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第26話 アニス王国宰相

 ランバート家当主、ミルド・ランバート公爵の仕事は多岐に渡る。宰相として他国との外交や、内政に関わる様々な仕事を任されている。

 彼はアニス王国の頭脳とまで言われている壮年の男性だ。現在55歳であるが、まだまだ現役のパワフルさがある。

 白髪交じりの青い髪を短く切り揃え、ヒゲはいつも綺麗に剃っている。若い頃は大層モテた事が分かる整った顔立ち。

 背丈は平均的だが、聡明で厳しい印象がプレッシャーを感じさせる。その象徴たる鋭い吊り上がった双眸には、落ちた視力を補う魔導具のモノクルを右目に装着していた。


「ふむ。モーランを占領出来たのはやはり大きいか」


 国内の景気に関する報告書を見ながら、今後の方針について手もとの用紙に書き込んで行く。

 数年前とは比べるのも馬鹿らしい程に、アニス王国は発展を続けていた。今現在の忙しさは、まさに嬉しい悲鳴そのもの。

 ここ最近は増えた税収の使い道について、会議が紛糾する事が度々ある。それもあってミルド公爵はやや寝不足の日が増えつつあった。

 しかしその事について、公爵は全く問題とは考えていない。前王の頃を思えば、この程度は寝不足とすら感じないからだ。


 その当時ミルド公爵は、寝る間も無い程に働き続けていた。前王の名を使い、好き放題する国王派の貴族達。

 愚かな行動ばかりで手の着けられない王子に同調する者達。城下町で騎士団が暴れた話など、公爵が対処せねばならない仕事は枚挙に暇がなかった。

 イリアが女王に就任するまで、アニス王国が崩壊しなかったのはほぼミルド公爵の働きによるもの。


「今は楽で良い。こんなに仕事がやり易いとはな」


 チラリと公爵の視線が机の引き出しに注がれた。その中にはかつて常用していた胃薬等が入っている。

 公爵は数年前まで、体を壊さない為に薬漬けの日々を余儀なくされていた。怒りから来る胃痛を抑える薬や、不足した栄養を補う医薬品。

 短時間ですぐ眠る為の睡眠薬など、様々な薬品を飲んでいた。そんな公爵の毎日も今では、楽しく仕事が出来る日々に変わっていた。

 かつて毎日疲れを滲ませた表情で過ごしていた公爵は、若い頃に戻ったかの様に元気があった。まるで疲れなど感じさせない仕事ぶりを見せている。


「……あの者も馬鹿をしたな。これほど優秀な娘の才能に気付かぬとは」


 ふとミルド公爵の脳裏を過ったのは、前ハーミット公爵の顔だった。武闘派の家系に生まれながらも、武とは懸け離れた貧弱な男。

 せめてそれでも聡明であれば、また違う生き方も出来ただろう。それが下らない迷信に惑わされて、自分の娘を捨てる愚かな行為に出る始末。

 何もかもがミルド公爵には馬鹿らしく見えた。悪魔の使いと言う迷信を、ミルド公爵は信じて居なかった少数派の貴族だ。

 実力主義の家系に生まれた貴族には、同様に考える者達が居た。ミルド公爵以外だと、他国との国境に領地を持つ辺境伯達だ。

 彼らはイリアの方針と存在を支持していた。他国からの侵略に危機感を持たない前王と違い、大国として強いアニス王国を目指すイリアは彼らにとって理想の主だった。


「閣下。報告書をお持ちしました」


「入りたまえ」


「失礼します。こちらがエルロード辺境伯からの報告書です」


「ふむ…………フッ、若造が嬉しそうに報告しおる」


「エルロード辺境伯は、イリア様がお好きですからね」


 アニス王国の北東部に領地を持つエルロード辺境伯。彼は20歳の若さで当主となり、オーレル帝国からの侵略に対抗して来た若き辺境伯だ。

 10年以上にわたり、オーレル帝国軍との小競り合いを続けてきた。王族や国王派が好き放題を続ける中で、厳しい戦いを制して来た才覚は本物と言えよう。

 若く勇猛な武人であったが、如何に本人が優秀でも国自体が腐敗していては思う様には戦えない。


 彼を支えるエルロード夫人も必死に尽くしていたが、それもいよいよ限界を迎えようとしていた。そこに唐突に現れたのがイリアだ。

 一瞬にしてオーレル帝国軍を殲滅して見せたイリアを見て、エルロード辺境伯領の騎士達は歓喜に湧いた。

 そのままイリアに随伴する形で、翌日には王都まで攻め込み帝国を占領した。それ以来エルロード辺境伯は熱狂的なイリアの信奉者となり、夫婦揃ってイリアの支援者となっていた。


「ああ、すまないな。もう下がってくれて構わない」


「では失礼します」


「……東も順調の様だな」


 属国となったオーレル帝国の管理はエルロード辺境伯が担当している。現在は長年に渡る苦労を強いられた相手に、しっかりと意趣返しをする様にジワジワと絞り取っている。

 崩壊しない程度に、しかし首は真綿できっちりと絞める。前皇帝の行動により余計な苦労を背負う事になったオーレル帝国民は、皇家への恨みを募らせ続けている。

 逆に発展を続けるアニス王国に対して、亡命を求める人々は増え続ける一方だ。無駄な虐殺をしなかった事もあり、アニス王国に悪感情を持つオーレル帝国民は少ない。

 むしろ恭順の意思を示す方向で世論は傾いている。ミルド公爵の試算では、あと1年もすればアニス王国オーレル領になるだろうと予想されていた。


「フッ……まさかこの歳になって、大陸の支配などと言う野望を抱けるとはな」


 ハルワート大陸をアニス王国が支配する。そんな壮大な野望が実現する日が来るかも知れない。

 子供の妄想ではなく、実現可能なレベルとして。そんな野望が叶うのならば、その日まで現役でありたいと願うミルド公爵だった。

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