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第87話 怒れる暴君

※グロ系の表現があります

 聖王国サリアの国境付近、その上空にイリアとアルベールが居た。親友であるミアを殺された怒りと憎しみが、殺意となってイリアから漏れ出ている。

 これまでの人生で、ここまでイリアが怒りを顕わにした事はない。両親に捨てられて時だって、悲しみはすれど憎しみは抱かなかった。

 成長して行く過程で強い怒りや憎しみも抱いたが、結局は取るに足らない相手だと分かると何も感じなくなった。


 イリアに嫌がらせをした貴族達への興味など、あっと言う間に無くなったぐらいだ。

 あまりにもイリアとの実力差が有り過ぎて、羽虫と変わらない存在にしか映らなかった。

 だが今回は違う、イリアが持つ数少ない大切な存在を無惨に奪った相手だ。見逃すつもりなど一切ない。


「ミアを殺す国など、この世界に必要ない」


 そう言うとイリアは、力の全てを解放する。突然発生して膨大な力の発露により、地上に居る動物や魔物が恐怖に怯えて、あちこちへと逃走を始めている。

 人類を超えドラゴンすら容易に葬るその力が、イリアを中心に渦巻いていく。周辺の街に暮らしている者達は、上空に浮かぶ不思議な光景を目の当たりにした。

 アルベールの影響を受けて邪神の眷属となったイリアの、闇の様に深い漆黒の魔力が可視化出来る程に濃く凝縮されて行く。

 真昼の空に突然現れた漆黒の球体。それは繭の様にイリアを包んだ魔力の塊。何が起きているのかと人々が上空を見上げている中、遂にその力が解放された。


「爆ぜなさい」


 今までこの世界で、誰も見た事がない大規模な爆発が起きた。それはイリアが別世界の知識を得た事で改良された特別な爆発系魔法。

 既存の魔法を遥に凌駕する範囲と威力を誇るその魔法は、遠く離れた国々からも観測出来た。

 あまりの規模と威力に、直接攻撃を受けていない周囲の街にも爆風による被害が出た程だ。

 これはイリアが知った知識、爆弾やミサイルと言った地球の兵器群による影響を受けた魔法だ。


 魔法知識と科学知識が合わさった事で、人が放って良いレベルを超越した魔法が生まれてしまった。

 その光景は神の怒りと一時期噂されたほどだ。あまりに巨大な爆炎と真っ黒な煙。太陽が地上に落ちたのかと錯覚させる程の巨大な爆発であった。

 この魔法により聖王国サリアは丸ごと地上から消え、巨大な破壊の跡だけがクレーターとして残った。

 この一撃は後に厄災の魔女と呼ばれる様になる、イリアの象徴的な魔法である。


「まだ生きている様だ」


「むしろその方が好都合ですわ」


 アルベールの転移により聖王国サリアの王都メリアスがあった辺りへと向かう。本気で怒っているイリアは、サフィラも巻き込むつもりだった。

 しかしこの地には居なかったらしく、それについては断念した。だが一番の目的である相手がまだ居る事は確認済みだ。

 これまでの歴史上には記録が無いない規模の巨大なクレーターには、1人の女がボロボロになりながらも立っていた。

 その女はもちろん別世界の神エヴァである。分身体とは言っても神は神。一点に威力を集中させた魔法では無かった為に、何とか耐えきったらしい。

 それでもかなりのダメージを負ったらしく、エヴァの分身体は見るも無残な姿である。


「やってくれたなぁ」


「本当に下らない存在ですね。あの時に始末しておくべきでした」


「ひっ、ひひははは! どんな気分だぁ? なぁイリア?」


 ボロボロの満身創痍でも、イリアに嫌がらせが出来た事で勝ち誇るエヴァ。明らかに怒っているイリアの姿を見ただけで、エヴァは歓喜を覚えた。

 ケラケラと笑いながら、イリアをせせら笑う。記録していたミアへの暴行シーンを映像として空中に映し出し、イリアに向かってミアへの暴言を浴びせかける。

 馬鹿な女だったと、何も出来きない無力な女だったと。お前のせいで哀れにも死んでしまったのだと、ただ憎しみだけを原動力にエヴァは嗤い続ける。

 そのあまりにも醜い姿を、イリアは全く感情のない目で眺めていた。


「ざまぁねぇなぁ! あははははぐえっ!?」


(わたくし)が甘かったのだと気付けました。今ならアルの気持ちが良く分かります」


「ぐぎぎぎぎぎぎぎ」


 片腕で喉元を掴まれたエヴァは、長身のイリアによって空中に持ち上げられた。腕力も十分強いイリアの拘束を、エヴァは振りほどく事が出来ない。

 続いて小規模の爆発魔法によりエヴァの手足は吹き飛ばされ、胴体だけになったエヴァの分身体をイリアは雑に放り投げる。

 無様に地面を転がったエヴァに向かって、イリアは重力魔法を発動する。先程の超広範囲魔法とは違い、今度は一点に特化した高威力の魔法だ。

 エヴァの分身体には、じりじりと高い圧力が掛かっていく。ただでさえ手足を失って動けないというのに、容赦なくイリアは威力を上げていく。


「下劣な害虫に相応しく、潰れて死になさい」


「あっ……がっ……」


 最早まともに声すら発せられないエヴァの分身体は、負荷により徐々に地面へとめり込んで行く。

 クレーターの中に新たなクレーターを作りだし、更に深く分身体は沈んでいく。肉体が潰れていく音とともに、エヴァは地面のシミとなった。

 幾ら神の分身体と言えども、高負荷の重力により圧縮されれば耐えられない様だった。


 その瞬間エレナの異能を研究して作られた魔道具の効果により、イリアは神の力の一端を吸収する事に成功する。

 それに気付いたイリアとアルベールはとあるプランを思い付くが、次の瞬間にはサフィラにより次元の狭間へと強制的に転移させられた。

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