第四十五話 カーディフ港
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カーディフ港は処刑が行われた王都中央広場から20キロほど離れた場所にある港で、王都を流れるクライド川の支流となるタナ川河口に位置しています。物流の拠点とするには丁度良いロケーション、だけど水深が浅い関係で小型船や平底船しか停泊出来ないのが難点なんですね。
港には使用料というものがあるわけなんですけれども、このカーディフ港は商人の港とも呼ばれているのだけあって使用量が安いことで有名なんですね。これから戦争が始まるとあっては、食料自給率が低いヴァールベリ王国では穀物の類が高騰することになるでしょう。今まで戦争の準備なんてまるでして来なかったヴァールベリ王国が急に戦争をするともなれば、商人は己の儲けのために東奔西走するほどの忙しさとなるでしょう。
港には見たこともないほどの量の馬車が行き来しているのですが、無数の馬車を押しのけるようにして、侯爵家の紋章が入った馬車が桟橋近くまで突き進んで行きます。
乗ってから気が付いたんですけど、この馬車、侯爵家が所有する馬車ではなくて、偽造した馬車になるみたいです。護衛の兵士に誘導されるような形でこの馬車に乗ったわけですけど、私もアンネも、護衛の兵士の顔なんか覚えちゃいないので、まんまと騙されたっていうことになるのでしょう。
「早く降りろ!」
侯爵家の腕章を着けた男は乱暴に扉を開けると、私の腕を掴んで引き摺り出すようにして外へと連れ出したんですね。ちょっと先に見える桟橋に停泊した船は、おそらくフィッツランド船籍の船。フィッツランドはロトワ大陸の中央にある国でハプランスの王の妹が輿入れした国でもあります。
今現在、ヴァールベリ王国はポルトゥーナとハプランスの船籍は入国拒否をしているので、全く関係ないように見える船を誘拐の為に使用することに決めたのでしょう。
「早くしろ!早く船に乗るぞ!」
「やめてよ!私は船に乗る予定じゃないでしょう!」
ヘレナが大騒ぎを始めたんだけど、あっという間に肩の上に担ぎ上げられてしまっている。これじゃあ、決死の覚悟でヘレナが銃を構えたとしても、あっという間に取り上げられていたことでしょう。
予定通りで行くのなら、誘拐された私は船の中で海の男たちの餌食となるのでしょう。連合軍の船に乗り換えた後は、船の舳先に括り付けられるんでしたっけ?海の守り神的な感じで舳先に突き出る女神像みたいな感じで括り付けられるんですかね?映画みたいに、ラブラブで両手広げているあんな感じではないんだろうな。
後ろを振り返ると、黒塗りの侯爵家の紋章を記した馬車が目に入る。偽装した馬車だということが改めて見ると良くわかる。
「貴様があの海の英雄の妻なのだろう?」
私の腕を掴んで引きずるようにして歩く男が、非常に不愉快な笑みを浮かべながら言い出した。
「船に乗ったらまずは俺が可愛がってやろう。次の順番も決まっているから、さぞやお前も楽しむことが出来るだろう」
「男って最低ーっ本当に最低、考えることがエロでエロしてエロしか考えられないんだから。そりゃ、私が書いているエロ小説も売れるはずだわ」
「ああん?なんだって?」
「貴方、明らかにヴァールベリ人だと思うんだけど、付き従う相手を間違えたことにまだ気が付かないのだから、いっそ憐れよね?」
「なんだって?」
苛立ちの声を上げながら男が立ち止まると、ボッと音を立てて偽装馬車が燃え上がる。衣服が燃え上がった御者が叫び声をあげて、暴れるようにして転がり出す。
呆然とした男は燃え上がる馬車の方を見ていたんだけど、私は荷物が積み上げられた上に立つ貴婦人を見上げていた。漆黒の髪に緋色の瞳をした男装の婦人が、
「撃て!」
と、高らかに号令をかけると、野砲が轟音を立てながら火を噴き、桟橋に停泊した船の横腹に大きな穴を無数に開けていく。
「これだけでは足りない!」
貴婦人はそう言って両手を高々と上げると、掌から生み出された炎の塊があっという間に傾きかかった船のマストへ炎の蛇となって絡みついていく。
オルランディ帝国の皇族には炎を操る魔法使いが多い。炎は戦争を有利に運ぶ為に、皇族自らが戦線に出ることも非常に多い。今の皇帝が国土を大きく広げたのにはルイーズ王妃も深く関わっているとは聞いています。普段は鷹揚に構えている王妃様だけれども、やっぱり帝国を率いていく一族の人でもあるわけです。
「グレタ様!」
夫の秘書であるウルリックが馬に乗ったままこちらの方へ駆けてくると、私の腕を掴んでいた男をあっという間に叩きつけた。アンネやヘレナを掴んでいた男たちもあっという間に倒されていく。
「グレタ夫人!私はお見送りをしたらすぐに王宮に上がるように言いましたよね!」
王妃様は激怒していた、男装をして追っかけてくるほど激怒していた。
「帝国に行くのなら、私が行きますと何度も言いましたよね!その言葉を貴女は忘れたのですか!」
「違います!違います!帝国なんて行くつもりはありません!」
「嘘おっしゃい!わざわざストーン商会以外の他国の船籍を用意して!やっていることが姑息にも程がありますよ!」
何かに引火したのか、燃えている船の甲板がバーンッと弾け飛んでいるというのに、怒り心頭の王妃様はそんなことが全く気にならないらしい。
「王妃様!火が!火が危ないから!こちらに下がりましょう!」
私がルイーズ王妃を守るように氷の壁を出すと、周りにいた護衛の兵士たちも流石に炎の勢いがありすぎると判断したようで、すぐさま王妃様を移動させていく。
すると、アンネが大きな声を張り上げるようにして言い出した。
「王妃様!どうかお聞きください!グレタ様は帝国に行こうとしたわけじゃないのです!帝国に自ら行こうとしていた訳じゃなく!誘拐されて!敵国に連れ去られるところだったんです!」
「えええ?」
馬から降りて誘拐犯たちを縛り上げていたウルリックが驚きの声を上げた。
「こいつら、グレタ様の仕込みじゃなく、グレタ様を誘拐しようとした罪人なんですか?」
ウルリックも私が無理やり帝国に行くために、自分たちをまいたんだろうと考えていたみたい。
「この女がイザベルデ妃の指示を受けて、グレタ様を誘拐して、船の中で男たちに陵辱させて、挙げ句の果てには敵の船の舳先にグレタ様をぶら下げて、旦那様の士気を下げようと画策したんです!」
侍女のアンネが逃げ出さないようにヘレナの腕を掴みながら大声を上げると、
「なんでそんな風に言うのよ!私は二人を逃がそうとしていたでしょう!」
と、ヘレナが悲鳴に近い声をあげたのだった。
ここからラストまで(可能な限り)毎日二話更新でいきます!!16時17時に更新していきますので、お読み頂ければ幸いです!サヴァランと紅茶をあなたに』を読んでいただきありがとうございます!
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