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最終話 再臨

 その少女は逃げていた。自らの命を狙う者達から。わき腹の傷を抑えながら、バイクと呼ばれる魔道具を走らせている。

 非常に高価ではるが、馬よりも速く静かに移動出来る優れモノだ。


「はあっ、はあっ」


 幼い頃から孤児であった彼女の名前はミア。孤児院の院長が優しい女の子に育つ様にと、かつての聖女からその名前を拝借したのが名付けの理由である。

 そんな彼女は10歳の頃に女神サフィラによって聖女に任命され、15歳になる現在まで聖女として生活して来た。

 ハルワート大陸中を周って人々を助け、サフィラの教えを世界に広めている。そんな彼女は順調に聖女の仕事をこなしていたのだが、ある日周囲に妙な変化が起きた。

 急に周囲の人間達が、偽物の聖女だと言い始めた事だ。何故そうなったのか不明であり、サフィラに回答を求めても連絡が取れない。

 遂には本格的に命を狙われ始めてしまったので、追手を牽制しながら急いで国を逃げ出す事にした。


「くっ……どうして治らないの!?」


 聖女は強力な回復魔法と支援魔法が使用可能だ。しかし何故か、ミアを襲った者達に付けられた傷は治ってくれない。

 細かい切り傷はともかくとしても、わき腹の傷はそれなりに深い。このままでは血を流し過ぎて死んでしまう。

 それまでにどうにか、逃げ切らないといけない。サフィラを頼れない今、ミアが唯一頼れるのは聖女が代々受け継いで来た伝承だ。

 どうにもならない困難に直面したら、魔都アニスの王城へ行け。恐ろしい神が封印された土地に行ってどうしろと言うのか、ミアには良く分からない。

 だがもうそれぐらいしか、孤児であった彼女には頼る先がないのだ。まさか孤児院に危険な人物達を連れて帰る訳にはいかない。


「王城ってあの建物、よね?」


 草木が生い茂り、立ち並ぶ古い民家がツタで覆われた無人の廃都。この一帯は強力な魔物が多く生息しているので、追手達も慎重にならざるを得ない。

 それは同時にミアも危険という事になるが、無理に魔物を倒そうとしなければ問題はない。

 大体何故か自分の魔法が通じない襲撃者達よりも、確実に何とか出来る魔物の方が遥かにマシだ。

 それに魔道具であるバイクの静穏性は非常に高く、思いっきり走らせても魔物が集まる事は無い。


 どうにか追手から距離を取れたらしく、今の内にとミアは王城へと向かう。誰も住む者がいないかつて国だった地。

 その王城に向かって一気に進んだミアは、バイクで城に飛び込んだ。大きな窓ガラスを割って侵入したのは、どうやら騎士団の控室らしい。

 武具を立て掛ける為の古びた棚には、錆び付いた武器が乱雑に立て掛けられていた。


「入れはしましたが、ここからどうすれば……」


 王城へ行けと言われていただけで、その後どうすれば良いのか分からない。あてもなく動き回るにしては、少々広すぎる場所だ。

 かつては大陸一栄えていたと言われているだけあって、城の広さはかなりのものがある。

 単なる冒険としてゆっくり遊びに来たのであれば、全室を見て回れるだけの余裕がある。しかし今は負傷しており、今も血が流れ落ちている。

 それに追手までいるのだ、のんびり調べて回る余裕はない。先ず行くならば重要そうな場所だろうと、行先を絞る事にした。

 幸いにも王城は広い為に、バイクのままで移動出来るのが救いだろうか。今から徒歩で歩き回っていたら、無駄に血を減らして死が近付くだけだ。


「ああ、もう! どこに行けば良いのよ!?」


 宝物庫や食堂など、それらしい所に行ってみたが収穫はない。あと残されているとするならば、王族が居る様な場所だろう。

 謁見の間や玉座の間、王族の寝室などの場所を探す事にしたミアは更に探索する範囲を広げる。

 階段をバイクであがる振動で、傷口が痛んでミアは眉をしかめる。それでも一縷の望みを託して先へと進む。


 王城の中はかつての戦いの跡がそのまま残っていた。到着した謁見の間は、扉が吹き飛んでおり中も滅茶苦茶だった。

 どこからどう見ても明らかな外れである。朦朧とする意識の中で、最後の望みを託して更に奥へと進む。

 だが玉座の間に到着する直前で、彼女は操縦を誤り転倒してしまう。廊下を転がったミアは、輝きを放つ金色の鎖が巻かれた扉に激突した。


「ぐっ!? はぁ、はぁ、誰……か……」


 意識を失いそうになっているミアは、上体を起こそうと血に塗れた手で鎖を掴んだ。すると鎖は眩い光を放って鎖は掻き消えた。

 その数秒後には、扉の奥から悍ましい気配が漂い始める。体の芯まで冷やされるかの様な、途轍もない威圧感が周囲に放たれている。

 自分は何かいけない事をしてしまったのかと、ミアは激しい後悔を覚える。助けを求めに来た筈が、余計にややこしい事をしてしまったのだろうかと眩暈がした。

