介護
「はあーーーつらい」
平日の昼間、学校なのだが柊人は自宅で寝込んでいた。
「風邪なんて久しぶりにひいたな」
実は風邪をひいてしまい熱も39度ほどあるため学校を休んだのだ。
「家庭教師の日だってのに、、最近疲れてたのかな、、」
たしかに環境も変わり更に涼香の家庭教師もしていたのでどうやら疲れが溜まっていたようだ。
「まあいいか、もっかい寝よ」
起きててもすることもないのでとっとと治すために柊人は再び眠りについた。
「うーん、、、重い、、、」
しばらく眠りについた柊人はなにかの重みを感じ目を覚ました。
「んー、、女の子、、?、、、って女の子!?!?」
目を覚ますと床に座っている女の子が柊人にもたれかかって眠っていた。
「おい涼香!なんでお前俺ん家にいんだよ!」
「うーん、、、あとごふん、、、」
そこにはなぜだか完全に寝ぼけている涼香の姿があった。
「あと5分とかじゃなくて!いいからとりあえず起きろ!」
「んー、、?あらおはよう、起きてたのね」
涼香は柊人の姿を確認して目を覚ました。
「あらおはようじゃねえよ!なんで俺ん家に入ってきてんだよ!」
「なんでって、鍵がかかってなかったからよ」
涼香はまるで「何言ってんのあんた」みたいな顔をして言った。
「そういう問題じゃねえよ!そもそもなんで入ってきてるんだよ!んでなんで俺ん家知ってんだよ!」
もちろん涼香に自宅を教えた記憶もないし、家に招き入れた記憶もない。何故ここにいるのか意味がわからず柊人は頭がこんがらがっていた。
「連さんが柊人の状況を見に行ってきて欲しいって言われたのよ、住所も教えてくれたわ」
「いやまじでなんで!?てかあいつ何勝手に人んち教えてんだよ!」
連は何度か招き入れたことがあるので場所は知っていたのだ。
「ほら、そんなに暴れると悪化するわ」
「誰のせいだと思ってんだよ、、」
「ほらそんなにカリカリしないで、薬に飲み物とゼリーとかも買ってきたから、良かったらどうぞ」
「え?ああ、ありがと」
予想外の差し入れに驚きつつも、柊人は早速ゼリーを嗜んだ。
「うん、おいしい」
「そう、それは良かったわ」
(いやなんなんだこの状況は)
落ち着いても結局よく分からない状況に柊人はまだ困惑していた。
「調子はどう?少しは良くなったかしら?」
「まだ熱はあるな、体もだるいし、まあでも良くなってきてはいるな」
「そう、よいしょっと」
「うお!?」
涼香は柊人に近づきおでこに手を当てた。
「ほんとね、まだ熱はあるわ」
「おい、あんまり近づくなよ、」
「あら、もしかして照れてるのかしら?」
涼香は悪い微笑みをした。
「そうじゃなくて、うつるだろ風邪が」
「うつったらうつったで学校休めるし、あんたの風邪も吸収できるからwinwinね」
「吸収って、、自分の風邪がうつってお前が寝込む姿なんて俺は見たくねえよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
「当たり前だろ、人に風邪がうつって嬉しいやつなんているわけないだろ」
風邪をうつして嬉しいことなんてこの世で最も嫌いな奴にうつったときくらいだ。それ以外でうつしてしまうと罪悪感で死んでしまいそうだ。
「じゃあ、俺もっかい寝るから、もうかえっていいぞ」
「あら、じゃあ寝るまで待機してるわね」
「いやなんでだよ、いてもなんもすることもないだろ、、」
「じゃあ、、よいしょっと」
「いや、は?」
涼香は柊人の頭をなでなでし始めた。
「お前マジでなにしてんの、?」
「何って、、頭を撫でているのよ?」
「それはわかるわ!なんで頭撫でてんだよ!」
「あら、真凜に男が寝ている時は頭をなでなでしてあげると安心して眠りにつくって言われたのだけれど?」
「入れ知恵かよ、、真に受けんなよそんなの、」
「あら、私のなでなでじゃ安心できないかしら?」
「そういう事じゃなくて、、もういい勝手にしろ、」
柊人は頭がもう回らなくなってきたため思考を停止した。
「あら、じゃあ勝手になでなでしておくから存分に満喫して安眠してもらって構わないわ」
「あっそ、、」
考えるのを諦めた柊人は目を閉じて睡眠モードに入った。
(ああ、、悪くないなこれ、、)
以外にもなでなで効果は出てきており、柊人はすぐにでも寝てしまいそうだった。
「ふふ、寝ちゃったかしら」
(、、、)
「かわいい」
(!?)
