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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第三十九話  戦争反対の声

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。


「戦争反対―!!戦争は反対!反対―!!!」

 私こと、敵を迎え撃つための準備に奔走しているステランは、妻のグレタが涙を流しながらそんなことを言い出した時には、思わず我が妻をギュッと抱きしめてしまった。


 私たちの始まりはそれは酷いものだったけれど、遂に私の妻は、私への愛に気が付いてくれたらしい。私を戦地に送りたくないと涙する姿は、私を思う故のもの。そこまで私のことを愛してくれているのかと実感して、私は感動しきりとなっていたのだが・・

「戦争反対―!!戦争は反対!反対―!!」

 と、いつまでも言い続ける妻の姿を見て、ちょっと待てよと思い始めることになったのだ。


 大航海時代を迎えて多くの未開拓地を支配下に置いてきたヴァールベリ王国にとって『戦争』や『侵略』は身近にありすぎるものであり、国を豊かにするためには、男は武器を持って船に乗り、遥か大海を越えて戦いに行くのは当たり前のこと。


 今回は我が国を狙って大掛かりな連合軍が編成されることになったようだが、島国ヴァールベリはいつだってロトワ西方に位置する諸外国に狙われ続けているのだ。だからこそ、戦争は身近にあって当たり前のもの。


 愛する人を失いたくないから戦争はない方がいい。だけど仕方がないから受け入れるしかない。それが戦争というものなのだ。だというのに、

「戦争反対―!!戦争は反対!反対―!!」

 妻の声に賛同するようなことを、離宮に籠りきりの王妃様まで言い出した。いやいや、戦争反対と言ったって、どうせ戦争はやるんだから、そんなことを言っても無駄だろう?無理だ、今更止められるわけがない。


 え?いや止められる?女の交渉力を舐めて貰ったら困る?いや、ちょっと待て、女の交渉力?なんで戦争に女の交渉力が出て来るんだ?戦争っていうのはあれだ、始まったら止められない、もう始まるんだから止められない。いや、止められる?えええ?グレタ、それは君が言う前世の記憶というものを参照した上で言っている言葉なんだよな?


 彼女には前の人生の記憶というものがある。私は彼女の前の人生の記憶は『神の祝福』だと思うのだが、彼女はこの『神の祝福』を使って戦争止めるつもりなのかもしれない。


「ヴァルストロム侯爵、まさか貴方が我が家を訪問するとは思いもしなかったですよ」


 私を出迎えたのはグレタの父であるストーメア子爵であり、隣には小柄で可愛らしい容姿の子爵夫人も居る。グレタの家では、母も姉も小柄で可愛らしい容姿をしているのだが、グレタだけが父方に似てしまったようで、男並みに背が高いし、可愛らしいというよりかは中性的な顔立ちをしている。


 妻の実家を訪れるのは、イレネウ島からの帰還を二人で報告するために訪れた日以来のこととなるのだが、妻を同伴せずに私一人の訪問に、グレタの両親は困惑を感じているようだった。


