第75話 魔族からの手紙
ミアのピンチにイリアが駆け付けられたのは、そもそもミアに用事があったからだ。アルベールの力でミアの位置を確認すれば、戦闘の真っ最中であった。
それならばさっさと終わらせてしまおうと言う事で転移して来た訳だ。その結果ミアを救う事になった。
捕縛した転生者をサフィラに引き渡した後、イリアはミアの執務室で話し合いをしていた。
例の泳がせている転生者に何かあった時に備えて、アルベールは先にアニス王国に戻っている。
「実は私の下に魔族から書簡が届きまして」
「魔族からですか? 転生者は魔族領には居ない筈でしたよね?」
「その件では無く、人族と会談がしたいと言う話ですわ」
イリアは持って来た魔族からの手紙をミアに手渡す。そこには2ヶ月後に席を設けるから、人族と再び交渉がしたいと言う旨が記されていた。
何でも魔族領の西方では最近魔物が狂暴化しており、その強さも上昇傾向にあると言う。
それにより被害が多発しており、犠牲者も出始めているらしい。このままではいつか魔族領では誰も暮らせなくなってしまいかねない事。
そして自分達がこのまま押されれば、魔族ですら凌駕する魔物が人族の領域にも進出するという警告も書かれていた。
転生者の問題もまだ完全には解決していないのに、また別の問題が発生していた。
「今度は魔物なのですか……」
「まあ私はどうでも良いのですけどね、貴女は気にするでしょうから」
「まだこちらも片付いていないというのに……」
サフィラの手が足りなくなっているのか、生態系に問題が発生している。或いは抑えていてもこうなのか。
その辺りはまだ不明だが、これはこれで問題である。流石に魔族が滅びるまでサフィラが放置する事は有り得ない。
しかし次々と発見される転生者達が多すぎて、余裕が無くなって来ているのは確実だろう。
このまま転生者問題が続いてしまうと、もっと魔族側の被害が大きくなる可能性は十分ある。
ただ会談を2ヶ月後に指定している辺り、それぐらいは現状でも耐えきれると判断しても良いと思われる。
それにすぐに音を上げて人族に頼る事はしたくないという、彼らなりのプライドも窺う事が出来る。
「大袈裟に書いてはいますが、他にも目的があるのでしょう」
「確かにそうですね、2ヶ月も先にするなんて変ですし」
「あの男が何を考えているのかは分かりませんけれども」
正直言ってイリアとしては本当にどうでも良い事だ。人間ですら殆どの存在に興味がないのに、魔族なんてもっと興味がない。
それ故に滅ぼうが存続しようが、どちらでも構わない。将来的には占領する事も視野に入れているぐらいだ。魔族が居ないならそれはそれで構わない。
元々アルベールの時代では、魔族領の辺りも占領下にあった地域だ。同じ事を行う以上はそうするのが効果的である。
その際に魔族が従うなら傘下に入れても構わないが、従わないなら敵対するだけだ。ただそれだけの話でしかない。
「ともかく、返答内容は貴女にお任せしますわ」
「しかし、良いのですか?」
「でなければここまで来ておりません」
自分にとってはどうでも良いが、ミアが気にするだろうから来ただけ。それはイリアからミアに対しての親愛の情であり、友としての気遣いである。
それにミアならば愚かな回答をする事は無いという信頼も含まれている。ついでにサフィラへ恩を売る意味も多少は含まれている。
そんな打算は僅かであり、そもそも恩を売ったとて最終的には敵対するのだ。どの道それほど期待できる事ではない。
期待するとしても1割もない程度の理由だ。つまりはほぼミアに対する友愛から来た行動だ。
この世界で唯一、それだけの感情をイリアから向けられている人間はミアしか居ない。
「真の目的は不明ですが、お受けしましょう」
「まあ貴女ならそう答えると思いましたわ」
「人選を考えなければなりませんね」
魔族との会談ともなれば、冷静に判断が下せる相手が必要となる。下手に悪感情を持っている人間を送り込めば余計ややこしくなるだけ。
そうである以上は、ある程度人選は限られて来る。先ずエルフ族とドワーフ族は候補から外れる。
自らの種族を一番だと考えている者達であり、やや差別的な傾向があるので何を言い出すか分からない。
一応は大陸会議でイリアから痛い目を見せられているが、それはイリアに対する認識が変わっただけに過ぎない。
危険な爆弾を放り込む様なものである。そして不測の事態にも対応出来る人物である必要もあるだろう。
そうなるとイリアかミア、もしくはその両方が最も向いていると言える。
「…………どうしましょうか」
「貴女が離れられないというのでしょう? なら私が行きましょう」
「で、ですが言い出したのは私ですし」
「そろそろ転生者の相手は飽きて来ました。たまには違う相手だと嬉しいのですけど?」
自分の言い出した事だからと、無理をしようとするミアをイリアが止める。イリアの言っている事は全て本心である。
飽きたて来た、というのは心底思っている事だ。それは付き合いの長いミアにも伝わっている。
だがそれ以上に、友人としての優しさだとミアは理解している。せっかくの申し出である以上は、イリアの厚意をミアは受け入れる事に決めた。




