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第77話 別世界から得たヒント

「以上が報告になります」


「ありがとうリーシェ、ご苦労様でした」


 エレナという名の転生者が起こした事件。それにより得られた情報で色々と分かった事がある。

 特に大きいのはイリア達には良く分からなかった【ゲーム】という概念について理解が深まった事だ。

 物語を書物としてただ読むのとは違って、自分の意思で別人の人生を疑似体験する遊戯の一種。

 その中に含まれる冒険譚の一部で、【経験値】や【レベル】と言った概念が登場するという事。

 特にエレナはそれを現実に持ち込む異能を所有していた。そんな事が現実に可能だと言うなら、やり様によっては色んな事に活かせるのではないかとイリアは考えた。


「この【経験値】を増幅させるという仕組み、上手く魔道具で再現出来ればより効率的に強くなれますわ」


「実際に同行していた孤児の少年が、異様に強くなっている事が確認されています」


「ほう。それが事実ならば、試す価値は大いにあるな」


 イリアとアルベールは、特に今回の件に深い興味を示した。サフィラとの対立に際して、今よりも更に良い未来を実現する可能性が出て来た。

 ただその仕組みを理解出来なければ、魔道具として発明する事は出来ない。原理が分からない物を作ろうというのは不可能だ。

 どういう働きに対して、何がどう作用するのかを作る側が分かっていないと話にならない。

 今まで良く分からない概念とされていたゲームという存在に、目を向ける価値をイリアとアルベールは見出した。

 そこから得られた情報は、現状を大きく打破する切っ掛けになるかも知れない。


「確か最初に捉えた男にも、同じ様な記憶がありましたわよね?」


「ああ。そんな情報が含まれていた筈だ」


「すぐに確認させます」


 イリアとアルベールが注目したもう一つの点が【パーティー】という概念だ。祝い事を指す言葉ではなく、全く別の意味を持つ単語である。

 部隊を編成するのと似た様な意味を持つが、ただそれだけではない。戦闘に参加していない者にも【経験値】が分配されるという特殊な集団だ。

 ここも含めて実現出来れば、画期的な手段を取れる。例えば騎士団全員を参加させて、彼らを戦わせればその全てをイリアに分配するという方法だ。

 それもエレナがやっていた様に、増幅させた状態で。イリアがこれ以上強くなる為に本気で力を求めると、サフィラに真意がバレてしまう。

 それらしい言い訳では、通らなくなってしまう。だがそんな裏技めいた方法でなら、上手くいく可能性がある。


「アル、この方法ならサフィラに察知される可能性は低いのではなくて?」


「仕組み次第ではあるが、恐らくはそうだろう」


「なるべく早く完成させたいわ」


 幾らサフィラが忙しいからと言って、イリアが魔物の大量虐殺を行えば流石にバレる。しかもそれで得られるモノはそう多くない。

 だがこの【ゲーム】という別世界から齎された概念を利用した方法であれば、大きく前進する事が出来る。

 後は時間との勝負で、如何に早くその仕組みを理解するかだ。作るべきは魔道具なのか、それても新たな魔法か。

 魔方陣になるかも知れないが、それもある程度分かっていないと試しようがない。2ヶ月ほど後に魔族領にも行かねばならず、スケジュールはかなりタイトである。

 どこかで纏まった時間を用意しないと、全てをこなす事は難しい。


「暫くは分身体を使いましょう」


「それしかないだろうな」


「それでも期間的には厳しいのですが……」


 色々と暗躍するのであれば、サフィラが忙しくしている間がベストだ。もう数ヶ月は転生者騒動に掛かり切りだとは思われる。

 しかしそこを過ぎてしまい、世界が正常に戻ればもうその機会は失われる。細々とした事であれば可能でも、今回の様な大規模な行動は取れないだろう。

 特に重力を利用した魔法の様に、今までこの世界に無かった物を試験や運用をしたければ尚更だ。

 いつかは気付かれるだろうが、その前にやれるだけの全てをやってしまいたいのがイリアの本音だ。出来上がってしまえば後はこちらのものである。


「イリア様、捕まえた孤児はどうなさいますか?」


「本当にただの孤児なのでしょう? 騎士団に入れるなり解放するなり、好きにさせれば良いでしょう」


「ではその様に手配しましょう」


 サフィラとの決戦に向けて意識が向いていたイリアには、アクセルの存在など毛ほども興味がなかった。

 中央都市ファニスから何故かエレナが連れ出しただけの、何をさせたかったのか分からない存在。

 エレナは自分に好意を向けさせようとしていたらしいが、イリアには全く意味が分からない行動原理だった。

 孤児を育てて好かれようなど、イリアには不要な情報としか思えなかった。その判断により、アクセルという少年の人生はここから大きく変わっていく。

 だがそれはもっと先の事で、今のイリアには一切関係がない。


「忙しくなりますわよ」


「出来るだけやってみせよう」


(わたし)も微力ながらお手伝い致します」


 リミットはサフィラの手が空き始めると思われている数ヶ月後。それまでに何を何処まで進められるかで、イリアの未来が変わる。

 そんな時間との戦いが、ここから始まったのだ。

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