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第90話 英雄アクセル

 聖王国サリア消滅から暫くして、アニス王国から今回の事件について正式な発表がハルワート大陸中の国家に向けて行われた。

 その内容は転生者騒動から始まる全ての真実が記録されていた。そして聖女ミアが別世界の神に謀殺されてしまった事についても言及されていた。

 良き友を失った女王イリアは、サフィラのやり方では甘く同じ様な事が起こった時に対応しきれないと判断。


 また自分も甘かったという自責の念から、二度とこんな事が起きない様に強き世界を作る事を同時に宣言した。

 それと共に聖王国サリアを消滅させたのは自分であり、その後別世界の神を倒しその力を得た事についても発表された。


 そんな驚愕の内容が公表されてから数週間後、新たな神となったイリアは邪神アルベールとの婚姻を結んだ事を報告する。

 またしても大陸中を揺るがす発表だったが、イリアの活動はそれだけには留まらなかった。

 サフィラの守護ではなく、イリアとアルベールの守護を望む国家を募り始めた。同盟国となった国は存続を認めるが、そうではない国は敵国と見做すと宣言。


 これにすぐさま同調したのは海洋国家ルウィーネと、魔族の国グライアだった。別世界関連の異変に関して、直接関わった事が大きな決め手だった。

 当然受け入れない国も多く、それからは大陸中を巻き込んだサフィラ派とイリア派に分かれる大戦へと発展していく事になる。

 そんな激戦の時代に突入してから10年の月日が流れた。


「アクセルさん頑張って!」


「頼んだぜ、英雄さんよ!」


「災厄の魔女を倒すのはアンタだって信じてるぜ!」


 かつて幼いただの少年に過ぎなかったアクセルは今や、英雄と呼ばれる傭兵となっていた。

 エレナの異能があったお陰で、かなりの速度で急成長した彼は各地を回って人々を助け続けた。

 信頼を勝ち得て行く間に、次第にアクセルは有名になっていった。そして今では災厄の魔女イリアを倒すのは、この英雄アクセルだとあちこちで噂されていた。

 強行な姿勢で大陸統一を目指すアニス王国のトップ、その悪名高き魔女を倒して欲しいと願う人々は多い。

 彼女が打ち出した政策はどれも弱者には厳しいものばかり。とてもではないが着いていけない、そんな国々や人々は大勢いた。


「ああ、皆ありがとう!」


「ほら行きましょうよアクセル」


「分かってる、次の街へ向かうぞ」


 アクセルを中心とした傭兵団、『希望の光』はアニス王国軍と戦う戦場を渡り歩いている。

 苦戦している土地があれば積極的に参戦し、不利な戦況を何度もひっくり返して来た。今回も危うい所だった戦線を押し戻して無事生還している。

 彼が助けた命は数えきれない程多く、勇者に任命されるのではないかとまで囁かれている。

 歴史によればかつて存在したという伝説の戦士。あの邪神アルベールを打倒したのが勇者だと言われている。

 そんな存在になれば、アクセルは更に強くなるのは間違いない。そうなれば今まで以上に多くの人々を救えるだろう。

 だが今は先ず休息の時だ。傭兵団の馬車に揺られながら、アクセルは体を休める。


「ねぇ、本当に勇者に選ばれるんじゃないの?」


「そんな訳ないだろ、俺の父は犯罪者だったのだから」


「そんなの関係ないって~」


 英雄と呼ばれる様になったアクセルは、当然ながら非常にモテている。元々容姿に優れていた事もあるが、やはりこの戦乱の時代において強者だというのは大きい。

 今や大国の王子程の人気を博している為、彼と結ばれる事を目的に『希望の光』に参加する女性が増えている。

 普通ならばそんな恵まれた環境にありながら、アクセルは満足していなかった。いや、満足出来なかったという方が正しい。

 どんなに美しい女性と一夜を共にしても、満たされる事はない。どうしても何かが足りない。

 そんな時に決まって思い浮かぶのは、かつて中央都市ファニスの路上で言葉を交わした女性。憎んでいる筈のイリアの顔だった。


「ね、次の街に着いたら一緒にお風呂入らない?」


「いやそれは…………別に良いけどさ」


「やった! 絶対だよ!」


 そんな筈はないと、その事に気付いた時からずっと否定し続けてきた。自分が抱いているのは恋愛感情などではなく、父親を殺された憎しみなのだと言い聞かせる。

 そうして女性と関係を持っては、同じ事の繰り返しだ。次こそは大丈夫だと、新たな女性との関係を結ぶ。

 だが結局は上手く行かず、アクセルは結婚まで至れた事が無い。今年で19歳を迎えるアクセルだったが、そんな日々の繰り返しが彼を密かに苦しめていた。

 大人になったからこそ、理解出来た様々な事実。父親が犯罪者であったのは変わらない事。

 何だかんだ言っても、アニス王国は栄え続けていっている事。もうアクセルは幼い頃の様に、頭ごなしにイリアを否定する事が出来なくなっていた。


「災厄の魔女、か」


「どうしたのアクセル?」


「いや、何でもないよ」


 複雑な感情を抱いているアクセルは、この数年後にサフィラから正式に勇者として任命を受ける事になる。

 もちろんアクセルは悩んだけれど、サフィラの目的がイリアを殺す事ではなく止める事だと知り最終的には合意した。

 昔の様にただ怒りをぶつけるだけでなく、ちゃんと話してみたくなったのだ。何故こんな事をしているのか、どうして貴女はそう強者に拘るのかと。

 自分の中にある感情に整理を付ける目的も兼ねて、アクセルはイリアと対峙する道を選ぶ。

95話で完結する予定です。93話までは一旦書き上げています。

何とか初期の構想から大きく外れる事なく終わらせられそうです。

もう少しだけお付き合い下さい!

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