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第52話 パーティー会場にて③

 すっかり反国王派のおじ様達の心を掴んだイリアは、様々な貴族達から声をかけられていた。

 降って湧いた希望の星に、今の内から交流を持とうという算段だ。特に反国王派は野心的な者が多く、現在のアニス王国に対する評価に納得していない。

 元々は強者が集まる国として出来たと言うのに、今ではすっかり落ちぶれて怠惰な田舎者扱いだ。

 アニス王国に生きる貴族として、そのルーツに誇りある者達には到底受け入れられるものではない。

 最近では隣国のオーレル帝国や、モーラン共和国でキナ臭い話も出ている。おめおめと侵略を許す様な事はあってはならないと彼らは考えていた。


「ほう、ではイリア嬢は今のやり方は甘いと?」


「ええ。強者こそが国を統べるべきですわ」


「これは心強い! 流石はデンゼル様のお孫さんですなぁ」


 また1人反国王派の貴族が満足気にイリアから離れていく。彼らはイリアがハーミット家の当主に相応しい価値観の持ち主であると喜んでいた。

 正しく祖父母であるデンゼル・ハーミットや、マリーナ・ハーミットの孫娘なのだと。2人もまた根っからの武人であり、アニス王国の領土拡大を訴えていた。

 魔族に対して及び腰の人族に、大いに不満を感じていたのだ。そんな逃げ腰の国など、吸収してしまえとデンゼルは良く言っていた。


 アニス王国の様に魔族領と国境が面していないから、好き勝手に甘ったれた事が言えるのだと。

 そんな祖父母と似た思想をイリアが持っているというのは、反国王派にとって非常に大きなプラスであった。

 これは本当に王位簒奪が狙えるかも知れない。そう考えた者達は我先にとミルド公爵の元へと向かう。


「公爵、これは良い機会でしょう!」


「しかし、彼女はまだ若い。重荷を背負わせるのも」


「そんな事を言っている場合ではないでしょう!」


 会場の奥まった場所で、反国王派達の密会が行われている。魔法や魔道具を使えば声を外部に漏らさない結界を張れる。

 その中で彼は紛糾していた。ミルド公爵を始めとするまだイリアは若過ぎると考える者、これ以上の腐敗を許すべきではないと考える者。

 様々な意見交換が行われるが、意見が1つに纏まらない。結局王族が会場に現れるまで、彼らの議論は続いた。


 流石に王族が居る場でいつまでもこんな会話は続けられないし、ずっと結界の中に居るのは怪しまれる。

 話し合いの途中ではあったが、彼らはまた会場に散って行く。そんな彼らは肝心な事を知らない。

 とっくの昔にイリアの覚悟は決まっているし、今日この場で全てを手に入れるつもりだという事を。

 そんな事情を知らない反国王派は、土台作りの為イリアに国を任せた方が良いのではないか、と言う風説を会場に流し始める。そんな風潮を徐々に浸透させる為に。


「イリア嬢は非常に聡明だ。ウィリアム殿下とは大違いだ」


「あの様な半端者より、ハーミット家のご令嬢の方が王位に相応しい」


「さっきのダンスを見たかね? マリーナ様の孫娘に相応しいお方だ」


 その様な噂話が、徐々に広まっていく。派閥が割れているとは言っても、貴族が完全に二分されている訳では無い。

 どちらの派閥にも属さない貴族達も居た。それは蝙蝠をしているからではなく、単独でもやっていけるだけの発言力を持つ者達だ。

 辺境伯などがこの筆頭である。実質辺境伯でもあるハーミット家以外に、あと3つの辺境伯家がある。


 その内の1つである、エルロード夫妻も会場に来ていた。現当主のマリオン・エルロードと、夫人のカルティア・エルロードだ。

 トサカの様に逆立った赤毛と恵まれた体躯が特徴のマリオンと、茶髪をショートカットにした平凡で小柄な女性のカルティア。

 一見大人しそうに見えるカルティアだが、実は結構な肉体派だ。2人揃うと中々に暑苦しい空間になる。


「イリア嬢、自分はマリオン・エルロードと申します!」


「私はカルティア・エルロードです。以後お見知りおきを」


「え、ええ。宜しくお願い致しますわ」


「マリーナ様の様なお方だと聞いてこれは挨拶をするしかないと2人でお伺いさせて頂きました。恥ずかしながら自分達はマリーナ様を昔からお慕いしておりまして」


 弾丸の様にペラペラと2人はマリーナ・ハーミットの何処が好きかをイリアに語っていく。

 2人はマリーナの大ファンなのだ。女性でありながら魔族を相手に大立ち回り。残した功績は女性騎士としては歴代1位でトップを独走。

 男性騎士でも並び立つのは難しく、現在でも追いつけたのはただ1人。その経歴に並ぶのはイリアの祖父でマリーナの夫デンゼルのみ。


 勇猛果敢に2人で戦う姿は英雄譚の様だと言われていた。そんなマリーナ愛を語り尽くすと2人は帰って行った。

 悪意があるわけでもなく、ただやたら喋るだけなので害はない。害は無いがどう反応すべきか分からなかったイリアとアルベールは苦笑を浮かべる。

 そんな2人の前に、やたらと着飾った男が現れた。見た目からしてイリアと同年代なのは間違いないだろう。


「貴様! 国に戻ったのに王族に挨拶にも来ないとはどう言う了見だ!!」


「……貴方は?」


「自国の王位継承者も知らんのか!」


 イリアとアルベールの前に現れたのは、アニス王国第1王子。反国王派からは無能な半端者と言われているウィリアム王子であった。

推しへの愛が暑苦しいエルロード夫妻です

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