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第1話 暴君が治める国

『悪役』ではなくちゃんと悪女な主人公が見たいなと言う欲から生まれた作品です。主人公に矜持はあっても正義はありませんのでご注意下さい。

「面をあげよ」


 アニス王国宰相、壮年の男性であるミルド公爵が裁判に関する資料を手にその内容を読み上げる。

 この国を統べる最高権力者であるイリア・アニス・ハーミット女王の御前で、裁判が進められて行く。

 ゴシック建築を思わせる石造りの王城、その謁見の間には20人程の兵士と、床に跪いている男性が2人。

 裁判資料を読み上げるミルド公爵と、この国の女王イリアを含め30名近い人間が集まっていた。


 玉座に座るのは真っ赤なドレスに身を包み、腰まである漆黒の髪に深紅の瞳を持つ美しい女性だ。

 女性にしては背丈が高く、玉座に座っていてもその迫力は男性にも負けていない。唯一肌が露出している手や顔の輪郭から、細身である事が分かる。

 しかし出る所はしっかりと出た、スタイルの良さも伺える。絶世の、と言う形容詞がついても全く違和感のない完璧な美貌を持つイリア女王が口を開く。その形の良い唇からは、女性にしては低めの凛とした声が放たれた。


「もう結構ですわ、公爵」


「はっ」


「そこの貴方、何故お金を取り返そうとしませんでしたの?」


 たおやかなイリアの腕がゆっくりと持ち上げられ、手に持った扇子が床に跪いた農民風の男に向けられる。

 今回の裁判は、詐欺にあった農民の男と詐欺を働いた商人に関するものだった。痩せ細った農民の男と、その隣にいるでっぷりと太った商人の男は実に対照的に見えた。


「そ、それは、私の様な者ではどうしようも無く!」


「この国では、相手の落ち度が証明出来るならば暴力も許される。ご存知でないのかしら?」


「し、知っていますがそれは!?」


「やり返す意思すら持てないと?」


 美しい女王の深紅の瞳が、不快そうに細められた。4年前にこの国の王がイリアに変わってから、国としての方針は大きく変わった。

 一言で言えば、弱者にも強者にも等しく厳しい国になった。犯罪と認められれば裁かれるが、認められなければ悪でも裁かれない。

 そしてやられっぱなしで逃げるのも、それはそれで罪として裁かれる。何より重要視されるのは、反骨精神と生きようとする意志。

 簡単に負けを認める様では、裁判で不利に働く。逆に例えみっともなく足掻こうとも、負けない意思を見せれば好材料となる。


 イリアの生き様そのものが反映された法律に変わり、賛否は綺麗に分かれた。上昇志向の人間には心地良く、それこそスラムに住む人間であっても向上心さえ持てれば生きて行ける。

 例え悪の道に進もうとも、強い意志があれば許されるのだ。しかしそうでない者には、ただただ生き辛い国であった。

 そんな極端な国ではありながらも、大陸でも3本の指に入る程の列強国として頭角を現し始めていた。

 意思が強く強者であろうとする者達が集まり、弱者は徹底的に排除される。その方針に賛同する士気の高い国民が中心となって来ているからだ。


 ただ怠惰なだけの前国王と比べれば、厳しくはあっても仕事はしっかりしている。そんなイリアに強い指導者としての期待感を持つ国民は少なくない。

 元々敵対国の魔族領と隣接している国であり、傭兵等の血気盛んな荒くれ者が多い土地柄だった事も影響した。

 何より一昨年行われた騎士団の再編により、魔物や盗賊による被害が激減している事が高評価に繋がっている。アニス王国は強き者が集まる国、そんな認識が世界中に広まりつつあった。


