プロデューサー面談:「経歴に“ハムスター歴3年”って何?」
番組のセット破壊事件から二日後。
私は事務所に呼び出された。
「ちくわさんと、担当マネージャーさん。プロデューサー面談です」
受付の人が妙に丁寧に言う。
……嫌な予感しかしない。
通された会議室には、大きな机と資料の山。
中央には、黒髪でキリッとしたスーツ姿の女性プロデューサー・日向が座っていた。
その表情は、あきらかに「何か問題が起きている顔」。
「まずは……これをご覧ください」
日向さんは一枚の紙をこちらに滑らせた。
そこには、ちくわの“仮プロフィール”があった。
名前:ちくわ
年齢:3歳(?)
職業:タレント
特技:回し車
好きなもの:ヒマワリの種
経歴:ハムスター歴3年・人間歴3日(現在更新中)
私は頭を抱えた。
ちくわは胸を張っている。
「わたしの、しんちょくりれきです!」
日向さんは深く息を吸い、静かに言った。
「……これは、一体どういう経歴なんですか?」
「そのままです!わたし、はむすたーでした!」
堂々と言うな。
日向さんは書類を指でトントン叩きながら、真顔で続ける。
「テレビ局から連絡がありましてね。
“ハムスター歴3年って何?本当に元ハムスターなの?
これ、設定なの?ガチなの?
どっちなの?どっちとして扱えばいいの?”
と、問い合わせが殺到しています」
うん、それは…そうなるよね。
ちくわは自信満々に言った。
「わたし、ほんとうにはむすたーでした!
ついこのまえまで、ケージにいました!」
日向さんはペンを落とす寸前で止めた。
その表情は、「頭で理解できるのに心が拒否している」時のやつ。
「本当に……元ハムスターなんですか?」
「はい!」
「医学的証拠は?」
「ありません!」
「じゃあ、証明できるものは?」
「ひまわりのたね、いっぱい食べられます!」
証拠として弱すぎる。
私は慌てて口を挟んだ。
「すみません、彼(?)は本当に元ハムスターなんですけど、人間になった理由は……私にも……」
言いながら、自分でも状況が意味不明すぎて笑いそうになる。
日向さんはため息をつき、書類を閉じた。
「一応、あなたのキャラは今“新種の人類っぽい何か”としてネットで注目されています。
なので設定はこのまま進めますが……」
ちくわ「はい!」
「問題は、あなたの行動です。
ハムスター走りでセットを壊したり、カメラを敵と誤認したり――」
「ごめんなさい」
ちくわ、素直。
日向さんは柔らかく微笑んだ。
「いえ、怒っているわけではないんです。
あなたは……“天然のバケモノ枠”として人気が出つつあります。」
“バケモノ枠”。
称号がひどいのに、本人は嬉しそうにしている。
「ですが、これ以上現場で事故が増えると、出禁になります。
なので、最低限の人間的行動マナーを覚えましょう」
私は思わず聞く。
「……ハムスターに、人間のマナーを?」
「はい。今日からレッスンします」
こうしてちくわは、
演技ではなく“人間としての基本行動”を叩き込まれることになった。




