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第60話 女王様、バカンスを満喫中

■お知らせ

 2024年、ここまでお付き合い頂きありがとうございました! 明日以降も休まず毎日更新で続けますので来年もまたよろしくお願いします。

 海洋国家ルウィーネに滞在中のイリアは、船の上から釣り糸を垂らしていた。殺伐とした日々ばかりであったイリアの、ちょっとした羽休め。

 バカンスとも言うべき期間を、彼女はアルベールと共に過ごしている。まだ春先である為に、船上に出ていても暑く感じる程ではない。

 麗らかな春の陽気に包まれながら、緩やかに2人の時間が流れていく。すると何度目かとなるアタリにより、イリアが握る釣り竿の先端が湾曲する。


「また来たようですわね」


「初めてにしては上手いじゃないか」


「釣りというのも、悪くはありませんねっ!」


 イリアの腕力ならば、魚を釣り上げるぐらいなんて事は無い。甲板に釣り上げられた魚から、アルベールが釣り針を外す。

 そして釣り上げられた魚は専用の容器に移される。鮮度が落ちない様に、冷却の魔法が掛かっている保存用の魔道具だ。

 ルウィーネでは当たり前の様に使用されている魚介類用であり、国が所有する船舶だけあってそのサイズも巨大だ。

 人間がすっぽりと収まる、浴槽と変わらない大きさをしている。その中には既に、イリアが釣り上げた人の顔より大きな魚が数匹入っていた。

 この光景だけならば、新婚旅行に来たご婦人と夫の絵面である。とても歴史に名を残す古の邪神と、世界最凶の暴君とは思えない和やかなムードが形成されていた。


「楽しめている様だね」


「ええ。狩りとはまた違った良さがありますわ」


「君が楽しめているなら何よりだ」


 これまで1万年近くも、ただ遠くから見守るだけだった女性。そんな相手と過ごす時間が、アルベールにはこれ以上ない宝物の様に思えた。

 自分にはそんな資格はないと、遠い昔に諦めてしまった関係性。それがこうして、イリアの存在によって実現していた。

 彼女だからこそ成り立った今が、アルベールの心に染み渡る。一緒に釣りをしたなんて、そう珍しい事ではない。

 川や湖がある土地ならば誰でも出来る事だ。けれどもその有り触れた時間が、さして特別ではない瞬間が彼には輝いて見えていた。


「海とは思っていたよりも興味深いですわね」


「気に入ったのかい?」


「帰ったら王国北部の山脈、削り取ってみましょうか?」


 アニス王国が海と面していないのは、大陸北部にある山脈によって遮られているからだ。それを削り取ってしまえば、確かに海まで行くのが簡単になる。

 それにイリアの実力ならば、アニス王国北部だけ削り取るぐらい大した手間ではない。しかしそれはあまりにも大規模な環境破壊である。

 山脈にはドラゴンなどの巨大な魔物や生物が生息しているので、そんな事をすれば何が起きるか分からない。

 普通なら先ずやらないが、仮に魔物の大群が押し寄せたとしてもイリアからすれば脅威にはならない。ただの興味本位というだけで、大陸の地図が変化してしまう。


「転移してしまえば良いのではないかな?」


「……それもそうですわね」


「それにサフィラが小言を言うかも知れないからね」


 アルベールの助言により、大規模な自然破壊は阻止された。こんな理由で地図が書き変わっていたら、世界が滅茶苦茶になってしまう。

 それが出来てしまえる存在だからこそ、その力の使われ方が重要となる。とは言えアルベールが止めた理由はそんなご大層な観点からではない。

 単に言葉通り、いつでも行けるのだから無駄な労力だというだけ。そしてサフィラに小言を言われるというのも間違いではない。

 女神として、見守っているのは何も人類だけではないのだ。世界地図を書き変え様な行動や、一方的な生命の大量殺戮などを行えば流石に黙ってはいない。

 戦争ならば人類の意思によるものだが、一方的なただの殺戮は行う方の身勝手な振る舞いでしかない。


「しかし、海で出来る事は大体やってしまいましたわね」


「平民達は海で泳ぐそうだが」


「それは流石に興味ありませんわね」


 貴族の女性が人前で肌を晒して泳ぐなど、先ず有り得ない話だ。ただイリアが興味を持てない理由は少し違う。

 アルベールと2人きりでなら泳いでも構わないが、誰に見られるか分からない所ではやりたいと思わないだけだ。

 令嬢らしからぬ姿など、最初からアルベールには見られているのだ。貴族女性としての価値観による判断など今更過ぎる。

 もちろん羞恥心が一切無いという事でもないが、今になって年頃の若い女性らしい反応などイリアは取らない。既にアルベールには全て見られた後なのだから。


「あら? あれは何かしら」


「魔物の様だな」


「初めて実物を見ましたわ」


 それはこの辺りでシーサーペントと呼ばれる巨大なヘビに似た魔物だ。それが3匹纏まってこの船に向かって来ている。

 その様子に気付いた船員達は、大慌てで船を移動させようとしている。しかしどう見ても間に合いそうにない。

 他国の要人であるイリア達を、急いで逃がそうとする船員を遮りイリアは海へと近づく。船員達を怯えさせない為に、イリアもアルベールも力を抑えた状態で居る。

 そのせいで魔物が寄って来てしまっただけで、この程度の存在などイリアにすれば敵にすらならない。

 イリアがシーサーペントに向かって手を伸ばせば、得意の風の刃が3匹の首に目掛けて飛翔する。


「ただ大きいだけですわね」


「あまり保有する魔素は多くなさそうだ」


 一瞬で3匹を処理したイリアと、全く動じていないアルベール。そんな2人を見て船員達は驚愕の表情で見ていた。

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