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第82話 強さを求める少年

 イリアとアルベールが魔族領に行っている頃、一度捕縛されたアクセルは再び魔の森を訪れていた。

 今度は誰も同行しておらず、たった1人で。彼は騎士団に入るかそのまま解放されるかを問われ、解放される事を選んだ。

 騎士になってしまえば、イリアの部下になってしまう。騎士にまで恨みはないが、それだけは絶対に嫌だと思ったのだ。


 幼いなりの反抗心が働き、強くなる為であってもそれは受け入れられなかった。嫌いな女王の力なんて借りずに、自己流で強くなろうと決めたのだ。

 なまじエレナの異能で結構な強さを得ただけに、魔の森の浅い位置ならば今のアクセルでも問題はない。


「なんだ、ここ? 誰か住んでいるのか?」


 アクセルが鍛錬の為に再び訪れた魔の森で、とある建物を彼は見つけた。それはかつてとある女性が建てたロッジである。

 そして数年前までは、1人の令嬢と邪神が共に暮らしていた場所でもある。最初は訝しんでいたアクセルだったが、中を調べたら誰も住んでいない事が分かった。

 それにここが特別な建物である事も、幼いアクセルにも分かった。彼はこれでも商人の息子であっただけに、魔道具に対する知識は多少なりともある。

 実生活で使用していた魔道具と、似た物が複数置かれていた。それらが長い間使用されていない事は、稼働させてみれば大体分かる。


「どうして置いて行ったんだ? どれもちゃんと使えるのに」


 かなり古い型ではあるが、残されている魔道具はどれも高級品だとアクセルには分かる。引っ越すにしても普通なら全て持って出て、不要なら売ってしまえばいい。

 商人としての常識が染み付いていた彼にはそれが不思議だった。ともあれ誰も使っていないのであればと、ここを拠点として使わせて貰う事に決めたアクセル。

 ここを利用すれば、いちいち近くの街まで戻る必要はなくなる。幸いにもエレナと過ごしている間に、この近くに川がある事も知っている。


 調理に使える魔道具も存在を確認出来たし、特に困る事はないと思われる。ある程度素材を確保出来たら、街に売りに行って足りない物を買えばいい。

 その辺りは何も知らなかった幼いイリアとは違う。商人の子として、そして孤児として生きて来た経験がアクセルにはある。


「ん? なんだこれ?」


 それはキッチンの壁に貼られたメモ書きだった。この実とこの実を混ぜてはいけないだとか、この見た目をした魔物の肉は毒があるとか。

 そう言った細かい注意点が、可愛らしい子供の文字で書かれていた。それはかつてイリアが、死の淵を彷徨いながら生き続けた経験の記録だ。

 食べてはいけないもの、毒を持つ食材。毒に耐性が出来る程に苦しみ続けた少女の記録。

 これらのメモ書きがあったお陰で、アクセルは魔の森でのサバイバルが随分と楽に出来た。

 それでも過酷である事には変わりないが、幼いイリアのそれと比べたら雲泥の差である。


「良く分かんねーけど、助かったな」


 ここがかつて、アクセルが憎んでいる女性が住んでいた場所だと彼は知らない。このメモ書きを書いたのが、イリアだとは知らない。

 そもそもアクセルが連座で処刑とならなかったのもイリアの判断であり、孤児院で暮らせていたのも間接的にはイリアの功績だ。


 それらが全て父親の仇であるイリアのお陰だったのだと彼が知るのは、随分と先の事になる。

 その時になって何を思うのか、それは今の段階ではアクセス本人ですら分からない事だ。

 そんな未来を知りもしないアクセルは、メモ書きの主に感謝を捧げながら魔の森での生活を始めた。


「ここにはドラゴンも居るって聞いた。いつか倒せる様になってやる!」


 将来の目標はドラゴンの討伐。実に男の子らしい夢物語であるが、これが実は子供の夢想で終わらない。

 記憶を抜かれて廃人となってはいるが、エレナはまだ生きている。その関係でエレナの異能はまだ機能していた。

 これは誰も気が付いていなかった事であり、エレナが廃棄処分になるまでこの状態が続いた。

 と言うのもエレナ自身が認識していない事は、イリア達にも知りようがなかったからだ。


 エレナは疑問に思わなかったのだ、一度【パーティー】に登録したら解除されるまで効果が続く事に。

 人は当たり前だと思っている事にいちいち疑問を持たないし、これと言って特別意識する事もない。

 アクセルと同じ【パーティー】にいるのが当然であると思っている以上は、彼の登録解除に関して考える必要がない。

 エレナから抜き取った記憶にそれらの情報が一切無かったので、誰も気付かず放置されていた。


「よし、頑張るぞ!」


 6歳のイリアと9歳のアクセル。それぞれ条件が全然違う状態で始まった魔の森でのサバイバル生活。

 ここから出て街に行く方法を知っているアクセルは、イリアよりも効率的な暮らしが送れた。

 定期的に街を訪れては素材を売り捌き、必要な物資を買って戻って来る。段々ちゃんとした装備が増えていき、武器として使えるレベルの短剣も購入出来た。

 そこからは更に順調に進んでいく。騎士団とまた鉢合わせしない様に、そこから離れた場所で戦闘を繰り返す日々。


 彼はこの後7年程は魔の森で生活したのち、旅に出る事を決意する。その先で得た経験の数々が、アクセルの血となり肉となる。

 そしていつの日かイリアの人生と交わる事になるが、その時になって初めてアクセルは自分の運命を知る事になる。

 未来を知る力など持ちえない彼は、幼いながらも強くなる事だけを追い求め続けた。

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