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うちのハムスターが引きこもってばっかりだと思ったら、急に擬人化してきたんですけど!?  作者: 櫻木サヱ
ちくわ、芸能界の洗礼を受ける

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14/15

人間の基本レッスン

スタジオの片隅に、小さな椅子と大きめのメモ帳。

そこには「人間としての基本行動チェックリスト」という見出しが太文字で書かれている(書いたのはプロデューサー日向)。

そのチェックリストの上に、ちくわがちょこんと座っていた。ネクタイはやっぱり首輪みたいになっている。


「本日は“カメラに固まらない”“走るなら人間走り”“会話のマナー”あたりをやります」

日向の顔は真剣そのもの。マネージャーは冷や汗。私は心の中で「頑張れ…」と呟く。


まずは“カメラ慣れ”の訓練。

巨大なカメラの代わりに、丸い黒いクッションを並べておいて、ちくわに「これがカメラだ」と慣らす。

ちくわはクッションを見て、慎重に匂いを嗅ぎ、少し離れて四つん這いになり、勢いよく逃げ出した。


「四つん這いはやめて!」

日向が怒鳴り、マネージャーが走って捕まえる。

スタッフは息を呑むが、クッションに寄せられた視線はどこか微笑ましい。


次は“挨拶の仕方”。

日向がモデルで見本を見せる。

「目線は相手の眉間より少し上、声ははっきり、笑顔を作ってから一言。」

ちくわは真剣にうなずき、気合を入れて声を出した。


「は、はじめまして……!」

その声が、甲高く、ハムスターの鳴き声と人間の語調の中間で、スタッフ一同が一瞬で沈黙。

しかし気がつけば、誰かがニヤリと笑いをこらえる。ちくわの「人間風味」がまたしても場をさらっている。


続いて“行動マナー”――食べ物を勧められたときの受け答えや、椅子の座り方、物を渡すときの両手の使い方。

ちくわは物を渡す際、無意識に頬袋を持つような仕草をしたため、スタッフが同時にのけぞる。

「それ、クセ直して!」日向の声が響く。


だが一番の混乱は“走る練習”だった。

日向は「人間として走る」デモを見せ、ちくわにもやらせる。

ちくわは一度胸を張り、立ち上がり、ゆっくり歩き出す。――そして突然、顔が真剣になり、四つん這いでまたもや爆走。

結果、リハセットの小道具ボックスをまたしてもなぎ倒し、スタッフの悲鳴と子どもの歓声がスタジオに混じった。


日向は頭を抱えつつ、少し笑みを浮かべる。

「不安定だけど、使いどころはある。カメラに固まる姿、四つん這いで疾走する姿、素の戸惑い。全部“ちくわの個性”として受け入れられてきている。でもね、事故が増えるとクビになる。だから“やっていいちくわ”と“やってはいけないちくわ”を分ける。スタッフ全員でルールを作るから協力して」


その言葉はちくわにとっても救いで、ちくわは小さくガッツポーズをした(けど爪が引っかかって、おもむろに爪をカリカリするのは止められない)。


レッスン後、事務所の小さなミーティング。

日向は各スタッフに担当を割り振る。カメラ慣れ担当、動き監修担当、広報対応担当――と分かれていく。

「ちくわは“天然”だからこそ魅力がある。だが天然は制御しないと現場が崩壊する。だから“制御された天然”を作る」

私はノートに“制御された天然”と大きく書き留める。妙に説得力がある。


その夜、ちくわは家でスマホをいじりながらぽつりと言った。

「ぼく、今日いろいろ壊した。みんな、ごめん」

「みんな、もう慣れてきたよ。あなたが天然だからウケてるんだもの」

ちくわはじっと考え、そして小さく呟く。

「でも、ぼく……わかってきたかも。どこが“ちくわ”で、どこは“人”でいるべきか」


それは少し成長のにおいがした。けれども翌日の撮影スケジュールには「子ども向け歌番組・ミニコーナー生放送」――という恐ろしい一行が組まれていた。生放送。予想もできないトラブルの可能性。

私は冷や汗をかきつつ、ちくわの頭を撫でる。


「明日は僕が守る」

ちくわは小声で言った。

「ぼく、頑張る」


その決意が、本当にどこまで通用するのか。世間は暖かい反応と一緒に、観察眼と好奇心をどんどん送り続けている。

ちくわの“制御された天然”実験は、まだ始まったばかりだった。

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