっと、それは……どういう……”って言いながら顔をそむける。OK?」
「おっけーです!」
しかしいざ本番になると――
黒川「貴様にこの家のことが分かるものか」
ちくわ「……えっと、それは……どういう……」
ここまでは完璧。
そして次の瞬間。
ちくわ「……あ、漢字読めないやつだ」
現場「カットォォ!!」
監督「ちくわ!? 台本にないこと言わないで!」
「だって、本当に読めなくて……」
「アドリブの方向が予想外すぎるんだよ……!」
黒川は腕を組んで、ため息を深く落とす。
「……ハムスター時代は文字など読めなかったのだろうな」
「はい! ひまわりの種は読めました!」
「読めるのか……?」
現場は謎の笑いに包まれた。
⸻
凛は頭を抱えつつも、どこか楽しそうだ。
「はぁ……もう……。でも、まあ……ちくわらしいか」
そう、これが “元ハムスタータレント・ちくわ” の初ドラマ収録。
波乱の幕開けだった。




