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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第三十八話  女たちの決起

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 王妃ルイーズの治療責任者にグレタを指名することになったのには理由がある。


「王家に仕える典医が三人いると聞いて居ますけれど、王妃様が特にお気に入りだった一人の典医が裏切りを行っていたということは分かります。私としては、恐らく他の二人も同じように裏切っているのではないかと考えるのです」


 突然、王妃が第二王子カールの妃となったイザベルデに傾倒し出して、彼女の言いなり状態となった時に、オスカルは三人の典医に王妃の状態が正常かそうでないかを調べるようにと、厳しく申し渡していたのだが、王妃の異変をオスカルに進言するような典医は一人もいなかった。


 そもそも王家に仕える典医は由緒正しい家柄の出の者で揃えられているものの、能力的に非常に疑わしいとオスカルは考えている。健康であるかどうかを確認する程度のものであるのなら何の問題もないのだが、いざ、病に罹ったら、その先の治療はと考えると、非常に疑わしいものがある。


 そんなオスカルの疑念に典医たちも気が付いているからこそ、オスカルと三人の典医の仲は良好とは言えない。だからこそ、母の容態の変化に気が付いていたものの、対応が後手に回ってしまったということになる。

 

 典医は三人ともすでに捕らえているが、容態が悪くなった王妃の治療を付きっきりで行っているという風に装っている。ここで典医に接触しようとして来た者がいれば、それを捕らえて拷問にかける。そうすれば、王妃を狙ったのが誰なのか判明すると思ったからなのだが、結果、出て来たのは富豪として有名なサム・クラフリンだ。敵はいつでも切れるトカゲの尻尾を用意していたということになるのだろう。


 王妃が危篤であると新聞で大々的に報じたのは賭けのようなものだ。ヴァールベリ王国ではルイーズ王妃の存在は大きい。この王妃が余命いくばくもないとなれば敵に揺さぶりをかけられる。


 そう判断して敵の出方を窺っていたのだが、釣れるのは小物ばかりであり、肝心のイザベルデ妃まで繋がる線が一向に見当たらない。オスカルの弟のカールの元へ、姉であるヴィアンカを押しのけゴリ押しする形で輿入れしたイザベルデだが、彼女はなかなかに狡猾だ。


 今は彼女が産んだ王子が本当にカールの子供なのかが分からないという事実を突きつける形で貴族牢に幽閉しているのだが、タクラマ神聖国からやって来る予定の神官が、万が一にもカールの子供であると証明したならば、彼女は大手を振って貴族牢から出て来ることになるだろう。


 だったらそれまでの間に、イザベルデ妃の罪を明るみにしたい。切られた尻尾を次々、見つけては処分していくだけでなく、本体を拘束して早急に処分したいと考えているし、処分しなければこの国は終わるとまでオスカルは考えている。


 オスカルの頭の中はイザベルデ第二王子妃をどうやって断罪するかで一時期、頭がいっぱいの状態となっていたのだが、そのうちに、ポルトゥーナ南部にある軍港フェロールに二万を越す軍勢が集められ始めているという情報を手に入れて、自分の髪の毛が更に抜け落ちていく感覚を覚えたのだ。


 そもそものところ、ハプランス王国とポルトゥーナ王国は、ヴァールベリ王国を侵略したくて仕方がなかったのだ。ルイーズ王妃が瀕死の状態となっているのなら、皇帝は大事な妹を守りきれないヴァールベリ王国を責めることになるだろう。帝国の怒りを買ったヴァールベリの命は風前の灯火、その命の灯火を刈り取るのは自分たちだと決起することになったのだろう。


 今までイザベルデの悪行を探し出すために夢中になっていた時間を、オスカルは返して貰いたい思いでいっぱいになった。だって、敵国の血を引く姫君なら、理由なんか付けずにいくらでも拘束出来るし、なんなら人質として利用することも出来る。

「すぐ様、戦の準備をしてきます!」

 と、言ってステランは飛び出して行ったが、イザベルデの悪行を調べている時間を戦争の準備のために当てておけば良かったと、激しく後悔することになったのだ。


 戦争は『さあやろうぜ!』みたいな思い付きで簡単に始められるようなものではない。武器を揃え、兵士の糧食となる輜重を集め、兵士だって今いる人数では足りないから徴兵して集めなくてはならなくなる。


 徴兵すると民衆の支持は一気に下がる上に、徴兵した素人たちを短期間で特訓しなければならないわけだ。イザベルデの悪行を追跡していく時間があったら、こちらの方に時間と金をかけた方が遥かに良かった。何もかも間違っていたとオスカルは激しく後悔することになるのだが・・


「戦争!反対――!!」

 と、急にグレタ夫人が言い出したのだ。

「戦争、絶対に反対!反対――!!」

 あの時は、軍務大臣となったステランが連合軍を迎え撃つためにと飛び回り始めた頃だったため、戦争で夫を失う恐怖を感じて、そんなことを言い出したのだろうとオスカルは思ったのだ。


「戦争反対か・・」

 軍人の妻がそんなことを声高に言い出すのか・・と、オスカルは半ば呆れたのだが、

「まあ、言っているのがグレタ夫人だからな」

 と、言って諦めた。グレタ夫人は間違いなくずば抜けて優秀なのだが、かなり変わった女性でもあるのだ。


 オスカルだって戦争をやめられるものなら、やめてしまいたい。だって国内が敵の思惑通りにガタガタなのだから、こんな状態で戦争なんか始めたら碌なことにならないのは目に見えている。


 アンデルバリ公爵夫人の裏切りに気が付くことが出来たのは僥倖だったのだ。なにしろ公爵領にある軍港が易々と敵の手に堕ちるようなことになれば、王都まで一直線に敵は攻めてくることになっただろう。


「絶対に私がヴァールベリ王国を敵の手に落とすようなことなどさせません!」

 と言って、公爵が王家への忠義を示すために、自領にある艦隊を動かすために移動を始めた頃、女たちも密かに動き出すことになったのだ。


 グレタの声に賛同する形で、まずは王妃が動き出した。王妃だけでなく聖女家族も動き出したし、無茶振りの結婚披露宴をグレタに依頼して成功させたヴィクトリア・ヴィキャンデル嬢も動き出した。


 グレタはオスカルの参謀のようなものなので、彼女たちがこれからどう動いて行くかということは逐一報告を受けているのだが(聖女家族のように、報告が抜けている場合も多々ある)これがうまく行くなら、これほど国にコストがかからない方法はない。


 だからこそ、グレタ夫人には、ある程度のことは任せていたのだが・・

「明日、ステランが出陣か・・なんだか不安になってきた」

 ふと、オスカルは息子のルドルフをなだめすかしているグレタを見ながら、ズキズキ痛む胃を無意識のうちに押さえつけた。


 敵の動きが本格化する前に、こちらも艦隊を準備して迎え撃たなければならない。連合艦隊を迎え撃つためには、現場の指揮をするためにステラン・ヴァルストロムを送り出さなければならないし、彼以外を送り出すなんて選択肢は我が国にはない。戦争反対をグレタは声高に唱えていたが、結局、戦争は止められなかったのだ。


ここからラストまで(可能な限り)毎日二話更新でいきます!!16時17時に更新していきますので、お読み頂ければ幸いです!サヴァランと紅茶をあなたに』を読んでいただきありがとうございます!


モチベーションの維持にも繋がります。

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