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第83話 諦めの悪い男

 魔族領で発生していた魔素の異常は、大体1週間程で解決する事になった。誰もやった事のない作業であった為に、霊峰エルレーネでの調整作業に時間が掛かった。

 要求された作業内容は、地下深くを巡っている魔素の調整だった。正確には魔素の泉とも呼ぶべき場所から、地表に湧き出る魔素の排出量を調整するというもの。

 単に蓋をすれば良いというだけではなく、微妙な匙加減が必要だった。その作業をやった事がないアルベールとイリアは、序盤に結構な苦戦を強いられた。

 理解してからはトントン拍子で作業が進み、他の地域の異常も解決。魔族領に滞在する意味はこれで無くなった。


「まあなんだ、助かったぜ今回は」


「魔王に感謝される日が来るとは思いませんでしたわ」


「全くだねぇ、変な気分だよ」


 1週間という短い期間とは言え、魔族と人族が協力するという不思議な時間を過ごしたイリア達。

 そもそもイリアやミランダがあまりにも強過ぎた為に、魔族側が認めざるを得なかっただけだが。

 魔族サイドで2人の女傑を恐れていなかったのは、魔王ガルドただ1人だ。他の者達は戦慄していた。


 ただの拳だけで狂暴化した魔物を倒すミランダと、とんでもない規模の魔法で広範囲殲滅をして見せたイリア。

 そんな有り得ないシーンを見て喜べる程、ガルド以外の魔族は異常者ではない。ただただ恐ろしいと思うだけであり、トラウマになったものすらいる。

 100匹近い魔物の群れを一瞬にしてペシャンコにしたり、キラーベアと呼ばれる4mを超える大熊を蹴り飛ばしたり。

 それはもう十分過ぎる程に魔族達に恐怖を植え付けた。だがそんな事は我が道を突き進む魔王様には関係がない。


「つーわけで、嫁になってくれイリア」


「貴様……調子に乗るなよ」


「貴方には興味がないと、以前にも伝えた筈ですが?」


 幽鬼の様にゆらりと動いたアルベールがガルドと睨み合う。全く興味を持たれていないというのに、懲りない男である。

 初対面の時もそうだったし、停戦協定の場では決闘を申し込んでみたりもした。その全てを軽くあしらわれているのだが、諦める気は一切ないらしい。

 イリアとしては、ガルドの狙いがそれだったのかと落胆すらしている。こんなにも馬鹿らしい真意を、一瞬でも読もうとした事が最早忘れたい記憶だ。

 幾らミアの代理として動いたとは言え、待ち受けていた結末がこれではイリアも呆れて物も言えない。

 さっさと帰りたい気持ちで一杯になったイリアに、揶揄う様にミランダが声を掛けた。


「ははは! 魔族に求婚された奴は初めて見たよ」


「何を勘違いしている? 俺はお前も側室にするつもりだが」


「………………聞き間違いかねぇ? このアタシを側室にするって言ったかい? 随分と安く見られたもんだねぇ」


 突然のガルドの発言を聞いたミランダは、こめかみに大きな青筋を浮かべて睨み付ける。

 イリアに負けず劣らずの美貌を誇るミランダは、当然ながら多くの男性から求婚されて来た。しかしながら最初から側室扱いされたのは初めてだ。

 仮にも一国の女王に対して、いきなりの側室宣言は喧嘩を売ったと思われても仕方がない。

 イリアとミランダ、どちらがより美しいかという問題ではない。シンプルに失礼であり、あまりにもデリカシーに欠ける発言である。

 これについてはガルドの右腕であるジルヴァも思わず両手で顔を覆う事態だ。幾ら相手が人族であっても、女性に対して向ける言葉ではないと普通なら分かる。


「おいおい勘違いするな? 俺は2人とも高く評価しているんだぞ?」


「貴方の評価など心底どうでも良いですわ」


「魔族の男ってのは、皆コイツみたいなのしかいないのかい?」


 ミランダの言葉には全力で首を振ったジルヴァである。確かに魔族は実力主義社会だ。だがそれは無秩序という意味ではない。

 子供に対する大人の対応であったり、女性に対する男性の対応であったりには常識が存在している。

 誰もかれもが脳味噌に筋肉が詰まっている訳ではないのだ。そういう傾向があるというだけで、知性も理性も魔族にはちゃんとある。

 人族には野蛮な種族だと思われているが、愛情も友情も有している種族である。大体起源を辿れば同じ人類である。

 魔素に対する適応力が高い人々が、魔族と呼ばれる種族に変わっていっただけだ。それ以外に大きな違いなどない。


「イリアに目をつけた感性だけは認めてやろう。だが貴様に出番はない」


「凄まれても俺は諦めねぇぞ」


「いえ、そもそも(わたくし)はアル以外と絶対に結婚しませんが」


 アルベールを相手にガルドは果敢に睨み付けるが、そもそも論として、イリアはアルベール以外と結ばれるつもりがない。

 つまりどう足掻いてもガルドにはチャンスなどない。それでも諦めようとしない執念だけは、この世界でもトップクラスだと言っても良いかも知れない。

 この世界でイリアを娶ろうとするのは、アルベールを除けばガルドぐらいだ。それぐらいイリアは人族を逸脱した存在である。

 そこに並び立つ実力を持つミアや、少々劣るが近しい存在であるミランダが普通ではないだけだ。

 規格外の存在達が一堂に会した魔族領での一件は、波乱万丈のまま終わりを迎えた。

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