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第80話 魔族の国グライアにて

 魔族が暮らす大陸西方の国グライア、そこは人族が暮らす大陸の東方に比べて魔素が濃い土地だ。

 そのせいで植物の生育も大陸の東側と結構違っており、木々や草花が変わった性質を持っている。

 中には他の生物を襲う植物まであり、魔物以外にも注意が必要な地域だ。それでも尚ここで生活して来たからこそ、魔族達は人族よりも強靭な肉体を持っている。


 長い年月を経て人族から進化して来た存在であり、見た目にも人族との違いがある。

 例えば会議室でイリアの対面に座る男、魔王であるガルドにはヤギの様な2本の角が頭部に生えている。

 そして魔族は人族と違い灰色に近い肌を持つ。彼の隣に控えている副官のジルヴァもそれは変わらない。彼の場合は目立つ角などはないが、蛇の様な瞳をしていた。


「よぉ、久しぶりだなぁ」


(わたくし)は忙しいので、要件を早く言って下さる?」


「相変わらずつれないねぇ」


 イリアとアルベール、そしてガルドは何度か顔を合わせている。初めての邂逅から、停戦協定を結んだ時。

 そして転生者騒動など、大きく世界が動いた時に会っていた。ガルドの方はイリアを嫁にするという目標があるが、イリアの方には全く興味が無い。

 そして当然アルベールは彼女を譲る気など更々ないので、やたらと関わろうとするガルドとは2人だけで会わせない様にしていた。

 ガルドの方にはイリアをどうにかする力などないのだが、それとこれとは別問題である。

 アルベールが居るというのに、それでもイリアを狙う根性と執念深さだけはガルドの長所なのかも知れない。


「イリアと同じでアタシも暇じゃないんでねぇ。手短に頼むよ」


「へっ! わぁってるよルウィーネの女王様よぉ」


「だったら早く要件を言いな」


 今回の会談には、海洋国家ルウィーネの女王ミランダも同席している。魔族領の魔物が狂暴になっている件は、ルウィーネとて無関係とは言えない。

 人族の国家ではアニス王国と旧モーラン、そしてルウィーネが最も影響を受ける。魔族領を隣接している関係から、最初に魔物が雪崩れ込むのはこの3つの土地だ。

 特にルウィーネの場合は海で魔族領と繋がっている。貿易や漁業に大きな影響が出兼ねない。

 諸々の問題の解決が出来るのならば、さっさと終わらせてしまいたいのがミランダの本音だ。

 そんなミランダもまた、イリアに近いタイプの性格をしている。対応が似通ったものになるのも当然だろう。


「どうも西の方で魔素の異常が起きているらしくてな。それで魔物が狂暴化してやがる」


「そこまで分かっていて、何も出来ていませんの?」


「原因が分からねぇんだよ。だからお前らを呼んだ」


 そう言いながらガルドはアルベールを見る。邪神とは言え神は神に違いは無い。お前なら何か分かるんじゃないのかと、ガルドの眼は訴えていた。

 確かにアルベールは、神の視点で世界を視る事が出来るし、サフィラと近しい事も出来る。

 ただサフィラ程の本格的な管理した事はないので、出来ない事も分からない事も色々とある。

 英雄メアリの魂を見守っていた頃に、多少の手伝いはしていた。だから何も知らないとまでは言わないが、今の段階では原因を特定する事は出来ない。アルベールは少し考えた後、ゆっくりと現状を告げる。


「異常の場所は分かったが、原因まではここからでは分からん」


「現地に行く必要があるという事ですわね?」


「ああ。そうなるな」


「けっ! やっぱそうなるのかよ」


 アルベールを呼べば即解決とまではガルドも考えてはいなかった。しかし現場まで行くのは結構な手間が掛かる。

 異常に魔素が濃くなっているのは、霊峰エルレーネと呼ばれる高山の頂上だ。そこから雪解け水が流れて来るかの様に、魔素が山から大量に降りて来ているのだ。

 そこまで登る労力と、道中の魔物達が最大のネックになる。ガルドはそこを面倒だと考えていたが、それはガルドから見た場合の話である。

 イリアとアルベールからすれば転移すれば済む話で大した手間にはならない。


「転移で移動すればすぐ着ける」


「あん? んな事出来んのかよ?」


「へぇ、流石は邪神様だねぇ」


 アルベールの転移については、あまり表立って公表していない。いつでも好きな様に、自由に他国へ侵攻が出来るなんて教える必要がないからだ。

 もちろんそんな事をすれば、即刻サフィラが出張って来るのでそうホイホイとはやれない。

 モーランの時の様に、明らかに相手側に落ち度がないと厳しい。サフィラは人同士の争いには関与しないが、神が侵略の為に力を使う場合は許さない。

 神々のルールさえ守っていればサフィラは目溢しをしてくれるが、思い切り抵触した場合は流石に黙っていない。そのラインはしっかりと弁える必要があるのだ。


「長居するのもなんですし、さっさと行きましょう」


「俺も行くぜ」


「アタシも手伝うよ」


(わたし)とイリアだけで十分だと思うがね」


 魔王であるガルドはもちろんの事だが、ミランダも相当な実力者である。海の男達を纏めている女傑だけに、戦闘能力はこの世界でも上位に入る。

 ミアやリーシェ達を除けば、それなりにイリアが信用しているのは彼女が強者であるからだ。

 魔の森ほどではないが、海の魔物も結構な強さを誇っている。それらに対処して来た経験は伊達ではない。

 結局魔王軍の精鋭も同行する事になり、それなりの大所帯で転移する事になった。

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