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第94話 歴史と考察

 魔都アニスと呼ばれるかつて国だった土地がある。それは500年ほど前に女神サフィラと対峙した2柱の神が封印されている場所。

 古の邪神アルベールと災厄の女神イリアが眠る地と言われており、誰もその地には近付こうとしない。

 2柱の悪名高き邪神達から漏れ出た魔力の影響で、その周囲は強力な魔物達で蔓延っている。


 かつて中央都市があったとされている場所は特にその影響が濃く出ており、廃墟と化した街には人類は一切暮らしていない。

 200年前に調査に行った学者の話では、廃墟になっているのに街そのものはまだ綺麗なままだったと言う。

 まだイリアが女王だった頃に齎した数々の技術により、都市機能自体は生きていたと報告されている。

 しかし500年経った今となっては、その状態が維持出来ているのかは不明である。


 当時は厄災の魔女と呼ばれていたイリアであったが、何年もの月日が経つ間に災厄の女神と呼ばれる様になった。

 それについては諸説あり、今も呼び方が変わった正確な理由がはっきりとしていないまま。

 元々彼女の治める王国で暮らしていた人々から、厳しくも素晴らしい女王だったと証言があったとされる説がある。


 彼女はあくまでこの世界を守ろうとしただけに過ぎず、苛烈ではあったが女神として相応しい仕事をしていたという話だ。

 それによって女神として改める流れが出来たという説である。しかしその真逆をいく証言も残されており、残虐で非道な侵略者だったという説も残っている。

 そんな彼女については、未だに議論されている問題があった。それは聖女ミアとの関係性についてだ。


「サフィラと同様に敵対していたと考えるのが妥当では?」


「しかし頻繫に会っていたという記録が残っているぞ」


「会っていたからと言って、友好的だったとは限らないだろう」


 悲劇の聖女ミアと災厄の女神イリアの関係性は、歴史学者達の間で毎度意見が分かれている。

 ミアはイリアを諫める立場にあったという説、敵対していたから聖王国サリアを消滅させたという説。

 親友だったからこそ、ミアを殺されて怒ったという説と様々な見解が学者毎に生まれている。


 最早当時の事を知っているのは女神サフィラしかおらず、真相は彼女の記憶にしか残されていない。

 そして歴代の聖女達がその事について尋ねても、ばつの悪そうな表情をするだけだと言う。

 聞いてはならない類の話題らしく、聖女達には代々その話が語り継がれている。


 災厄の女神イリアについては今でも様々な議論がされており、その正確な情報は今では分からなくなっている。

 女神になるよりも以前から異常な強さを誇っていたと言われていたが、現在ではそれは有り得ないだろうと否定されている。

 300年前までは単独でドラゴンを倒せるだとか、聖王国サリアを消滅させた時点ではまだ神では無かった等と言われていた。

 しかしそれは明らかに人間に出来る範疇を超越しており、とても20代の若い女性に出来る事では無かった。

 その為現在では、それらは全て女神になってからの話と間違えられていたという解釈が一般的である。


 反面彼女が世に生み出した魔道具については今でも正確に語り継がれており、その才覚については非常に有名であると言える。

 彼女が封印されてしまうまでの間に、様々な魔道具が旧アニス王国から出荷されている。

 それらの多くは彼女が考案した品々であり、かつてのアニス王国の紋章が刻印されている。

 それらは500年経ってもちゃんと使用する事が出来る優れモノで、アンティークとして非常に高い価値を持っている。

 その中でも特に高価なのは、イリアが自ら作ったとされている品だ。


 彼女の暴君としての姿や、災厄の女神としての恐ろしいイメージは全く払拭されていない。

 だがそれでも、オークションなどではとんでもない価格が付いている。かの女傑が作った物であるならばと、欲しがる収集家は多い。

 イリア製の魔道具を所持しているのは、それだけでステータスになる程だ。


 彼女が残したアイデアの数々は、現在の製品にも受け継がれている。派生品が大量に生まれており、世界の発展という点においての貢献度は非常に高い。

 昔はイリアの作品を忌み嫌う者も居たと言われているが、今となってはそんな者はどこにもいない。

 むしろ魔道具開発者の間では、稀代の天才と今でも崇められている。そんな魔道具開発に関しては、昔からとある噂が流れている。


 それはイリアの生み出した技術を使用した魔道具に、アニス王国の紋章を刻印しないと災厄の女神に呪われるというもの。

 本当かどうかは怪しい所ではあるが、実際にそれで酷い目にあった商人や開発者が何人もいるらしい。

 偶然ではないかと考える者が多かったが、そんな噂も時が経つと伝承となり習慣として定着した。

 今ではその刻印がアニス王国の紋章だと知らずに使用している者達も大勢いる。


 そんな様々な逸話のある災厄の女神イリアは古の邪神アルベールの妻であり、基本的には恐ろしい神だと思われている。

 言う事を聞かない子供には、災厄の女神に食べられる等と脅し掛けるのは今では通例である。

 恐怖の象徴でもありながら、魔道具開発の発展へと貢献した才女としての評価もされている。

 それが現在におけるイリア・アニス・ハーミットという女性に対する世間の認識であった。

明日の更新で最終話となります。

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