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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第三十四話  死刑処分のその後は

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ヴァールベリ王国の第一王子であるオスカルは、今日行われる処刑処分を見に行くようなことはしなかった。今現在、国王ウェントワースが使い物にならない為、処刑を見に行くような暇が彼にはない。


「新聞を使って民衆の悪徳貴族に対する憎悪を増大させるようにしておりましたし、悪を捌くのは今の王家にはオスカル殿下しかいないというプロパガンダも広めているところでもあります。そのため、民衆を扇動する意味でも今回の処刑は早めに行って良かったと思いますよ」


 自分の兄を殺した犯人の処刑だというのに、オスカルの腹心の部下であるステランも処刑場には顔を出していない。そんな暇が彼にないことを、オスカルは十分に理解していた。


「元々、グレタがサヴァランと紅茶を使ってオスカル殿下とマデレーン妃殿下への人気が高くなるように操作をしていたのが良かったように思います。その下地があってこそ、ここまで国民の心を動かすことが出来たのでしょう」


 元々、新聞関係はステランの妻、グレタの担当だったのだが、聖女が本島へとやって来た後は聖女の監督業と王妃の治療責任者としての仕事がメインとなった為、新聞関係はオスカルとステランに放り投げられた形となったのだ。


 王位継承争いが激化することを見込んだオスカルは、新聞を自分の都合の良いように使おうという考えはあったのだが、あまりに多忙過ぎて新聞社を購入したまま手付かずの状態となっていた。


 これをグレタが軌道に乗せてくれたため、後を引き継いだオスカルが上手く利用することとなったのだ。大手の新聞社である『エスタード』と大衆紙である『サンライフ』の両方を媒体として利用できたのはかなり都合が良かったのだ。


「大概、誰でも『勧善懲悪』が大好きなのです。世の中には悪い奴が沢山いて、庶民であればあるほど、いつだって悪い奴の被害に遭っている。そんな自分たちでは手出しが出来ないような悪い奴が、ギャフンされて、ざまあみろされて、処分される。悪い奴こそ最後には滅びるというストーリーが、みんな、涎が垂れるほど大好きなのですよ」


 と、ステランは言い出した。だからこそ、悪いのは己の欲のために国民を搾取して搾取して搾取し尽くそうとする『悪徳貴族』とその後にいる『巨大な権力(それはどこかの国の誰かかもしれない)』に立ち向かう、ヴァールベリ王家の第一王子オスカル!という構図を作りだす。


 処刑が行われる二十日ほど前に、王妃の麻薬中毒についての説明を求める声が大きくなったこともあり、貴族議会を招集することになったのだが、そこで集まった貴族たちが言うことには・・

「王妃様を紅茶を使って麻薬漬けにした安陽を!今こそ我らの武力を使って打ちのめしましょう!」

「王妃様を傷つけるとは許せぬ!今こそ安陽を倒して!我らの国力を他国に喧伝してやりましょう!」

 ということらしい。


 安陽侵略を声高に唱える貴族は全て名を記して残す形とし、全ての意見が出終わった後で、紅茶にわざわざミディを混ぜ込んで中毒性の高いものを作り出したのは、我が国の貴族であると発表することにしたのだった。


 今日の処刑では麻薬を紅茶に混ぜ込んで売っていたカーライル伯爵とその家族も処分されている。大富豪のサム・クラフリンは平民ということで、両手両足に縄をつけて、四方から馬を使って引き裂くという最も重い刑罰に科している。


 平民相手の処分は、ご婦人が卒倒するのは間違いないという残酷なものになるのだが、周辺諸国でも見せしめの意味で四つ裂きの刑は多く利用されているのだ。


 最初の死刑処分は人の記憶に残るように、人数も、やり方も派手にした。どいつもこいつも自分の利権のために、よだれを垂らしながら国を売った売国奴なのだ。悪い奴は裁かれる、特に『ミディ』を今後、我が国で取り扱ったら大変な目に遭うのだぞという警告の意味も含めて、捕まえた売人の遺体は三日三晩、市中に晒すように徹底した。


 まだまだ捕まえていない悪徳貴族は山のように居るし、全てを捕まえて処分をすれば、国が動かなくなるのは目に見えている。


 ポルトゥーナ王国からイザベルデ妃が嫁いで来て僅か数年しか経っていないというのに、ヴァールベリ王国にあっという間に紅茶の文化が広がったのと同じように、目には見えない毒までもが広がっていた。


「我が国の国内がここまでガタガタだというのを見越して、ポルトゥーナ王国は矛を収めることはしなかったな」


 オスカルは積み上がった報告書の一部を読んで、大きなため息を吐き出した。


「妻は大衆小説『秘密』がポルトゥーナの王家が読むのは間違いないと確信しておりました。ポルトゥーナの王は正妃の他に二人の側妃を持つ、そのうちの一人がイザベルデの母のエリザベート妃となる。物語は、エリザベートとイザベルデを想像出来るように作られているので、ポルトゥーナの王は自分の子供に疑惑を感じるのに違いないと考えていたのですがね」


「グレタ夫人はポルトゥーナの王を疑心暗鬼に陥らせて、戦争どころではなくしてやろうと考えたんだろう?」


 物語の中の主人公が行った行為は、エリザベートやイザベルデがやっていたこと。異母姉であるヴィアンカ王女は自分の親よりも年取った公爵の元へ嫁がされ、しかも移動の途中に襲撃も受けている。その後、無事に公爵の後妻として収まっているが、ポルトゥーナでは誰もが知っている話なのだ。


「ポルトゥーナの王としてはエリザベートの産んだ二人の子供が自分の子ではないとして、だから何だと言うのだろうな」


 正妃との間に王子と王女が生まれているし、第二側妃との間にも子供が居る。三人目の側妃の子供など政略に利用しようというだけのもので、愛情も何も感じていやしないのだろう。


「エリザベート妃とその王子は蟄居されたと言うのだろう?そのうち、病に罹って死んだという報告が来るのだろうな」


 オスカルはそう言って、書類を机の上に放り投げた。

 エリザベート妃の産んだ子供の血筋に疑惑が持たれた時点で、イザベルデ妃と彼女が産んだ王子は、離宮から貴族牢へと身柄を移動させている。イザベルデにポルトゥーナ王家の血が入らないとするのなら、イザベルデの産んだ子供もまた、ヴァールベリ王家の血を引いているかどうかも分からない。


 タクラマ神聖国には親子関係を明確にする『魔術』というものが存在し、ロトワ大陸中央諸国の貴族や王族はその『魔術』を頼ることもある。この『魔術』のおかげもあって神聖国は多額の寄進を得ているのだ。


 なるべく早く、イザベルデ妃が産んだ王子の出自を判明したいし、疑っているわけではないが少々の金をかけてでも、息子ルドルフが自分の子供であるという証明をしておこうとオスカルは考えている。


 マデレーン妃のことを疑っているわけではないのだが、今後、息子の為にはこういう『証明』が必要であると判断したのだ。


ここからラストまで(可能な限り)毎日二話更新でいきます!!16時17時に更新していきますので、お読み頂ければ幸いです!サヴァランと紅茶をあなたに』を読んでいただきありがとうございます!


モチベーションの維持にも繋がります。

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