「この国にはただ守られるだけの弱者は必要ありません。荷物を纏めて出て行きなさい」


「そ、そんなっ!? 待って下さい女王陛下!」


「フハハハハ! ほれ見ろだから言っただろう! お前の負けだ」


 項垂れる農民の男を、商人の男がせせら笑う。被害を受けた側が容赦なく切り捨てられたのを見て、商人の男は自分の勝利を確信していた。

 彼は最初からこうなると言う自信があった。悪であっても裁かない女王だと知っているから。

 仲間の商人に悪徳な商売をしても、裁かれずに終わった者が居る事を知っていたからだ。勝ち誇った商人の男は、ゲラゲラと笑い声を上げる。

 その姿を農民の男が悔しそうに睨みつける。しかしこんな所で殴り合いの喧嘩を始める勇気は、農民の男には全く無かった。

 ただ拳を握りしめるしか出来ない農民の男を、商人の男が踏みつけにして更に追い討ちを掛ける。


「所詮弱者は弱者、大人しく俺たちの糧にぃ……ぁ?」


(わたくし)、弱者をいたぶって喜ぶ()()()が大嫌いですのよ?」


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」


 先程まで楽しそうに笑っていた商人の首が、ゴロリと転がり落ちて頭を失った体から鮮血が吹き出す。

 すぐ近くに居た農民の男は堪らず悲鳴を上げて商人の死体から這いずる様に離れる。瞬く間に起きた惨事に、農民の男は半ばパニック状態だ。

 イリア女王が風の魔法を使って商人の首を斬り落としただけなのだが、魔法を使えない農民の男にはそれが全く理解出来ていない。

 何が起こったのかも分からず、慌てて宰相の方を見ればやれやれと言い出しそうな落ち着いた雰囲気だ。


「陛下、まだこの男には国家反逆罪の疑いがあったのですがね?」


「ならば丁度良いではありませんか。死罪と書いておいて下さる?」


 当たり前の様に交わされて行く会話に、農民の男は全くついて行けていない。まるで何も無かったかの様な空気が謁見の間を満たしていた。

 自分が見たものは一体なんだったのか、何がどうなったのか農民の男には全く理解出来ないまま裁判は進む。

 商人の男は既に死罪、そして農民の男には国外追放処分を言い渡すと宰相は裁判を終了させた。


「そこの君達、死体の処理を頼む」


「「はっ!」」


「君は国外追放だ、早く城を出なさい」


 これで終わりだと宰相は謁見の間を出て行く。いつまでも呆けている農民の男を数人の兵士達が無理矢理立たせて退場していく。

 死体の処理を任せられた兵士達が魔法で素早く処理を済ませ、残りの兵士達と共に謁見の間を出る。

 イリア女王が1人だけになって暫く、ドス黒い色の穴が玉座のすぐ隣の空間に出現した。そんな異変にイリアは何の疑問も持たず、今も優雅に玉座に座ったままだ。


「やはり君は素晴らしいよイリア」


 どこか軽薄さを感じさせる声と共に、穴の中から1人の男性が現れた。真っ黒なローブに身を包んだ男性は、2m近い身長をしている。

 ほっそりとしたシャープな輪郭に、色素の薄い肌。輝く長い銀髪を頭の後ろで結い上げている。

 顔立ちはかなり整っているが、どこか病的に見えるのは薄い肌の色のせいか、はたまた彼が纏う雰囲気からか。

 玉座に居る2人は、タイプこそ違うものの美男美女。かなり絵になりそうな光景だが、ここには2人しかいなかった。


「嗚呼、君が人間である事が残念でならないよ」


「私は必ず、貴方と同じ存在になってみせますわ」


「その時を待っているよ、私のイリア」


 男の手が優しくイリアの頬を撫でる。2人の視線が絡み合うと、今度はイリアの手が男の手に重ねられる。

 つい先程惨事が起きた場所とは思えないほど、甘い空気が謁見の間に漂い続けていた。

ガレ〇ール帝国とかブリ〇ニアとかその類の国を治める女王として描いて行きますので、もし趣味に合う様でしたら本作をよろしくお願いします。

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