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第28話 魔王ガルド

 ハルワート大陸の真ん中から西側にある土地は全て魔族の領域である。長年に渡り人族と対立し続けている魔族達は、元は人族であった人々を祖としている。

 アルベールがまだ人として生きていた時代には、魔族と呼ばれる人々は存在していなかった。

 魔素が豊富な土地に生きていた人々が、徐々に今の魔族と呼ばれる種族に変化していった。人族より少しだけ魔物に近い性質を持ち、外見も種族によってバラバラだ。

 共通するのは、肌が灰色に近い色をしていると言う一点のみ。そんな魔族達が集まって出来た国が魔族の国グライア。

 魔王により統一された力こそ全ての国である。そんなグライアの王城で、魔王ガルドは玉座に堂々と座っている。


「ガルド様、こちらが報告書になります」


「ああ………………フッ」


「ガルド様?」


 突然ガルドが笑った事に、副官であるジルヴァは困惑する。彼はガルドの右腕を務める頭脳派の男性だ。

 赤髪の短髪に鋭く細い目、シャープでスラリとした輪郭。ガルドとは違い細身の長身で、執事服でも着せれば良く似合いそうな見た目をしている。

 魔族には珍しく、知性を感じさせる文官風の佇まい。しかし魔族らしく、武力もしっかりと持っている。

 伊達に魔族のナンバー2をやってはいない。そんな頭脳派の彼でも、ガルドが笑った理由が分からなかった。


「ククク…………ハハハハハハ!」


「随分と楽しそうですが、そん内容でしたか?」


「あぁ、面白ぇな。あの女、モーランまで奪いやがった」


 ジルヴァが渡した報告書は、人族の動向について調べたもの。外見を偽れる密偵達を人族の国々に送り込み、様々な情報を探らせているのだ。

 その辺りは魔族も人族もあまり違いはない。そんな密偵達から届いた報告書には、アニス王国がモーラン共和国を占領した事について書かれていた。

 僅か数日で国の中枢まで肉薄し、最後は女王自らが乗り込み制圧した事も正確に記載されていた。

 そんな報告をガルドは非常に満足気な表情だ。敵国がより力を得たと言うのに、随分と嬉しそうな様子にジルヴァは戸惑う。


「喜ぶ様な話ではありませんよ?」


「いいや、気に入ったね。野心的な所も良い」


「……何の話をされているのです?」


 ガルドは時々思いもよらぬ言動を取るとジルヴァは良く知っている。そもそも2人は同じ集落の出身であり、元々兄と弟の様な関係性だ。

 昔からの自由奔放なガルドに、付き合わされて来たジルヴァは何度も何度も振り回されて来た。

 ドラゴンを倒そうだとか、魔王を倒しに行くぞなんて日常茶飯事だった。そんな経験を散々して来たジルヴァの勘が、警鐘を鳴らしていた。

 これは絶対にややこしい事を言い出す時の前触れであると。冷たい汗がジルヴァの頬を伝い落ちる。


「あの女さ、イリアだよ。ハーミットの女だ。アイツを俺の嫁にする」


「ばっ!? 馬鹿を言わないで下さい! 相手は人間ですよ!?」


「別に構いやしねぇ。俺は強い女が良いんだ」


「魔族にだって強い女性は居るでしょう!?」


 突然嫁にする宣言を始めたガルドを、必死でジルヴァは説得する。確かに人族と魔族の間でも子供は作れる。かつてはそんな禁断の恋を成し遂げた者も居る。

 しかし生まれた子供は大体ハーフになる為、純血の魔族より弱い場合が多い。だと言うのに魔族の王が人間の女性を嫁にすると言うのだ。

 当然ながら副官としても、そして魔族としても止めねばならない。こんな事を国民に知られれば大惨事になり兼ねない。

 かつてイリアに焼き殺された魔族は少なくない。遺族達は間違いなく猛反発するだろう。下手をすれば、魔王の椅子を狙う者達が反旗を翻し兼ねない。


「魔族にもあれだけ強い女は居ねぇ。それにアイツは多分普通の人間じゃねぇ。子供だって強くなるさ」


「そう言う問題じゃないでしょう!? 反乱が起きますよ!?」


「あぁ? んなもん俺とあの女なら余裕で蹴散らせる」


「お考え直し下さい! 魔王が人間の女を嫁にするなど前代未聞です!」


 一向に考えを変えようとしないガルドに、引き下がらないジルヴァ。2人の意見はどこまでも平行線だ。

 ガルドはこうだと決めると中々意見を変えない。どこまでも我が道を突き進む男だ。前列がねぇなら俺が作れば良いだろうと全く意に返さない。

 昔からそうだが、ガルドは何よりも強さを重要視する。故にかつて戦場でイリアと相見えて以来、ずっとイリアの事が頭から離れなかった。

 まるで虫けらでも叩き潰すかの様に、あっさりと大軍を殲滅せしめた魔力量。ガルドを弱者と言い切った豪胆さに、突き刺す様なプレッシャー。

 どれもこれも、強者故に許された言動。あの日見た時から、ガルドはイリアに惹かれていた。


「お前も見ただろ? あの異常な強さを」


「それは……ですが、だからと言って!」


「俺は決めたぜ、アイツに見合うぐらい強くなってやる」


 最初は弱者だと見逃され、敗走した悔しさがベースにあった。あの日を境にガルドは自らを鍛えに鍛えた。

 しかしそれでもまだ並んだとは言えない。男として、そして魔族の王としてもこのままでは居られない。

 そう考えたガルドは、イリアに並ぶ程強くなる事を決意した。魔王の嫁が魔女だと言うのも悪くないと、ガルドは楽しそうに笑っていた。

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