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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第四十三話  グレタ誘拐される

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「アンネ、くれぐれも!くれぐれも!グレタの監視を頼むぞ!」

 最後まで夫はアンネに声をかけていた。

「アンネ!くれぐれも頼むぞ!」


 夫があまりにも必死過ぎて、私の涙も思わず引っ込んでしまうほどで、

「ねえ、アンネ、なんで夫はあそこまで私を信用しないのかしら?私、そんなに信用出来ない?」

 と、アンネに問いかけると、

「全然信用出来ませんね」

 と、アンネは即答したのだった。


 戦列艦十五隻を率いて夫が出発してしまったのですよ。敵は上陸さえすれば、訓練も装備も十分ではない我が国の陸軍を打ち破るのは容易いと考えているんですよね。なにしろヴァールベリ王国は海軍こそが花形、陸軍の精度はイマイチだというのは知られた話なわけです。


 上陸させずに海上で散らす、そういった威嚇をするためにまずは夫が出張って行ったわけなのですが、あっという間に行ってしまったので『万歳三唱』をしている暇もなかったです。まあ、万歳三唱をする文化とかないんですけどもね。


 夫が乗って行ったのが旗艦船という指令を出す船なんだそうで、この旗艦船の後に続いて続々と船が出航していくことになるので、港は大混雑状態です。


「グレタ様、とにかく一旦、王宮に戻ります」

「え?子爵邸じゃないの?」

「王妃様がご報告を待っておられます」

「え?報告?なんの?」

「夫の見送りの報告を聞くと共に、釘を刺そうとしているのではないでしょうか?」

「釘?なんで?」

「だってグレタ様、ストーン商会の方へ帝国行きの船を準備するように言っているでしょう?」

「えっと〜」

「散々、旦那様も言っていましたよね?国外には出るなって言っていましたよね?」

「言っていましたけれども」

「じゃあ、帝国に行く必要ないですよね?」


 アンネはキッパリとそう言って私を馬車へと案内するんだけど・・

「ねえ、私ってそこまで信用出来ない感じ?」

「ええ、本当に、全く、全然、信用出来ません」

「アンネったら酷くな〜い?」

 

 私は口を尖らせながら、シレッとしているアンネを睨みつけましたとも。ここが正念場、帝国が思う通りに動いてくれるかどうかがキモだというのに、アンネは全然分かっていないから!


「分かっておりますよ、グレタ様」

 アンネは馬車の扉を御者に開けてもらいながら言い出した。

「帝国の重要度はこのアンネにだって分かっております。だからこそ、王宮でまずは情報を集めるのが良いのでは?」

「うーんそうなんだけどー・・」


 私とアンネが馬車に乗り込むと、問答無用で馬車が走り始めたわけです。そんなに急いで王宮まで連れて行くつもり?御者にまで信用されていないの?思わずムカついて年甲斐もなくほっぺたを膨らませていると、私たちを馬車の中で待っていた侍女が顔を上げて言い出したわけ。


「義姉様、お久しぶりでございます」


 侯爵家の侍女が着るお仕着せ姿のヘレナは先代のヴァルストロム侯爵の後妻となったレベッカ夫人の連れ子であり、数々の不敬や私への暴力(披露宴パーティーで突き飛ばされている)が問題となって、辺境の修道院送りになっていたはずなんですけども。


「ああ、そこの侍女は動かないで」

 ヘレナは短銃を構えながら言い出した。

「騒ぐのは無し、少しでも騒げば、あんたたちを撃って私も死ぬわ」


「「おお〜!」」

 私とアンネは思わずヘレナ嬢の向かい側の席に座って両手を上げながら言いましたとも。

「「とりあえず撃たないで〜お願い〜」」

 私とアンネを睨みつけたヘレナは、思わずといった様子で大きなため息を吐き出したのだった。



        ◇◇◇



 総指揮官として旗艦戦に乗り込んだ私、ステランは、私の妻グレタと侍女のアンネが誘拐されているなどかけらも知らずに、船室で純白の軍服から敵国ポルトゥーナの下士官が着る軍服へと着替えを済ませていたのだった。