涼香の突然の言葉に柊人は思わず声を出してしまいそうになった。
「よいしょっと、私もそろそろ帰ろうかしらね」
そう言い残し、涼香は柊人家を後にした。
(なんなんだ!?今日のあいつなんかおかしいぞ!?)
いつもより素直な涼香に柊人は思わず心臓の鼓動が速くなっていた。
(まあでも助かったな、、)
やり方はどうあれ差し入れはだいぶ助かったのでありがたくはあった。
(んじゃ、ちゃんと寝るか、、)
そうして柊人はまた眠りについた。
「お!柊人治ったのか?」
「ああ、おかげさまというかお前のせいというか」
しっかり介護(?)してもらったおかげか、次の日には柊人の体調はすっかり元通りになっていた。
「ん?なんのことだ?」
「いやとぼけんなよ、、お前涼香に俺の家教えただろ」
「ありゃ、バレちゃったか」
「バレちゃったも何も、俺ん家知ってんのお前しか居ないからな」
「東条さんが心配そーにしてたからさ、本当は俺が行こうかと思ったんだけどバイトだったからせっかくなら東条さんにお願いしようかなって」
「いや別に無理して来なくていいんだけど、、」
「おいおい、あんな美人が介護してくれるなんてそうそうある機会じゃないぞ?むしろご褒美と思ってくれよ」
「要求してないご褒美を勝手に用意するな」
「あ、柊人っち!治ったんだ!」
「あら、おはよう」
連と戯れているところに涼香と真凜が登校してきた。
「ああ、誰かさんのせいで治ったな」
「あら、誰のせいかしら」
「そうだ!柊人っちちょっとこっちきて」
「ん?なんだ?」
柊人は真凜に呼び出され、耳を貸した。
「涼香のなでなでどうだった?」
「いやはい!?」
真凜が小さな声で言った言葉に柊人は思わず驚いた。
「なでなでされたでしょ?どうだった?」
「いやどうだったとか言われても、、」
「涼香は『気持ちよさそうに寝てた!』ってウキウキだったよ?」
「あ、はいそうですか」
(本当は寝てなかったんだけどな)
涼香が帰るまでは普通にずっと起きていたし、涼香が漏らしていた言葉も全て聞いていた。
(かわいいって、どういう意味だったんだろうか、)
あの時は体調が悪くて深く考える余裕がなかったが、今考えると何がかわいかったのかほんとによく分からなかった。
(まあ別にそんな深い意味は無いか)
恐らくよく女子が軽く言うかわいいと変わらない意味なのだろう。
「お〜い、柊人っち生きてる〜?」
「ああ、ごめんごめん」
2人は話が終わったので涼香たちの所へ戻った。
「なんの話をしてたわけ?」
涼香はどうやら何を話していたかが気になるようだ。
「ん〜、涼香っちは可愛いよねって話をしてたんだよ?」
「は、?そんな話してたわけ、?」
「いやしてないわ!変な嘘つくな!」
「え?じゃあ涼香っちは可愛くないってこと?」
「そんなことも言ってないわ!まずそう言う話をしていない!」
「は?ほんとにそんなこといってたわけ?」
「言ってないわ!お前が可愛くなかったら世の中の人間ほとんど可愛くないだろ!」
「は、、!?な、何言ってんのよ!!」
「あ、涼香っち照れてる!」
「うるさいわ!照れてなんかないわよ!」
涼香はそっぽを向いてしまった。
「おふたりさん仲良しだねえ」
「うるさいお前は1回黙れ」
「おっふ」
野次を飛ばしてくる連に対して柊人は言葉のジャブを入れた。
「まあでもありがとな、でも今度からちゃんとピンポン押してくれよ」
「まずあんたはちゃんと鍵閉めなさいよ、、」
「あ、たしかに」
涼香に冷静に突っ込まれる柊人であった。