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第71話 いつか来るその日までは

 新たに捕縛した転生者達を聖王国サリアに送り届けたイリアとアルベールは、ついでにサリアに立ち寄っていた。

 アルベールは現在、今回捕獲した者達が下手な動きをしないか監視している。その間にイリアはミアの執務室を訪れていた。

 あれから500人以上の転生者達から【スキル】の剥奪を行い、事情や記憶について確認がされている。その事に関して、イリアは尋ねに来た。


「どうです? あれから分かった事は」


「そうですね、料理関係はわりと為になったと言えます」


「料理ですか……あんまり興味はありませんね」


「幾つかの飲料については、イリア様もお気に召しそうでしたよ?」


 イリアとしては、将来に役立ちそうな情報だけを求めている。そう言った意味でなら、重力に関する知識はわりと役に立った。

 アルベールと共同で、重力を操る魔法の開発をイリアは行っている。形になれば結構な利便性を発揮すると思われる。

 従来の飛行魔法よりも早く飛ぶ事が可能になるのは既に判明している。他にもミルド公爵を中心に科学関連で使えそうな知識を洗っている。

 今は既存の魔道具の改良に反映させられないか、色々と検討されている最中だ。


「炭酸という飲み物があるそうで、再現可能か実験中です」


「もうちょっと戦闘に役立つ知識はありませんの?」


「……まだ強くなって何と戦うつもりなのです?」


 どこまでも力に貪欲なイリアに、思わずミアは苦笑した。サフィラに負けない為、とは流石にここではイリアも言えない。

 別世界の知識を利用すればサフィラを出し抜けるのでは、とイリアは考えている。ただ問題はサフィラも同様に、別世界の知識を得ているという点だ。

 理解不能な力はアドバンテージになるが、相手も知っている場合は対処をされてしまう可能性がある。


 その点に関しては現在開発中の重力魔法だと、見た目では何に作用させているか分かり辛い所が大きなメリットだ。

 とは言え、何度も使って見せれば気付かれそうではある。故に完璧な対策とまでは言えない。


「あら? 今回みたいに別世界の神が、何かしてくるかも知れませんよ?」


「それは……前代未聞だと、サフィラ様は仰いましたが……」


「一度あったのですよ? 警戒するに越した事はありません」


 その場凌ぎの思いつきを語ったイリアだが、その可能性についても考慮が必要だと彼女は改めて思った。

 サフィラの言う、有り得ない前代未聞の事態。それが実際に起きたのだから、二度目が無いと考えるのは甘いかも知れない。

 もしまた似た様な事があった時、後手に回らずに済む様な対策は必要だろう。イリアはそれについて後程アルベールに相談する事を決めた。

 これ以上の不測の事態はイリアも歓迎できない。別世界の知識が手に入ったのは確かにメリットではるが、計画に遅れが出た事に見合うかと言うと微妙であった。


「サフィラは何か言ってましたの?」


「対策はしたとは聞いていますが……」


「もう少し、話し合った方が良いのではなくて?」


 この世界で最も力あるものが誰かと言えば、間違いなくサフィラである。管理者であり守護者でもある彼女が、裏を掻かれる様な事態が再びあれば大問題だ。

 今回は少し厄介な騒動という程度に収まっているが、次も同程度とは限らない。もっと面倒な事になったりすると、イリアにも実害が出かねない。

 そうなってから慌てるのでは遅すぎる。一度あった事なのだから、二度目の可能性も考慮して動く方が将来の為になるだろう事は間違いない。

 そうなると結局は、サフィラを頼らざるを得ないのはイリアにとって苦々しい点である。


「一旦落ち着いたら、話し合ってみます」


「そうして下さる? (わたくし)もアルと話し合いますから」


「平和の維持は、なかなか難しいですね」


 魔族との停戦協定が結べたかと思えば、今回の騒動である。聖女として働いて来たミアにとっても、今の状況は喜ばしくない。

 終わらない小競り合いも含めて、彼女にとっては心苦しい出来事だ。そんなミアを見ても、イリアは謝ったりはしない。

 恐らく将来的に、一番の敵となるのは自分だと分かっているからだ。サフィラとの敵対は、つまりミアとの敵対にも繋がる。


 だが自分の望む未来の為ならば、それもやむなしと覚悟はとっくに決めている。唯一の親友だとは思っていても、譲れないものはあるのだ。

 ミアの目指す未来と、イリアの目指す未来は決して交わらない平行線。どちらが想いを通し切るか、それを競い合うのも悪くは無いとイリアは考えている。


「アルにも聞きましたが、争いは人の性ですよ」


「それも分かっています。ですが、それでも(わたし)は……」


「ふふっ。良いのではないですか? 貴女らしくて」


 イリアはミアの真っすぐさが気に入っている。口先だけの耳あたりが良い偽善的な平和ではなく、現実的な意味で世界の平和を願っている。

 罪人にも命はあるのだと、甘えた考えは持っていない。裁くべきは裁くという意識をちゃんと持っている。

 人類皆友達の様な思想を持つ夢想家ではないのだ。だが同時に、魔族との和平も考えている。


 昔からずっとブレる事がない、聖女の称号が相応しい人間である。イリアはミアをそう評価している。

 いつか対立するその日まで、この美しき聖女とは切磋琢磨する関係でありたいとイリアは願っている。

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