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第23話 ミア・オルソン

 イリア様は本当に凄い方だと思います。普通なら6歳で魔の森に放置されたら生き残れないでしょう。

 それを10年ほど普通に暮らしていらっしゃるのですから、最早凄いと言うより偉業と言う方が正しいのではないでしょうか。

 昔にも魔の森に住んでいた女性が居たと聞きます。その方に続く史上2人目の人間がイリア様です。それほど有能な方ですのに、両親に捨てられてしまうなんて。

 髪の色や瞳の色を気にする地域もあるのは知っていましたが、まさかそこまでやってしまうなんて。


「聖女様、よろしいのですか?」


「仕方ありません。イリア様が必要ないと仰るのですから」


「しかし……いえ、失礼しました」


 聖女の名でアニス王国に正式な抗議をする事は出来ます。イリア様がまだご存命で、ハーミット家に迎えを寄越す様に伝える事も。

 しかしそれをイリア様は拒んだ。自分で何とかするから必要がないと。まだ成人していないご令嬢が、あんな森の中で生活している。

 その事を護衛騎士の隊長であるバートさんも心配していらっしゃいます。その気持ちは(わたし)も痛いほど理解出来ますが、実際に今日まで生き抜いて来られたのも事実。

 他人でしかない私達が、余計な手出しをするのは良くないでしょう。ご本人がそう仰るのなら、出過ぎた真似は致しません。


「私達に出来るのは、生活に必要な物をお届けするぐらいです」


「悲しいものですね、捨てられる子供達の話は」


「……少しでもそんな悲劇が減る様に、私も頑張らないといけませんね」


「聖女様はもう十分お役目を果たされております。我々大人が自らを改める事が重要なのです」


 子供を捨てる理由は様々で、例えば貧困による口減らしが農村では残念ながら未だに行われています。

 奴隷商に子供を売払い、それで飢えを凌ぐのです。しかしそれを理由に売った親を裁く訳にもいきません。彼らとて生きる為に必死だっただけ。

 聖女として、サフィラ様の使いとして世界の色々な暗い部分を見て来ました。この草原の様に、美しい景色ばかりではありません。


 不正を働く貴族も見て来ました。10年掛けて親の仇を取った方も居ました。何が正義で何が悪なのか、考えさせられる事は沢山ありました。

 未だに答えは見つかりません。いっそイリア様みたいに吹っ切れてしまった方が良いのでしょうか。

 そんな風に馬車の中で話していた私達の元に、騎馬に乗った騎士さんが急いで近付いて来ました。


「聖女様! 隊長! 大変です!」


「どうした! 何があった?」


「ま、魔族の軍がこちらに向かって来ております!」


 魔の森へと続く草原を移動していた私達の目に、沢山の魔族が行進して来ているのがハッキリと映りました。

 魔族がアニス王国と会談をするなんて話は聞いておりません。しかし明らかに目的を持って国境を越えて来たのは確実。

 国境の砦が陥落したとの報告もない事を考えると、まさか魔の森を抜けて来たのでしょうか?

 そんな危険な方法を使ってまでの行軍、これで侵略の意思は無いと考える程に私は無知ではありません。


「バート隊長!」


「ええ、間違いなく侵攻する気でしょう」


「何とかしないとアニス王国の皆さんが!」


「君は今すぐハーミット公爵の邸宅に連絡を!」


 バート隊長の指示で、部隊の皆さんが動き出します。しかしこんな急な侵攻に、すぐにハーミット領の騎士達が対応出来るでしょうか。

 宣戦布告も無しに強襲されては、武闘派で有名なハーミット公爵家でも厳しいのでは無いでしょうか。

 それにアニス王国のハーミット公爵は、あまり良い噂を聞きません。裏で不正をしているとか、騎士団に無理難題を押し付けると言う話も耳にしました。

 先代はとても立派な方だったそうですが、現当主は全く駄目だと領民の方々から聞きました。

 もしその通りであるならば、きっとこのままでは良くない結果に繋がるでしょう。そんな事は、絶対にあってはならないのです。


「……ここで私が食い止めます」


「聖女様!? 無茶です! あの人数を相手に戦うつもりですか!?」


「皆さんは早く撤退を。私が1人で残ります」


「そんな事出来る訳無いでしょう!?」


 分かってはいるのです。無茶な事をやろうとしているのは。でも私はここで逃げ出す様な事は出来ません。

 何の為に聖女としてサフィラ様に選んで頂いたのか。こう言う時の為に、私の力はあるのですから。

 ただ聖女様と呼ばれ、良い暮らしをする為にいるのではありません。出来るだけ多くの人を助ける為にいるのです。

 今ここで私が侵攻を抑えられれば、それだけ助かる人は多くなります。もしかしたらこちらは囮で、本命が国境に向かっている可能性だってあります。

 それなら尚更、今ここで足止めするのが正解の筈。私がここに居れば、戦力は最低限で済みます。その分国境の砦へ戦力を回して貰う方が良いでしょう。


「聖女様、我々も残ります」


「そんな! 私の我儘に付き合うと!?」


「貴女が居れば、我々は死なないでしょう?」


「そ、それは……」


 そんな事を言われては、出来ないなんて言えない。私と一緒に戦ってくれる方々を、死なせる訳には参りません。

 絶対に生き残って、皆で国へ帰るのです。それにまだ今日の分の荷物を、イリア様に届けていません。

 嫌そうにしながらも結局会話に応じてくれる彼女に、()()と認めて貰うまで死ぬつもりはありません。

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