「閣下、行き先はフィニス岬で構わないのですよね?」

「そうだ、フィニスへまずは向かってくれ」


 フィニス岬はポルトゥーナ北部にある岬となるのだが、ポルトゥーナの正妃ウリエルの生家となるヴィルヌード公爵家の領地ということになる。今の季節であれば半日もかからずに海を渡って向かうことが出来るのだが、そこで待ち構えていたハラルド・ファーゲルランが、

「後でこっちの軍服に着替えてくれ」

 と言って、サビエラ王国の将校が着る軍服を渡して来たのだった。


 今現在、ポルトゥーナ南部の軍港フェロールにヴァールベリ王国への上陸作戦を実行に移すために何万という兵士が集まり始めているのだが、やはり当初の情報よりも五倍から六倍の兵士が集まる予定でいるらしい。


 数万の兵士を出し抜く形で、私とハラルド・ファーゲルランが動くことになっている。ハラルドは『血溜まりの中の翼竜』という異名を持つほどの男なのだが、ナルビク侯国の元帥が隣国ポルトゥーナの士官の軍服を着ている姿は異様にも見える。


「お二人とも揃いましたね」

 岬に設置された天幕から出て来たのはこの国の正妃ウリエルであり、その隣には王太子フェデリコ・グラビーナ王子が立っていた。


 ポルトゥーナの王は代々複数の妻を持つことになるのだが、正妃だけは能力と身分で決められる。今の正妃ウリエルもヴィルヌード公爵家の令嬢であり、才知に長けた人で有名な人物となる。


 国王に見切りをつけられて王都を逃げ出すことになったとか、いくら優秀であってもマルガリータ妃の寵愛には負けることになったとか。王都に残った貴族たちは正妃ウリエルを肴にしてそれは楽しげに話をしているとのことなのだが、人を見る目がないにも程があると言えるだろう。


 貴族の女性となれば着飾るためのドレスと宝飾品、そして己の美貌を保つことばかりに興味が向いているものだとステランは常々思っていたのだが、妻のグレタと結婚することで、その考えを即座に改めることとなったのだ。


 世の中には男に甘え依存し、自分が楽して得することばかりを考えているという女も多いのだが、そうじゃない女も確かに居る。目の前のウリエル妃殿下はまさしく、そっちじゃない方の女性に違いない。


「ヴァールベリ王国の王妃ルイーズ様の計画に私も賛同いたしましょう。カルラ平原をナルビク侯国に返還する代わりに、ハラルド・ファーゲルラン様、貴方様には私の夫を密かに殺してもらいたい」


 ナルビク侯国とポルトゥーナ王国は長年、国境に広がるカルラ平原を自国の領土にしようと争い続けた歴史がある。ナルビクに住む土着民にとってカルラ平原は神聖なる地だったものの、これを奪い取ったのがポルトゥーナ王国。この時の戦いで、ポルトゥーナ王国は多くの王族を失うことになったわけだ。


 王族の血を吸い込んだ土地として、ポルトゥーナはカルラ平原を決して手放すことはしなかったのだが、ウリエル妃は自分の息子を王位に据えるために、カルラ平原の割譲を決意したということになる。


「そしてステラン・ヴァルストロム侯爵、貴方にはハプランスの王を任せたい」

 全てはハプランスの王の欲から生まれた騒動なのだ。

 正妃ウリエルも、ヴァールベリ王国の王妃ルイーズも、この世界から『ハプランス』の名前を消すことを望んでいる。


ここからラストまで(可能な限り)毎日二話更新でいきます!!16時17時に更新していきますので、お読み頂ければ幸いです!サヴァランと紅茶をあなたに』を読んでいただきありがとうございます!


モチベーションの維持にも繋がります。

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