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第78話 研究と開発

 魔族との会談が始まるまでに出来るだけの事を済ませておく。それが現状イリアに課せられた目標だ。

 ミアの代わりにそちらの対処をするとなると、暫くは別世界の技術を研究する時間は減ってしまう。

 異世界の女神エヴァは、神としての力量がアルベールより低い神であった。であればエヴァが付与出来た能力は全て、アルベールでも再現は可能であるとは思われる。

 場合によっては、ほぼ互角に戦えるイリアでも、実現は可能かもしれない。だがそれも全て、技術の解明が重要である。


「やはり問題はこの【ゲーム】という概念への理解ですわね」


「物語を疑似体験出来るのは分かったが、この【RPG】なるものが理解し難いな」


「戦って強くなる、というのは分かります。でもただ手伝いをしただけでも【レベル】とやらが上がる意味が分かりません」


 別世界である地球という世界では当たり前の様に存在していた【ゲーム】と呼ばれる遊戯。

 その中に出て来る仕組みを使い、新たな成長へと繋げるのが現在進めている研究である。

 しかしネックになっているのはこの【レベル】という概念への理解だ。イリアの言う様に戦闘を繰り返して強くなるのは理に適っている。

 しかしただ街の人間を手伝っただけで【経験値】が手に入る根拠が2人には理解出来なかった。

 同じく【パーティー】に入っていれば戦闘をしていなくても【経験値】が貰える仕組みも同様に2人を悩ませている。

 そんな事はこの世界では発生しないし、地球という世界の日常風景を覗いた限りでも起きる事ではない。


「これはもう、戦闘に関する部分だけを採用するしかないのではないか?」


「ええ、完全に再現するのは厳しいでしょうね」


「不要な機能まで採用していては、時間が掛かり過ぎる」


 異世界からの転生者であったエレナという少女。その記憶から把握出来た限りだと、彼女の異能には複数の機能があった。

 物を作り出す機能や、勝手に素材が自動で入手される機能など。虚空から物体を取り出す機能などもあったが、それらを全て再現するには相当な時間が必要となる。

 時間との戦いである以上は、そもそも原理の理解に手間を要する部分は後回しにするしかない。

 優先順位を間違えていては、無駄に時間を浪費するだけだ。それに武器を必要としないイリアには、それらの機能はあまり価値が無い。

 重要なのは直接イリアの成長に関わるものだけであり、それ以外は大きなメリットがない。


「しかしこれでは、アルが恩恵を受けられないのでは?」


(わたし)は後からでいい、今は君を優先しよう」


「ですが…………いえ、そうですわね。大事なのは最低でもサフィラと拮抗する事ですものね」


 神が力を増すには、人類の様に鍛えるだけでは不可能だ。畏怖や信仰を集める事が必要であり、今回作ろうとしている魔道具では効果がない。

 一旦は第1号を作ってから、派生品を開発する方向で新たに作る方が完成度も高くなると思われる。

 今は【経験値】というものを扱う魔道具を作り、その後に畏怖や信仰を増幅させる効果を持たせる研究を進める。

 それがサフィラとの決戦に間に合うかは微妙ではあるが、このまま二兎を追うよりは良いと2人は判断した。

 イリアが神となれば、一方的な敗北は避けられる。だが2対1でもギリギリという所が歯痒い点だ。それだけサフィラの神としての格は高い。


「【経験値】はある程度理解出来たとして、【パーティー】の方が問題ですね」


「同行すらしていなくても、参加していれば分配される。相変わらず謎だな」


「戦闘の経験を指す言葉の筈が、参加していないのに入る。どういう事なのでしょうか?」


 2人の最大の疑問点、戦っていないのに経験とは一体どういう意味なのかと頭を悩ませる。

 ここの仕組みを理解していないと、中途半端で不完全なモノが出来上がってしまう。論理が破綻している魔道具は、正常には機能しない。

 魔法の開発にしてもそうだが、何故そうなるのかを理解している必要がある。その点、重力を操る魔法の開発は早い。

 転生者から抜き取った記憶を元に、どういう力かはすぐに理解出来た。しかしこちらの方は難航している。

 転生者達の記憶を見ても、どういう原理かは曖昧であり【そういうモノ】として納得しているのだ。


「何かに置き換えて考えたらどうだ? 例えば、税とか」


「…………確かに。税を徴収する様なものと考えれば、まだ少し理解は出来ます」


「一度その方向性で試してみようか」


 別世界から得た知識は、全てが簡単に納得出来る内容ではない。そもそもこの世界より劣っているモノも多く、どうしてそんなモノを作ったのか理解に時間が掛かる。

 この【RPG】にしたって魔物が居ない平和な世界であるのに、何故わざわざ魔物がいる世界の疑似体験をする必要があるのか。

 平和な生活が出来ているのに、危険を自ら求める行為が娯楽とされているのか。およそ必要性を感じない、そう言った発想が随所にある。

 常識や価値観の違いからくる嚙み合わなさ。それらと戦いながら、イリアとアルベールは研究を続ける。

 何度も実験を繰り返しながら、少しずつ修正を加える細かな作業。終わりの見えない研究の日々と、迫り来るリミットの中で2人は限界まで挑み続けた。

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