第57話 海洋国家ルウィーネ
海洋国家ルウィーネに到着したイリア達は、先ずルウィーネの代表者である女王と面会をしていた。
今回の訪問はイリアが招待された側である為、最初から歓迎ムードで出迎えられ今は貴賓室で女王と対面で座っている。
高価な革張りのソファに座るルウィーネの女王の名は、ミランダ・ルウィーネ・エルレイン。真っ青な髪を結い上げた豪快な印象を受ける女性だ。
服装もイリアの様なドレス姿ではなく、将軍が着る様な軍服だ。ルウィーネは元々海の男達が中心に集まった国である。
海賊や船乗り等の荒くれ者達が多く居た為に、王族もそう言った生まれの者から始まっている。それ故に昔から、王の正装はやや派手な軍服となっている。
「悪いね、わざわざ来て貰って」
「いいえ、構いませんわよ。海にも興味はありましたから」
「ならせっかく来たんだ、楽しんでいっておくれよ」
イリアとミランダが直接会ったのは、大陸会議が初めてとなる。イリアの女王就任の挨拶状などでの交流は多少あったが、以前まではそれだけだった。
お互い特に意識をしていなかったからというのもある。しかし大陸会議で会ってから、お互い似た様な考え方をしていると判明した。
ミランダもまた荒くれ者共を従える実力主義者で、イリアと国家運営の方向性が似ている。違うのはイリアの様に大陸の支配までは狙っていない所か。
そんな訳でお互いが、コイツは気が合うかも知れないと考えた次第だ。それで大陸会議開催中から接触を図り、こうして公式に招待するという結果に繋がった。
イリアとしても断る理由が無かったので、こうして招待に応じている。もし万が一ミランダが何かを企んでいたのなら、正面から突破すれば良いだけ。
それで何かあったとしても、イリアには何の危険もデメリットも無いのだから。
「正直モーランの件は助かったよ。ウチも北部がやられてねぇ」
「周辺国はどこもやられましたからね」
「あれにはアタシも困っていたのさ」
まだモーランが共和国を名乗れていた頃、ここルウィーネもまたアニス王国と同様の被害に遭っていたのだ。
ルウィーネでは北部の農村から作物が盗まれていた。海に近いルウィーネでは、潮風の関係で農耕に使える土地が他国より狭い。
その多くは北部に集中しているので、そこを狙われると洒落にならない被害が出てしまう。
食べる物だけに限定すれば海産物もあるにはあるが、小麦や野菜を食べないわけにもいかない。
小麦が無いとパンが作れないし、野菜が無いとサラダやスープの具材に困る。だからこそ謎の食糧泥棒にはミランダも頭を悩ませていた。
それがいざ蓋を開けてみれば、モーランによる大規模な窃盗だったわけだ。当然ミランダは激怒し、旧モーラン評議会に対しての賠償を求めた。
責任者は既に処刑されていたが、それは上層部のみ。アニス王国の傀儡と化した評議会により、その賠償は続いている。
もちろんそんな余裕は現モーランには無いので、アニス王国に借りるという形で支払っている。
もう完全にアニス王国へ依存しており、もはや国として再興するのは不可能だろう。
「アンタが話の分かる奴で良かったよ」
「元々そちらの所有物ですから」
「そりゃそうだけどね、まあ礼はきっちりさせて貰うさ」
モーランを占領した際に、他国から奪った作物はそれぞれ別々に保管されていた。品質の管理なども含めて仕分けされていたので、各国に返還するのも簡単だった。
別に黙ってそのまま自国の物にしても良かったが、そんな小悪党みたいな真似をするのはイリアの趣味ではない。
それにアルベールから、こういう時は恩を売っておく方が良いとの助言を貰っていたのもある。
食べ物は命に直結する重要なもの、その恩は大きいとかつて支配者をしていたアルベールは良く理解していた。
それらの理由から、アニス王国に対してルウィーネからの謝礼が約束されており、歓待も兼ねて今回はその話し合いが主な要件となる。
アニス王国は北部が険しい山脈が続いているので、大陸の北部にある海まで行くのは難しい。どうしても海産物を輸入するとなると、ルウィーネが一番の取引相手だ。
モーランを実質自国領とした今となっては、無駄な税も掛かる事は無くなった。これは非常に良い機会だと言える。
「我が国の宰相に、希望する品のリストを作らせてあります」
「分かった。後で目を通しておくよ」
「それから例の件ですが」
「ああ、聖女様の。うちにも居るみたいだね」
例の不思議な若者達はどうやらルウィーネでも見つかっているらしい。今の所アニス王国内では発見されていないが、その内見つかるのも時間の問題かも知れない。
危険性があるのかどうかもまだ分からない為、発見されたどの国も対応に困っている。アニス王国の近隣では、旧モーラン共和国とリンネル王国で見つかっている。
逆にオーレル帝国も、アニス王国同様にまだ発見されていない。法則性も地域も全くの統一性がなく、どうにも真相が見えて来ない。
正しい対処法も分かっていない為、直近で起きている厄介な問題であった。その辺りについても協議を重ねながら、イリアとミランダによる初の公式な会談は進んでいった。