 沢山の植物が置かれた日当たりの良いサロンに子爵は私を案内すると、夫婦揃って私の向かい側に置かれたソファに座り、

「ここが屋敷の中で一番、話を聞かれない場所でもありますので」

 と、子爵が恐縮しきった様子で言い出した。


 ロムーナ紅茶とサヴァランを置いて侍女が出ていくと、サロンにはグレタの両親と私だけとなり、

「もうすぐ出陣と聞いています。ご多忙の中、私たちに会いたいとは、またグレタに何か問題でもありましたでしょうか?」

 と、ハラハラした様子で子爵が問いかけてくる。


「実はグレタには生まれ変わる前の記憶というものがあるようでして」

 私の言葉に夫妻は目を大きく見開いた。

「う・・生まれ変わる前の記憶ですか?」 

 グレタの母は夫と顔を見合わせると、

「あの子にはそれは膨大な知識が備わっていたので『神の祝福』なのだろうとは思っていたのですが、生まれ変わる前の記憶ですか・・」

 自分を納得させるようにグレタの父は何度も小さく頷いた。


「そのような話をして家族に疑われたり、迷惑をかけるようなことになっては困ると思って黙っていたようなのですが」

「そんな・・私たち家族にも言えなかったことを、娘は貴方にしたということですか」

「私たちには言ってくれないのに、貴方のような人に言うなんて」

「脅されたのかな?」

「脅されたのかもしれないわね」


 私は結婚式と披露宴パーティーのやらかしで、ストーメア子爵に悪感情を抱かれている。挽回したいとは思っているのだが、暇がなくて全く出来ずに今に至ることをしみじみと実感することになったのだ。なにしろグレタの両親の視線が針のように鋭く冷たい。

「脅してなどいません」

 ベッドの中で責め立てたとは思うが、恫喝したわけでは決してない。


「私は、彼女が前の人生の記憶や知識を利用して・・暴走しそうで怖いのです」


 私はそこで、グレタの前の人生で経験した世界は、今よりももっと威力が大きい武器弾薬が使われており、人々は想像を超えるほど沢山死ぬことになり、そんな情報を誰もが毎日のように知ることが出来たようなのだと説明した。


「我々としては、戦争は始まってしまうのならやらなければならないもの。何としてでも敵に勝たなければならないものと即座に考えてしまうのですが、彼女はそうではないようなのです。彼女にとって戦争とは非常に身近なもので、だからこそ、激しく忌避して反対の声を平気であげる」


 その声に巻き込まれるような形で、何かが水面下で激しく動いているようなのだが、ちょっとそこまでステランは把握出来ていない。把握出来てはいないのだが、

「戦争を止めるために、何でもやってやろうと思いそうで怖いのです。おそらく、私が出陣をするようなことになれば、国を飛び出して、帝国へと自ら向かうに違いない。帝国を動かすことなんて普通は出来ないと判断しそうなものなのに、彼女は不可能を可能にしようと考える。そんな彼女を止められるのはご両親しかいないのではないかと思い、相談をさせていただくことにしたのです」

 思いの丈を訴えると、子爵夫妻は同時に大きなため息を吐き出した。


「あの娘は軍人の妻になったという自覚がないのかしら?」

 夫人の言葉に子爵は頭を抱えながら、

「絶対にないと断言できる」

 と、言い出した。


「あの娘は動き出したら、周囲をことごとく巻き込んでいくのです」

「知っています」

「こちらが、絶対に無理だろうと言ったことも平気でクリアするのです」

「知っています」

「だからこそ、あの子がそう思い立ったとしたら、帝国までの船を即座に用意することでしょう」

「だと思うから、困り果てているのです」


 私は思わず項垂れた。

「実はグレタには子供が居るのかもしれないのです」

 なにしろ、かなり丹念に仕込んでいるので、そろそろ芽吹き始めてもおかしくはない。

「実際に月のものも遅れているので、そうじゃないかと思うのですが、本人は元々が不順なので、本当に妊娠しているかどうかは分からないと主張するのです」

 そう、グレタは月のものが定期的にやって来ないので、今まで一喜一憂を繰り返していたのだ。


「医者はもう少し時間が経たないと断言はできないと言っているのですが、そんな状態で帝国行きはないでしょう。オスカル殿下は王宮に滞在させておいたら良いと言うのですが、王宮程度ではグレタはすぐに抜け出すでしょう」


 そう、グレタは王宮程度だったら簡単に抜け出すに違いない。彼女の行動力は化け物並みなのだ。絶対に抜け出すに違いない。


「ですので、私が不在の間はご実家の管理下に置いて頂きたいと思っている次第にて」

「そうですわよね!あのグレタですもの!侯爵様の心配はとっても良く分かります!」


 そう言って立ち上がったグレタの母は、今すぐに手紙を書くと言ってサロンから飛び出して行ってしまったのだった。


ここからラストまで(可能な限り)毎日二話更新でいきます!!16時17時に更新していきますので、お読み頂ければ幸いです!サヴァランと紅茶をあなたに』を読んでいただきありがとうございます!


モチベーションの維持にも繋がります。

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