ちょっとずつ
3回目の家庭教師の日がやってきた。今まで通り東条さんの部屋に入ると、東条さんは既に勉強を始めていた。
「こんにちは、東条さん」
「、、、、、」
どうやら集中しているようだ、返答がない。
「そこはここの公式を使えば解けるよ」
「!!!」
どうやら困っている様子だったのでやり方を教えようとしたのだが、存在に気づいていなかったらしく、とてもびっくりしていた。
「入る時はノックぐらいしてよ」
「いやノックしたし声もかけたんだけど、、集中して気づいてなかったみたいだけど」
しっかりノックも3回したし挨拶もしたのだがそれでも気づいていなかったみたいだ。
(凄い集中力だな、、)
ゲームの時もすごく集中していたし、集中すると自分の世界(?)に入るタイプの人間らしい。
「お、でも結構問題集進んでるじゃん」
「ええ、当たり前でしょ、怠ける訳にもいかないし」
「おお、それはいいね」
柊人的にはやる気はあればあるほどやりやすいのでとても有難かった。
「まあでも、、」
「なに?」
「半分以上間違ってるけどね、、」
「え、?あれ、、?」
どうやらやる気はあるけど解けるかどうかは別問題らしい。
「まあ解けてる問題もあるけど一応最初の問題から解説していこうか」
「ん」
そうして2時間ほどみっちり教えこんだ。
「疲れた、、」
「お疲れ様、今日はよく頑張ったな」
「ええ、さすがに疲れたわ」
ずっとガチ集中モードだったので柊人も少しばかり疲れてしまった。
「そういえばさ」
「なに?」
「なんで実験の時俺らを選んだの?他にも男子たくさんいるだろうに」
特に気になった理由とかはないが、単純に気になったので聞いてみた。
「別にクラスで仲良い男子なんていないし、それなら喋ったことあるあんたの方がやりやすいって思っただけよ、頭もいいし」
「そうなのか、てっきりクラスでも男子に人気だから仲良い男友達の1人や2人はいるかと思ってた」
「そういう目でしか見てないゴミ男子と関わるなんて御免だわ」
「そ、そうなんだ」
とても強い口調で否定する東条さんに柊人は少しびっくりした。
「だからそんなやつとやるぐらいならあんたとやった方がまだマシってだけ」
「もしかしてだけど東条さんさ」
「なに?」
「俺の事そこまで嫌いじゃない、、?」
「別に好きでも嫌いでもないわ、ただ他の男子よりかはマシってだけ」
「そうなんだ、てっきり嫌われてるのかと」
「元々こういう性格だから、そう思ってるだけよ」
(そうなんだ、)
いつも対応が冷たかったので、てっきりめっちゃ嫌われてるかと思っていたのだが、どうやらそうでも無いらしい。
「どうして男子ってああなのかしらね」
「ああって?」
「内面とか全く見ずに顔しか見てない年中発情期の腐れ外道猿のことよ」
「お、おおとんでもなく口調が強い、、」
スラスラと出てくる罵倒に柊人は思わずゾッとした。
「東条さんって自分が美人って自覚してるの?」
「び、美人!?」
東条さんは急に美人と言われたことにびっくりしたのか大きな声をあげた。
「あんたみたいな人でも私の事美人って思うわけ?」
「うーん、、まあ他の人よりは断然見た目が整ってるなって思うかな」
「そうなのね、まあ見た目は気遣っているし手を抜いているつもりはないわ」
「確かに、髪の毛サラサラだし肌も綺麗だよね」
「わざわざそういうこと言わなくていいから」
「あ、ごめん嫌だよな見た目のことについてゴタゴタ言われるの」
「まあでも褒められるのは悪い気しないわ」
「それならまだ良かった」
確かに女子の見た目について口を出すのはデリカシーがないなと思い、反省した柊人であった。
「、、、、」
「、、?どうかした?」
東条さんがじっとこちらを見つめてくる、あまりちゃんと顔を見たことがないので少しだけドキドキしてしまう。
「あんたって意外と顔立ち整ってるわよね」
「そう、?あんま言われないけどね」
「まあ前髪で目が隠れかけてるからダサいけど」
「うぐ、、」
褒められて貶されて柊人はよく分からない感情になった。
「そういえば東条さんって星子さんと仲良いんだね」
星子さんとは、実験の時に東条さんの隣にいたギャルだ。
「ええ、中学からの友達だわ」
