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第54話 暴君の支配が始まった日

 第1王子と騎士団長を吹き飛ばすという暴挙に出たにも関わらず、まるで何も無かったかの様に笑い合っている2人。

 イリアとアルベールを取り囲む騎士達は、どうすれば良いのか分からない。簡単に人間を吹き飛ばす様な、謎の力を持っているのは確実だからだ。

 今ここに居る騎士全員で斬り掛かっても、勝てるビジョンが彼らには浮かばない。何か相手にしてはいけないモノを、今相手にしている様な感覚に襲われる。


「何をしているんだ騎士団長! そいつらを殺せ!」


「分かっております! 全員そいつらを斬れ!」


「あら? 殺り合いたいのですか? (わたくし)達と?」


 目を覚ましたウィリアムが騎士団長に命令し、騎士団長が騎士達に命令を下すが誰も動けない。抑えていたイリアの魔力が解放されたからだ。

 もはやイリアの持つ魔力は、魔の森でも最大規模である。人里で生活しようと思えば、意図的に抑えねば無意味に威圧してしまう。

 今回は大人として参加する初めてのパーティーだったから、一旦は楽しんでみようとしただけだ。

 その目的も達成した以上は、もう茶番に付き合う必要はない。つまり容赦をする必要もない。

 殺せという命令を下した以上は、殺る気だという事。ならばここからは敵同士の戦いでありパーティーではない。王位簒奪に来たイリア本来の目的を果たすのみ。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? ば、ばけもの!?」


