第69話 お礼参り
※四肢欠損系の暴力表現があります
神々がいる次元の狭間、それは無限に広がる空間でもあり、同時に閉じた世界でもある。
それぞれの神に与えられる範囲が決まっており、その範囲内に自身の管理する世界を収容している。
その境は区切られており、その範囲を生物の魂が越える事は通常ない。だが壁の様なものが物理的に存在しているのでは無い。
それ故にエヴァの様にやろうと思えば、別の世界に魂を送る事は可能だ。何かしらの理由があって、別々の世界を管理する神々が魂を交換する事だってある。
だが勝手に送り込む事は有り得ない。普通そんな事はやらない、という認識の隙を突いているのがエヴァによる転生だ。
「はいコイツもポイっと。ホント使えない連中ばかりね」
地球では世界の総人口が80億人を超えている。しかし先進国では少子化が問題視されている。
何故そうなっているかと言えば、こうしてエヴァが人間の魂を別の世界に投棄しているからだ。
そもそも魂が減らされているのだから、生まれ変わる人々が増える筈がない。だがそうでもしないと、世界のバランスが崩壊してしまう。
他の生命等に回すべきリソースは、必ずこの世界では人間が奪い去る。結果資源の枯渇などが、何回繰り返しても無くならない。
それを思えば、まだ何とかしようとしているだけエヴァはマシな神かも知れない。やっている事が、独裁者の選民思想と大差無かったとしても。
「あぁ〜〜ダルい。ホント面倒」
この世界はまるで失敗作の実験場だ。どんなにやり直しても上手く行かない、そんな失敗のサンプルを取り続けているかの様。
外れの世界を回されたとエヴァが思うのも無理はない。ただそれは好き勝手やった代償でもあるのだから同情の余地はない。
しかも管理を続けているのはほぼ私欲の為だ。今度こそは上手く、バレない程度に好き勝手がしたい。
そんな未来を獲得する為に実績を積みたいだけ。地球という世界は、エヴァにとっての踏み台でしかない。ただその踏み台が厄介な代物だったというだけで。
「つまんね〜マジで」
「ごきげんよう。少しよろしくて?」
「なっ!? だ、誰だお前ら!?」
いつもの様に魂の選別をしていたエヴァのすぐ近くに、イリアとアルベールがいつの間にか現れていた。
本当は過去に一方的にイリア達を知る機会があったのだが、エヴァはその事を完全に忘れている。
地球人に別世界の事を信じさせる為の下地作りとして、エヴァはイリア達の世界を調べてはいたのだ。テレビや映画など、様々な形で認識させる為に。
だがそれは世界全体の規模であり、ハルワート大陸だけにスポットを当てたのではない。
言ってしまえば適当に盗作コピペをした様なものだ。そんなやり方では、人物をろくに覚えられなくても不思議ではない。そもそも興味だって無かったのだから。
「貴女ですよね? 私の世界に要らぬ手出しをして来たのは?」
「はぁ? 何の話を…………あぁ、あの世界の」
「貴女のお陰で、私の計画に支障が出ました」
「だから何よ? てかアンタ人間でしょ? 何様のつもりよ」
エヴァの行動により、現在ハルワート大陸だけでも様々な問題が起きている。転生者の全てがサフィラに従ったのではない。
むしろ自由にさせろと反抗している者達もいる。まだ見つかっていない者が居る可能性も考えると、それなりの長期戦になる事は十分に考えられる。
そのせいでサフィラの監視はより厳しくなったし、厄介な能力を持つだけに転生者を無視する事も出来ない。
イリア達にしてみれば、エヴァは面倒な事をしてくれた相手になる。しかしそんな事はエヴァの知った事ではない。
身勝手な理由で動いている者同士の、好き勝手な争いが始まった。
「つまり謝罪するつもりはないと?」
「人間風情に下げる頭はないわ」
「そう。なら仕方ありません」
「分かったならさっさと帰……は?」
イリアの放った不可視の刃がエヴァの右肩から先を斬り飛ばす。人類最強格になったイリアと、神としての力は最低レベルのエヴァの間に大きな差はない。
しっかりと信仰されているサフィラと比べたら、エヴァは雑魚も良い所。単純な神としての力だけで言えば、アルベールより遥かに弱い。
神にとっては都合が悪すぎる世界を任されただけに、本来の力を発揮出来ないエヴァはイリアと同程度の力しかないのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「殺しはしません、面倒臭い事になりそうですから」
「ふむ、私からも少しお礼をしておこう」
激痛に苛まれるエヴァに、アルベールの追撃が入る。その手から放たれた、漆黒の靄がエヴァの傷口に纏わりつく。
まるで呪われたかの様に、傷口はドス黒い色に変化する。エヴァが幾ら力を使っても、斬り飛ばされた右腕は回復しなかった。
神としての力量差がある為に、エヴァの力では対抗できないのだ。痛みを堪えながら、床を転がったエヴァはイリア達を睨む。
何よりも人間に傷をつけられた事に怒りを燃やしていた。その視線には、強い憎しみが込められていた。
「お前らぁ!!」
「これに懲りたら、私達の世界には関わらない事です」
颯爽と去って行くイリア達に、自分が勝てないのはエヴァにも理解出来た。だからこそ惨めであり、彼女はその背中を睨み続けるしか出来なかった。




