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第72話 怪我の功名

 地球の知識が持ち込まれた事により、得られた様々な知識。それを如何に上手く利用するかによって、国力に差が出ると見越したアニス王国。

 国政を担う多くの貴族達はその内容を吟味していた。使う価値もない様な知識や技術と、明らかに有用なモノを選別するのだ。

 現在の会議では、主にインフラに関する情報について議論されている。


「この鉄筋コンクリートというのは、建築に利用してはどうだろう?」


「だがセメントとやらの製法が分からぬぞ」


「現在使っている建材で代用すれば良いのではないか?」


 カリスから抜き出した記憶の映像と、聖王国サリアで確認された転生者達の知識。それらを元にこの世界で実現可能な物は様々である。

 イリアは大して興味が無かったが、料理に関しての情報に王城の料理人達は喜んでいた。

 また多くの科学知識については、専門家達が大いに関心を示し現在凄まじい速度で検証が進んでいる。


 魔法有りきではない世界だからこそ生まれた、斬新な視点が彼らの好奇心を刺激したのだろう。

 イリアにとっては面倒事でしかなかったが、国家運営の面では結構なプラスが出ていた。

 ミルド公爵を始めとしたブレーン達のお陰で、ただのマイナスと思われた転生者事件も怪我の功名に変わりつつある。


「この自動車なる物も、魔道具として作れないか?」


「魔法だけで動く馬車の様なものか?」


「作れなくはないだろうが、馬の様に言う事を聞くのか?」


 大体は魔法で解決が出来てしまえるこの世界と、魔法のない地球では何もかもが違う。

 魔法が無いから作られた様々な物は、魔法があるこの世界の住人には存在価値が伝わり難い。

 例えばガスコンロ等はその際たるもので、炎の魔法で十分なのだ。何故必要になったのか、その根源が不明である為に有用性が分からない。


 こうして検討された物の中には、作ってはみたものの結局不要だったと後で発覚する物が大量に出た。

 それらは全て斬新に見えたというだけで、既存の魔法や魔道具で十分だという結論に至った。

 もちろんそれは現時点では分からない事。まだその検討をしている段階なのだから。


「このトラクターとかいう物、農民に持たせると良いのではなくて?」


「お待ち下さい…………ほう、これは効率が上がりそうですな」


「もう少し小型化して、農地に魔法を掛けられる様にしたい所ですわね」


 あまり興味は無いとは言え、イリアとて為政者である。支配者としての仕事はせねばならない。

 彼女が目をつけた農業用車両、これは後にイリアの手によりコンバインとトラクター両方の役割を果たす魔道具となる。

 この発明によって、アニス王国の農業事情は大きく前進する事となる。これは成功例として特に成果を上げた物の一つとなる。

 一番大きいのはイリアとアルベールによる重力魔法の開発だが、他にも様々な成功例がこれから増えて行く事になる。

 それらによって更にアニス王国は国力を増し、大きく発展していく。


「このビニールハウスという代物、魔道具で代用すれば冬場でも作物が作れるのではないか?」


「ほう、これは利用のし甲斐がありますな」


「農地を覆う様な結界に出来れば、北部でも活躍しそうですな」


 ミルド公爵が目をつけたのは、冬季が厳しいアニス王国にとって救いの手になる農業施設だ。

 地球と違ってビニールは必要なく、結界を発生させる魔道具として世に出る事となる。

 初期型はただ結界を発生させるだけだが、後発の物は結界内の温度を一定に保つ温室の機能も追加された。

 またその魔道具を応用し、結界内の温度を一定に保つエアコンという魔道具も後に開発される。

 もはや地球のそれとは全くの別物で、名称だけが参考元から流用された形だ。魔法の無い地球で生まれた代物が、魔法があるこの世界で魔改造されていく。


「こうしてみると、案外役に立つではないですか。あの世界も」


「イリア様とアルベール様が捕らえた者達は、非常に役にたっておりますよ」


「つまらない存在だと思いましたが、こうして役にたったのなら労力を割いた価値もありますわね」


 イリア達が捕らえた3名、内1名はカリスであり既に廃人と化している。しかし残る2名はアニス王国の地下牢にて軟禁状態にある。

 アルベールによってほぼ無力化されており、知識を得る為の教本の様な扱いとなっている。

 彼らが犯した罪は軽度であり、そこまで悪い扱いは受けてはいない。だが良い扱いとも言えないものだ。

 有用な情報を提供する事を条件に、刑罰が免除されるというだけ。嘘を吐くと激痛が走る魔道具を装着されているので、そう言った対策もなされている。


「どうせならもう1人ぐらい、廃人にしても良い様な存在が現れてくれないかしら」


「情報源が多いに越したことはありませんからな」


「我が領地にいる転生者、罪でも犯してくれれば助かるのですが」


 未だに泳がせたままの転生者、その存在は敢えてアニス王国の上層部で情報を留めている。

 すぐに対処可能な位置におり、他人の意識を操る等の行為は見られなかった事が理由だ。

 最初はただ忘れていただけだが、転生者の行動や傾向を調べるのに丁度いいかとイリアは考え泳がせている。

 どの様な思考でどの様に行動するのか、それらは全てリーシェにより逐一記録されている。そしてその対象となったのは、アクセルに声を掛けた例の少女であった。

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