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第73話 あの時と同じ

 転生者に関する問題は、相変わらず尽きる事は無い。この世界の女神である、サフィラの方針に従わぬ者は未だ居る。

 その中でも攻撃的な者には、対処できる人物が限られる。今回は魔物を大量に操る【スキル】を有した転生者らしく、ただの騎士では手に負えない状態になっていた。

 聖王国サリアから近い位置に拠点を設けていたので、今回は聖女であるミアが対処に回る事となった。

 問題の転生者が潜伏しているのは、とある大森林の中だ。魔の森程の危険地帯ではないが、それなりに危険な魔物が多く生息している。

 そんな大森林の中で、ミアをリーダーとする討伐隊が魔物の大群と対峙していた。


「皆さん、決して無茶はなさらないで下さい! 人命を最優先で!」


「聞こえたな! 負傷したら粘らずすぐに下がる様に!」


『『『『おお!』』』』


 イリアと親交が深いミアは、彼女の作る魔道具類を優先的に購入出来る。今回の討伐隊では、イリアが制作したイアリング型の通信用魔道具が配備されていた。

 今回の様に数百人規模の部隊を運用する際には非常に重宝されている。末端まで滞りなく指示が届く為、戦術的にも戦略的にも大いに活躍する。

 特に今回は戦う相手がただの魔物の群れでは無い。異能によって様々な種の魔物が統率されているのだ。

 本来なら敵対している筈の種ですらも、協力して戦闘を仕掛けて来る。従来の対魔物戦術では対応するのは難しい。

 相手が人間の指示で動く以上は、こちらも意思疎通がしっかり出来ないと戦いにならない。


『聖女様! 対象を発見しました』


「すぐに向かいます!」


『信号弾!』


 森の木々を掻き分けて、目立つカラフルな光弾が爆発音と共に上空で炸裂した。様々な場面で使用される騎士達の必須アイテム。

 火や魔力を必要としない使い切りの魔道具により、転生者が発見された位置が判明した。

 迫り来る魔物達を捌きながら、ミアを中心とした精鋭部隊が森の中を突き進む。森の中にある少し開けた広場に出ると、魔物を操っていると思しき少年が居た。

 16歳ぐらいの少年であり、岩の上で魔物達に指示を出している。騎士達が周囲を囲んでいるが、苦戦しており捕縛までは至っていない。


「そこの貴方! もうやめなさい! 魔物達を解放して下さい!」


「アンタには関係ない! コイツらは俺が【テイム】したんだ!」


「何であれ、意思を捻じ曲げる様な力は危険なものです!」


 少年の言うテイムという言葉の意味がミアには分からないが、イリアの報告にあった他者の意思を操る類の能力である事は分かっている。

 彼はそれによって魔物達を自由に使役し、奴隷商人や盗賊達を襲撃していた。盗賊に関しては致し方ないとしても、奴隷商人は正規の手段で商売をしている者達だ。

 決して盗賊と同じ様に扱って良い相手ではない。ミア達には理解出来なかったが、転生者は奴隷商人を悪だと決めつけている傾向にあった。


 ミアとて奴隷として、売られるしか無かった者達への同情心はある。しかし彼らの暮らしは法により厳しい取り決めがある。

 奴隷を労働力として使う代わりに、彼らの生活は保障せねばならない。悪だと断じる程に、悪質な商売ではないのだ。


「貴方の行いの一部は犯罪です! 大人しく投降して下さい!」


「何も悪い事はしていないだろ! 悪党を退治しただけだ!」


「それは貴方の世界の常識で、この世界の法とは齟齬があります!」


 必死に説得を試みるミアだが、中々良い成果は見られない。自信を正義と信じている彼には、悪を成したという自覚が全くない。

 イリアの様に自身を悪と認めている相手ならともかく、このタイプは一番話しが通じない。先ず前提として、自分は正しいという思い込みがある。

 それが社会の常識を合致しているかは、全く考慮していない。何なら社会の方が間違えていると考える者も居る。

 いつの時代もこう言った人物はいるが、大体は大した行動は出来ない。それがこうやって下手に力を持ってしまうと、非常に危険な存在と化す。


「これ以上抵抗するのなら、捕縛から討伐に変えねばなりません! そうなる前に!」


「俺は何も間違っていない! 放っておいてくれ!」


「だったらせめて魔物達は解放して下さい!」


 ミアは転生者の少年を殺したくはないし、魔物達だって操られているだけだ。自ら人間を襲ったのではなく、意思に反して戦わされているだけ。

 女神サフィラの教えでは、魔物達とて同じ土地に生きる生命だ。確かに魔物に人が殺される事もあるが、その逆もある。

 そして人類は魔物の素材を利用しているし、その肉を食べてもいる。決して殲滅せねばならない様な人類の天敵ではないのだ。

 共存すべき相手であり、無益に殺して良いものでは無い。だからこそミアは、魔物達も助けたいと考えていた。

 それが不味かったのだろう。二兎を追った結果、隙を突かれてしまった。


「聖女様! 上です!」


「え?」


「ミア様!?」


 密かに飛行型の魔物達によって運ばれて来た魔物達が、ミア達のいる位置に目掛けて上空から投下された。

 魔物達の体重は重く、猛スピードで落下して来る。今から結界を張るのは間に合わず、ミアや騎士達が下敷きになる未来が全員の脳裏に浮かんだ。

 それでも助けようと、長年護衛を続けて来た隊長のバートがミアを庇おうと動く。だが人間の移動速度よりも、重力に引かれて落下する物体の方が早い。

 万事休すかと思われたその瞬間に、熱風が上空を切り裂き魔物達は消し炭になった。


「前にも言ったでしょう。そんな調子だと、貴女が死にますわよ?」


「……イリア様、どうしてここに?」


「ちょっと貴女に用事がありましてね」


 いつの間にか岩の上にいた少年はアルベールに捕縛されており、少年の代わりにドレス姿のイリアが岩の上に立っていた。

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