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第76話 全能感という猛毒

 エレナとアクセルの2人がハーミット領に来ていた目的。それは魔の森での修行であった。

 魔の森では通常の魔物より、強力な個体が大量に生息している。エレナの異能で表現すれば、経験値が非常に多く手に入る土地となる。

 エヴァによる認識操作で、ゲーム上でのレベリング用エリアだとエレナは思い込んでいる。

 その認識は大きな間違いではなく、事実としてイリア等の成功例が複数ある。強くなる為の選択肢としては、そう悪い場所ではない。


「エレナさん、俺って結構強くなりましたか!?」


「ええもちろん。1ヶ月でレベル100を超えたのだから十分よ」


「やった!」


 魔の森に入って少し戦闘して脱出。そんな日々を丸1ヶ月続けた事で、2人は一気に成長していた。

 エレナの異能により、普通に戦闘をする以上の経験値を獲得出来る。その効果でアクセルは当時のイリアよりも早い速度で成長している。

 10歳にも満たない子供としては、最早異常というしかない。既にハーミット領の騎士に匹敵する戦力となっていた。

 そしてエレナはと言えば、既にハーミット領の騎士よりも強くなっていた。もうこの地でエレナよりも強い人間は存在していなかった。

 突然強大な力を得るというのは、得てして人間の認識を壊しがちだ。そしてそれは、エレナとて例外では無かった。


「さーて(わたし)も今日は稼ぐぞー!」


「あ、あの。そんなに滅茶苦茶やって、大丈夫なのですか?」


「大丈夫だって、どうせ誰も居ないんだから」


 魔の森は人が住める場所ではない。ずっとそう言われていた土地である。だから適当に魔法をバカスカ撃ち込んでも、被害を受けるのは魔物だけ。

 そう認識しているエレナは、あちこちに適当に魔法を放っていく。彼女に倒された魔物から、どんどん経験値や素材などがエレナの異能で入って来る。

 これまでエレナは、これ程に大規模の殺戮を行った事は無かった。強くなったという全能感と、ここはゲーム世界だという認識。

 それによって肥大した自己顕示欲と、壊れ始めた常識。かつて1人の大人として生きた過去も、徐々に塗替えられて来た。

 何者でも無かった存在が、まるで英雄の様な力を得た。その解放感が、エレナを少しずつ歪めていたのだ。


「ん~~? 何だろうこの素材? にん……げん……?」


「どうかしましたか?」


「そこのお前! 一体どういうつもりだ!?」


 ゲームだと思い込んでいたからこそ、エレナは理解していなかった。深く調べようともしなかった。

 だから知らなかったのだ、3年程前から、魔の森はアニス王国騎士団の訓練場として利用されているという事を。

 とは言っても、入り口付近からそう遠くない場所なら騎士達を遭遇する事はない。しかし半ばまで進むと、そこからは騎士達の活動範囲内となる。

 エレナが調子に乗って魔法を撃ち込み過ぎたせいで、その一部が新兵の部隊をほぼ壊滅させてしまっていた。

 突然の事態に驚いた騎士達が、急いで出所を調べに来たら2人が発見された。


「あれぇ? こんなイベントあったかなぁ?」


「え、エレナさん! どうするんですか?」


「お前達! 武器を捨てて地面に膝をつけ!」


 明らかに警戒心と怒りを感じさせる口調で、騎士達が2人を取り囲んでいる。それを子供ながらに理解しているアクセルは、エレナに回答を求めるが彼女は答えない。

 エレナは現実は受け止められない。ここはゲームの筈で、こんなイベントは存在しない。だから認めたくない、異能により確認された人間から得た素材。

 それはつまり自分が人を殺してしまったという事。それも明らかに1人や2人なんて数ではない。

 幾ら歪な形でこの世界に染まりつつあっても、エレナは前世で大人として生きていた。だから分かってはいるのだ、殺人という罪の重さを。


「お、おかしいじゃない! 何で!?」


「武器を捨てろ! 聞こえないのか!」


「エレナさん!」


 厳しい現実がエレナに襲い掛かる。飛び交う怒号に、人を殺したという事実。自分のせいじゃないと言いたくても、異能により示された文字は変わらない。

 それまで包まれていた全能感が急激に萎んでいき、エレナの目の前が真っ暗になる。このままでは自分は犯罪者であり、その罪は殺人だ。

 ゲームの世界で好きに生きられる筈だったのに、それがどうしてこうなったのか。エレナはそんな問答を、何度も頭の中で繰り返す。


 だがそんな事をしても、何も事態は変わらない。神様が現れて、無かった事になどしてくれない。

 現実にはリセットボタンもクイックロードも存在しない。錯乱したエレナは意味不明な言葉を叫びながら、騎士達に向かって魔法を放つ。

 突然の攻撃に成す術もなかった騎士達だが、間一髪の所で参戦して者により魔法は防がれていた。


「リーシェ様!?」


「そこまでにして貰いましょうか。異世界からの来訪者さん?」


「れ、レベル600超え!? ば、化け物!?」


「何を言っているのか知りませんが、貴女はここで捕らえさせて貰います」


 エレナ達を監視していた者により、エレナが暴れ始めた事がすぐさまリーシェに伝えられた。

 同時に訓練場にも即座に緊急連絡は発信されたが、残念ながら間に合わなかった。発見されるのを警戒して、遠方から監視していたのが災いした。

 犠牲は出てしまったものの、訓練場の転移陣を使い現れたリーシェによりエレナは無力化された。同行者という事で、アクセルもまた連行される事となった。

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