第37話 策士グレタ
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私こと、中学生の時に修学旅行で広島に行き、被爆者のお話や原爆ドーム見学、平和記念資料館も見て回ったという記憶があるグレタはですね、
「戦争は反対―!!絶対に反対――!」
と、デモに参加とかしたことはないんですが、心の中では大きく叫んでいるようなところがあるのです。
「グレタ夫人、どうやら我が国は、ポルトゥーナ、ハプランス王国を相手に戦わなくてはならないようだ」
と、ますます禿げ上がったオスカル殿下に言われた時にも、
「反対―!!戦争は絶対に反対――!!」
と言って、戦争阻止の意思表示をいたしました。
そもそも国内がガッタガタなので、ヴァールベリ王国に戦争をしている暇とかそんなものはないわけで、
「毎日連載の小説『秘密』を使って戦争を絶対に阻止します!」
と、断言したわけですね。
実家であるストーメア子爵家が所有するストーン商会なんだけど、ポルトゥーナ王都の支店が王宮に深く入り込んでいる関係で、王家の情報とか手に入りやすい状態だったのが幸いしたわけですね。
ポルトゥーナの王宮に勤める侍女さんたち非常におしゃべりさんが多いので、洗濯女の不倫の話から、果ては王族の愛憎劇まで、様々な話が耳に入ってくるってわけです。特にポルトゥーナの王家は一夫多妻なお国柄でもあるので、男女の愛憎劇は星の数ほど発生しますし、そこに入り込むべき隙というものも出来てくるわけなのです。
ポルトゥーナの王には三人の妃がおります。正妃ウリエル様は才女として有名で、国母としての絶大な支持がある人でもあります。そうして後ろ盾なんてものは持っておらず、王の寵愛だけが自分の支えとなるマルガリータ様。この方、元々は子爵家の令嬢だったんですけど、決して出しゃ張らず、王の愛を誇るようなこともせず、波風を立てない妃として家臣にも愛されておられました。
そうして国と国の繋がりの強化のためと言いながら、姫の単なる我儘が通ったという形で三番目の妃となったのがエリザベート様。この方、かなり我儘な方なので、国民も臣下もそっぽを向いているような状態でもあります。
正妃が産んだ王子が王太子として決められてはおりましたが、次第に勢力を伸ばして来たエリザベート様が自分の産んだ王子こそ次の王に相応しいと言い出しました。ハプランス王国と繋がりを太くするためにも、エリザベート様の産んだ王子を王太子とした方が良いという声が大きくなる中、なんと国王は、王太子を代えられるのなら、愛するマルガリータ様が産んだ王子にすると言い出したんですね。
国王は正妃が産んだ王子よりも、マルガリータ様が産んだ子の方が可愛かった。何の後ろ盾もないような王子を次の国王には出来ないと言って貴族議会が紛糾する中で、始まった連載小説が『秘密』だったわけですよ。
ちょっと待って!もしかしてエリザベート様が産んだ子供って王様の子じゃないの?なんてことになりますよね?他国の血しか引かない子供を次の王位に就ける?それはまずいでしょうって普通は思いますものね。
そんな訳で疑惑のエリザベート様とそのお子様はとりあえず蟄居となった訳ですけれど、ポルトゥーナの王はその後の対応を間違えたのは間違いないです。
ハプランスってそういう国、托卵がお家芸みたいなもの、お宅の国土だって狙われてまっせ。麻薬とか使うんで、えげつないですよ。お宅も相当ヤバないですか?っていう内容を、次々、手紙に書いて送ったんですよ。国王陛下と正妃ウリエル様宛にね。
ポルトゥーナ王国の正妃は政略で決められる。高位貴族で優秀な者でなければ正妃とはなれないと法律で決まっているらしいんですけど、それって国を存続させるために必要な条文だったんでしょうね。
正妃は頭の良い人しかなれない。何故なら、国を守るために何でもやれるような人でないと困るから。国のためなら国王すら捨てられる、そんな人だろうと思っていたのだけれど・・
「どうやら、ハラルド様とウリエル妃殿下の会談は秘密裏に終えられたようですよ」
今さっき届けられた報告書に目を通した私がそう言うと、
「そうか・・そうか」
と言って、オスカル殿下が拳をギュッと握りしめている。
「これで、アホどもをギャフンと言わせる仕掛けは終えましたけど、これでも、私の夫は船に乗らなくてはならないんでしょうか?」
戦争反対―!!本気の本気で反対―!!だって戦争となれば、軍務大臣となった夫が総帥として戦の総指揮を取るために出て行かなくちゃならないから。
絶対に万歳三唱とか出来ないし、千人針とか用意出来ない。『無事に帰って来て』なんて思いを込めて、赤い玉留めとかびっしり作りたくない。これは日本の戦時中に行われていたことで、今のこの世界では誰もしないことだとは思うけれど、戦争は嫌だ!大切な人を送り出したくない!反対!反対!反対!
「グレタ夫人、ステランは艦隊を指揮することになるが、本格的にぶつかり合うようなことには決してならないよ」
そうならないようにする為に、君は動いて来たんじゃないかとオスカル殿下は言うのだけれど、もしも、万が一、砲弾が当たったらとかあるじゃないですか。船、大きくても木造よ?一発当たったら浸水してすぐに沈んでしまいそうじゃないですか?
「グレタ夫人、我が国の艦隊はステランが加わるようになってから『無敵艦隊』とも言われているのだよ。例えぶつかり合いがあったとしても、ステランなら全ての敵艦を沈めてしまうと思うし」
思うしだって!所詮は思う程度!ああ!本当にこの世界、なんで戦争なんてものがあるのかな?紅茶のために戦争とか言い出す程度には、本当に身近に戦争があり過ぎて、嫌だ!本当に嫌だ!今こそラブアンドピースを叫びたい!
「グレタ夫人、そんな顔をしないで・・元気を出して」
王子ウザイ、本当にウザイ、だったら自分が艦隊を率いて行ってくればいいのに!
「いやいや、私が艦隊を率いて行ったら、敵の思う壺状態になるだろう?」
クソーッ!国王陛下が使い物にならないから!アホほど腹が立つあの国王!国の主人なんだからてめえが艦隊率いて、責任もって敵の敵艦を駆逐して来いっていうんだよ!
「グレタ夫人、そろそろ不敬で捕まりそうだからやめようか」
「私・・もしかしてまた、思っていたことを口に出していました?」
「ああ、バッチリ口に出していたよ」
やべー、不敬で処刑になるかも〜・・と、私がひたすら冷や汗をかいていると、
「グレタ様!なんで聖女が帝国に行っちゃったの!」
半泣きになったルドルフ殿下が執務室へと飛び込んできた訳です。ああ、王子に黙ってマリー一家を帝国まで送ったのを忘れていたよ。
「え?聖女一家を帝国まで送ったの?」
驚愕するオスカル殿下を見上げた私は、
「え?言っていませんでしたっけ?」
と、問いかけると、
「ヴィクトリア嬢がナルビク侯国を経由して帝国に向かうとは聞いたけど〜」
と言って、殿下は薄くなった頭を抱えだしたのだった。
ここからラストまで(可能な限り)毎日二話更新でいきます!!16時17時に更新していきますので、お読み頂ければ幸いです!サヴァランと紅茶をあなたに』を読んでいただきありがとうございます!
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