「意外だな、ああいうキャピキャピした女子とはあんまり仲良くしないのかと思ったけど」
「あの子もゲーム結構やってるから、それで仲良くなったのよ」
「へぇーそうなんだ」
(あんな感じの人でもゲームするんだな)
ギャルって言うのはあまりゲームをするイメージがないので少しばかり意外だった。
「距離の詰め方ちょっとおかしいけど、、まあ悪い子じゃないから、仲良くしてあげて」
「いきなり柊人っちって呼ばれたからちょっとビビっちゃった」
「ギャルってあだ名つけたがるわよね、私は友達のことは普通に名前で呼ぶけど」
「東条さんは解釈一致だね、そんな感じする」
「てかさ」
「ん、なに?」
「なんで同い年なのに苗字にさん付けなの?」
確かに、同い年にしては呼び方に距離があるような気はするが、東条さんの圧がすごいためなんか苗字呼びしてしまう。
「じゃあなんて呼んだ方がいいの、?」
「普通に名前で呼べばいいでしょ」
「涼香、、さん、、?」
「だからなんでさん付けなの?」
「あ、ごめん、、涼香、、?」
「うん、それでいいよ」
「おそれいります」
そうして柊人はこれから東条さんのことを名前で呼ぶことを半分強制された。
「それにしてももうすぐ期末テストね、、」
「ああ、そうだな」
「赤点は取らないようにしないといけないわ、、」
「ああ、そうか」
そういえば涼香は赤点を取ったらゲームを没収などの罰が課せられている。ゲームが好きな涼花にとってゲームの没収は死活問題らしい。
「まあでも今の出来栄えだったら赤点はないと思うぞ?割とちゃんと解けてるし」
「そう、、?それならいいんだけど、、」
確かに高得点を取れるほどではないが、からといって赤点を取る程酷くはなかった。
「苦手な部分は大体教えれたし、あとは復習するのみだよ」
「そうね、、頑張るわ、、」
「ああ」
「ちなみにあんたはどんくらいの点数取れそうなわけ?」
「まあ全教科満点取れたらいいかなってぐらい」
「、、???そんな平然とした顔で言うことじゃないわよそれ、、」
涼香は呆れ顔でそう言った。
「まあ家庭教師をしてるんだから、そんぐらいは出来ないと」
家庭教師をしてるにあたってわからない問題なんてものは無くさないといけない。なので柊人は常に満点を取れるように勉強を重ねている。
「それにしてもあんたはなんで一人暮らししてこのバイトを始めたわけ?なんか理由でもあるの?」
「俺ん家母子家庭だけど、母親もほぼ家に帰って来ないし、帰ってきても喧嘩ばっかりだから埒が明かないから一人暮らしすることになったって感じだよ」
「そうなのね、あんたも色々大変なのね」
「まあ慣れたけどなもう」
小さい頃からずっとそんな感じなのでもうとっくに慣れている。なんなら母親と別居できて嬉しいぐらいだった。
「でもこのバイトが無くなっちゃうと結構生活は厳しくなっちゃうな、仮に東条さ、、涼香が自分で勉強できるようになったら俺は要らなくなるわけだし、、」
普通のバイトでは家賃プラス生活費などを稼ぐのは学生には少しばかり厳しい。なのでこのバイトが無くなってしまうことは柊人にとっては死活問題だった。
「まあ安心しなさい、当分家庭教師をつけさせて貰うつもりだから、どうせ1人でやろうとしてもわかんないしやる気出ないしだから、一応割と助かってはいるわ」
「そう、?それなら良かった」
涼香の一言に柊人は安堵した。
「じゃあ今日はちょっと早いけどここら辺で帰ろうかな」
まだ2時間ほどしかやっていないが、涼香が元々進めていたので今日は割と早く終わることができた。
「、、、、」
「どうした?」
涼香が一点を見つめていた。その目線の先にはゲームがあった。
「どうせなら少しだけ遊んでいけばいいのに、、」
「!!!」
悲しげな顔でいきなりそんなことを言われて柊人は思わず心を撃ち抜かれそうになった。
「いいよ、ちょっとだけ遊んでいくよ」
「ほんと、、?やった、、!」
涼花は少しばかり微笑んだ。
(あ、笑ってる、初めて笑ってるとこみたな)
今までは無愛想で笑顔など全くなかったが初めて見せてくれた笑顔に柊人は少し嬉しくなった。
(ちょっとずつ仲良くなれてるんだな)
そう思い、コントローラーを握り鈴鹿とゲームをし始める柊人であった。