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第64話 嵐の前の

 各領地の整備について方向性が決まり数日が過ぎた。国外へと出ていた関係で貯まっていた仕事が立て込んでいた。

 イリアだけではやや物量が多いのもあり、アルベールも手を貸していた。最近は2人で黙々と作業をする日が続いている。

 仕事が貯まっていたのはリーシェも同じであり今はこの場に居ない。各国に居る密偵達からの報告を確認しに行っていた。

 それらの根回しなどはイリアの得意分野ではないので、その殆どはリーシェが担当していた。


「そろそろ休憩したらどうだ?」


「……そうですわね」


「紅茶でも用意しよう」


 支配者とは案外地味なもので、大半はこの様に裏方仕事である。公務として人前に出る時以外は、こうして書類と睨み合いだ。

 王とは部下に全てを任せて、玉座に座っていると思われがちだ。だがそんな王はただのお飾りだ。

 国内外の事を全て他人任せで、自分は何も知らない様ではただの偶像。もはや存在する価値がない。まさにイリアの前に国王をやっていたのがそのタイプだ。

 血筋に胡座をかいて、ただお飾りの王をやっているだけ。その割に権利と権力だけは行使するので、当時はまともな貴族達の反感を買っていたのだ。


「ここに置くよ」


「ええ、ありがとう」


 リーシェが居ないので仕方がないとは言え、ティーポットを使い紅茶を淹れる邪神の絵面は少々シュールである。

 ただこの2人にとってはごく有り触れた一幕に過ぎない。魔の森で共同生活をしていた時に何度も行われてきた。

 イリアが食事を用意していた頃もあったが、後にアルベールも時々作る様になっていた。

 アルベールのイリアに対する認識が、ただの人間では無くなった頃から次第にそうなって行った。

 今でこそ王城住まいであるから機会は減ったが、この関係性は昔から変わらない。


「予定よりも順調だね」


「この調子ならば、半年ほど早められそうですね」


「余計な問題さえ起きなければ、だろう?」


 大陸の支配を進め多くの人類を傘下に治める。その過程で生まれる崇拝や畏怖、憎しみといった感情を一身に受ける。

 その量が多い程に神への道は近づいて行く。アルベールが邪神になったのも、この方法によるもの。正負に関わらず人の意思を集める事に意味がある。

 その意味ではサフィラは正の意思を支えにしている。神を信じ祈りを捧げる人々の意思により力を増しているのだ。

 アルベールは逆に負の感情を収集する事で力を得られる。何故創造主がそんな仕組みにしたのか、それはサフィラですら知らない事だ。


「例の不思議な魂ですか」


「アレはサフィラにも私にも理解不能だ」


「周囲への影響力がどの程度あるのか、気になりますわね」


 ミアにより情報が齎された後、アルベールはサフィラと接触していた。問題の若者達について、神の視点から様子を探ってみても答えは出なかった。

 より正確に言うならば、良く分からなかったと言うのが正しい。本来この世界に生きる人々の魂は、神であればその詳細が分かる。

 だからこそアルベールは、ずっと同じ魂を追い続けられた。しかし問題となっている人類については、詳細がはっきりと分からないのだ。

 まるで靄が掛かったかの様に過去が見えない。今の人生を歩む前の人生が、まるで分からないのだ。


「様子が変、だったのでしたね?」


「何とも表現が難しい。敢えて言うなら、君達の魂とは形が違う」


「私達とは違う魂、ですか」


 サフィラとアルベールが理解出来たのはそれだけだ。イリアやミア達とは微妙に魂の形状が違う。人類の魂は綺麗な球体をしている。

 しかし問題の者達は歪なのだ。まるで無理矢理何かを付け足したかの様に。それはただの変異に過ぎないのか、それとも別の意味があるのか。

 試しに1人ぐらい魂を抜いてみてはどうかとアルベールは提案した。しかしサフィラがそれを拒否、殺してまで確認する事は認められなかった。

 その結果、今の静観するしかない状況があった。神が人間に過剰な干渉はすべきではないという、そのルールをサフィラは頑なに守っていた。


「神すら知らぬ謎の魂を持つ者達……」


「何も無ければ良いが」


「今はまだ、サフィラと揉めたくはないですからね」


 一番の問題はそこにある。何者であろうと、障害になる様なら容赦なく排除してしまえば良い。

 イリアとしてはそう言い切りたい所だが、サフィラが先行して下手に手を出さない様に言って来ていた。

 それを無視して纏めて処理してしまえば、余計な軋轢を生む。今の内から明確な対立関係になるのは悪手でしかない。

 それに殺した場合にどうなるか、それが分からないという問題もある。普通にそのまま輪廻転生を繰り返すのか、それとも別の現象が起きるのか。

 周囲の土地や環境への影響はどうなるのか。危険性が不明の厄介な爆弾となっていた。


「面倒ですし、1人か2人サンプルが欲しいですわね」


「ルウィーネに行く前は、この国には居なかったからね」


「そろそろ現れてくれないかしら」


 イリアのその願いは、わりとすぐ叶う事になる。不思議な魂を持つ者達の素性もそこではっきりする。

 今世界中で起きている現象の真実に繋がる答えと共に。今までアルベールですら知らなかった世界の真実が、もうすぐ明かされようとしていた。

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