 今にも死にそうな体に追手達、そこへ新たな存在の登場に生を諦め掛けたミアの前に、2人の男女が現れる。


「あら? 何だか身に覚えのある状況ですわね?」


「イリアがまだ子供だった頃を思い出すな」


 真っ黒なローブを着たスラリと高い背丈の男性は、どこか病的に見える銀髪の美丈夫だ。

 そして女性の方は、真っ赤なドレスを着た漆黒の黒い髪の持ち主である。絶世の美女という言葉が良く似合う美貌と、特徴的な深紅の瞳。

 その姿はこの世界で非常に有名なとある神の容姿と一致している。そんな女性は瀕死のミアを見て、何かをしたのか漆黒の光が迸りミアの傷が癒えていく。

 そんな状況に驚きつつも、ミアは目の前の2人が何者なのか理解した。自分が解放した存在が何という名を持つ存在か、今更考えるまでもない。


「邪神アルベールと、災厄の女神イリア……」


「ええそうですわ。それで、何か用があって来たのでしょう? 聖女のお嬢さん?」


 復活した伝説の邪神と、破壊の女神はニヤリと笑ってミアの方を見ていた。




               ~完~

 という訳で華麗なる暴君はこれにて完結となります。

 元々20万文字ちょいで100話程度の作品として予定しておりました。

 凡そ予定通りに書き切れはしたのですが、完成度としてはやや不満も残ったかなと。もう少し書き方があったのではないか? と感じる部分も幾つかあります。

 こいつ結局何がしたかったの? と全く伝わらない程ではないと思いますが、伝えきれていなかった部分もあるかと思います。


 例えばちゃんと魔法名とか考えた方が良かったのだろうか? いやでもアクションメインの作品でもないしなぁ? とかも未だに悩んでいたりします。

 それからイリアとアルを除くと、次点でお気に入りなのが脳筋おバカなマリオンなのですけど、もうちょい活躍させても良かったかなとか。

 ただまあそれでも期限は決めて守らないとグダって冗長になりかねないしと、余計な念は捨てて突っ走りました。


 敢えて今まで明かして来なかった、この作品を書き始めた理由があります。それは「なろうが女性向けに染まってオワコン化した!」と言う意見を不愉快に思ったからですね。

 私は丁度昨年11月頃にそう言う意見や揉め事を見て、そんな事はないだろうと。私は男性ですけど、女性向けも好きなんですよね。

 なろうで好きな作品TOP10を挙げろと言われたら、その枠は全部女性向けで埋まります。だからこう、そんな反発心が原動力になっています。

 アルファポリスの第18回恋愛大賞にも同じ作家名で、この話とは真逆の甘々系作品を書いていたりもします。


 もちろん悪側のお話がもっと増えて欲しいなと思ったのもあります。私はイリアみたいなラスボスと共に封印されたり退場したりする悪女が好きなので。

 完全に性癖とか趣味の話になってしまいますけどね。そんな私の理想のタイプはエイダ・ウォンです。良いですよね、ああいう格好いい女性。

 後はFF14のヨツユ様とか大好きですね。強くてカッコイイ女性が活躍する話は大好きです。その散り様も含めて。鮮やかな退場も美しいなと。


 そんな理由もあって、最初は2人が死ぬエンドで考えていたんですよね。ですが書いている途中で、いや、この方がイリアっぽいか? と考えてこの終わりにしました。

 どちらが正解だったのか、好みは人によると思いますが如何でしたでしょうか? 少しでも面白いと思って頂けたのなら幸いです。


 これ以降に書く女性向けですが、春ぐらいにネトコンに合わせて明るい異世界恋愛系作品をアップするつもりです。今度は普通にラブコメな感じで。

 ダークファンタジーはちょっとまだ荷が重かったかな? というのが自分なりの評価です。やはりまだまだ得意分野で書いて経験値を貯めようと思います。

 まだ書き溜めすら3話程度で走り書きレベルですので暫く時間を空けます。あと、正直数作掛け持ちはしんどい(笑) めっちゃ大変でしたよ本作含めて4作品平行してましたから。

 なので少しペースを落としてゆっくりしようと思います。私、3月11日で1周年なんですけど現時点で130万文字書いてるんですよね。ちょっとハイペース過ぎたかなと。

 そう言いつつも2周年には目指せトータル300万文字を掲げているのですけども(笑)


 あんまり長くなるのもアレなのでこのぐらいで締めようと思います。こんな1話目から首チョンパで始まるクセの強い作品でしたが、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 また何かしらの作品で縁が出来た時は、また宜しくお願い致します。それでは本当にありがとうございました!

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