「なんだ!? この圧力は!?」


「さ、寒気が」


 イリアの保有魔力を正確に把握する事が出来た宮廷魔道士の長が、腰を抜かして後ろに倒れ込む。

 同様にその力を感じた魔道士達が、怯えながらイリアから距離を取ろうと会場の隅へと逃げていく。

 そして近くに居たもの達は、息も出来ぬ程のプレッシャーに晒されていた。魔法にさほど詳しくない者であっても感じさせる凍える様な冷気。

 それはイリアから放たれる殺意。歯向かうならば容赦はしないという意思の現れ。取り囲んでいた騎士達は皆、本能的な恐怖からガタガタと震えていた。

 イリアには敵わない圧倒的弱者であっても、絶対に勝てないという事だけは生存本能が訴えていた。


「クッ!? 貴様は一体!?」


「イリア・ハーミットですわ」


「そんな事は知っている! 何のつもりだ!」


 腐っても騎士団長、こんな不正まみれの騎士でも一応は騎士。それなりに死線も潜り抜けたが故に、胆力だけならそれ相応にある。

 他の一介の騎士達とは違い、会話をするぐらいなら可能だった。だが恐怖を感じていない訳では無い。

 相対している者が生半可な存在ではない事は理解していた。彼が聞きたいのはイリアの目的だ。

 もしここに居る人間を全員殺すと言われたら、全力で抵抗せねばならない。騎士としてというよりは、自分自身の命を守る為に。


「本日はこの国を頂きに参りました」


「なっ!? 何を馬鹿な!?」


「少なくとも今の王族ほど、私は馬鹿ではありませんわよ?」


 あまりにもストレートな王族批判に、騎士団長は何も言い返せなかった。たった2人で、こんなにも真正面から王位簒奪を目論む者は普通居ない。

 騎士団を率いるでもなくただ男女2人。そんなクーデターなどどこの世界にあるものかと、騎士団長は叫びたい衝動に駆られた。

 だが事実として今現在、目の前で起きている以上は否定したくても出来ない。それに騎士団長と同等かそれ以上の胆力を持つ者は、この場には殆ど居なかった。

 せいぜい今のイリアに立ち向かえるとするならば、ミルド公爵ぐらいしか居ないだろう。


「な、何をしておる! 早く捕らえよ!」


「そんな事は分かっております!!」


「無理しなくても良いのですよ?」


 優雅に歩く2人から、一定の距離を取りながら後退していた騎士団長。しかしついにその限界が来た。もうその後ろは国王と王妃が座る席だ。

 これ以上は後退する事が出来ない。不正の限りを尽くしてきたとは言っても、騎士団長としてのプライドが無いわけではない。

 無駄に高い自尊心だけは持ち合わせているので、ここで尻尾を巻いて逃げ出すという選択肢を選べない。

 そして王もまた、逃げ出す事は出来なかった。18歳の小娘が怖かったから逃げた王として、歴史に名を残すわけにはいかないと踏ん張っていた。


「アル、手出しは不要ですよ」


「分かった」


「クソッ!! はあああああ!!」


 ヤケクソになった騎士団長は、自分に出来る最高の一撃をイリアに向かって振り下ろす。女性としては十分高い背丈のイリアでも、騎士団長よりはまだ小さい。

 そんな体格差があっても、振り下ろされた剣は振り抜け無かった。イリアは器用にも、所持していた扇子で受け止めていた。

 それを見た騎士団長は驚愕に目を見開く。確かに異様な力を感じる令嬢ではあったが、剣が扇子で受け止められるなど前代未聞だ。


 普通なら扇子の方が真っ二つになって終わりだ。しかし何故か、それが成立してしまっていた。

 仮に金属で作られた物でも、それだけでは受け止めきれない。それ相応の筋力が必要になる。

 だがイリアは見た目だけならほっそりとした普通の令嬢と変わらない。もはや同じ人間とは思えず、騎士団長は戦慄を覚えた。


「お祖母様の扇子、中々頑丈ですわね。気に入りました」


「ほう、魔力を通せるのか。良い品だな」


「ぬおおおおおおおお!」


「ああ、もう良いですよ」


「ぐわあああああああああ!」


 またしても冗談の様に人間が吹き飛び、騎士団長は宙を舞う。そのプライドをベキベキにへし折りながら、騎士団長は壁に激突し気を失った。

 もはや国王と王妃を守るものは誰もいない。王族専用の1段高い席には、イリア達以外誰も近寄ろうともしない。

 騎士達は戦意を喪失し、宮廷魔道士はイリアを恐れて目も合わせたがらない。ウィリアム達はと言えば、恐怖に慄いていた。あれほど偉そうにしていたと言うのに見る影もない。


「さあ、譲って頂きましょうか。その王位を」


「ひ、ひっ!?」


「素直に明け渡すなら、命は取らずにいてあげますわよ?」


 イリアの発言と共に、不可視の刃が国王と王妃が座るの椅子の間を走った。巨大な破壊の跡を見て2人は慌てて逃げ出して行く。

 イリアは国王が落として言った王冠を拾いあげると、自らの頭に載せた。そしてそのまま優雅に国王の席に座る。

 ちょうどそのタイミングで、会場内の異常に気づいたカイル達がぞろぞろと駆け込んで来た。


 城内の警備をしていた多くの騎士達が目にしたのは、そんな王の椅子に座るイリアの姿だ。

 それと同時にアルベールはいつものローブ姿に戻ると、彼もまた抑えていた邪神のオーラを解放する。

 イリアの時以上の冷たい空気が会場を包む。イリアには無かった、悍ましい気配が貴族達に襲いかかる。


「ひれ伏せ」


 アルベールが宣言すると、一斉にその場にいた全員が不思議な力で強引に跪かされた。大半の者達は何が起きているか分からない。

 しかし王位簒奪が行われている事だけは誰もが理解できた。そしてイリアは高らかに宣言する。


「今この時をもって、このアニス王国は私が頂きました。気に入らないのなら歯向かうのも結構、ただし命の保証は致しません」


 正常な思考を持つ者達は、この時点で理解している。どう見ても常軌を逸した事態が起きている事を。そしてこの2人には、絶対に敵対などしてはならないと。


「私に従う者には繁栄を、敵対する者には死を与えましょう」


「…………貴女なら、この国を繁栄させられると?」


 この空気の中で唯一声を出せたのはミルド公爵唯一人。振り絞る様にイリアへと問いかける。

 それは当然の疑問だ。何の根拠もない宣言では信用する事は出来ない。異様な力があるのは理解出来ても、その根拠は何なのかという話だ。

 まともに協力者など居ない筈のイリアに、何が出来るのかと思うのは仕方がない。


「改めて紹介しましょう、彼はアルベール。あの古の邪神です」


「な、なんと」


 ただそれを宣言されただけならば、何を馬鹿なと相手にされないだろう。しかしこの場では違う。

 その明らかに普通ではない力、気配を全員が見せつけられ体感したのだ。それにこの時点では懐疑的だった者も、この後に信じざるを得なくなる。

 聖女を通じて世界中に発表された、邪神アルベール復活の報によって。


「その眷属たる私が、宣言しましょう。この国を世界一の国にしてみせると。私のアニス王国が、この大陸を制するのです」


 こうしてイリアは、アニス王国を手に入れた。宣言通り従う者には繁栄を、敵対者には死を与えた。

 ここから始まった、イリアとアルベールが未来を掴む為の日々が。

第一部に相当する部分はここで終了です。時系列が入れ替わりつつの進行は基本ここまでとなります。次のエピソードに登場人物まとめを挟みます。

そちらは21時頃に載せます。ただの再確認用なので読み飛ばしても問題はありません。

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