第三十三話 レベッカの処刑
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ヴァルストロム侯爵家の嫡男ファレスを殺した罪で捕まったレベッカが処刑される日がやって来た。この処刑には、レベッカの元夫であるオーケルマン伯爵、レベッカの父となるレックバリー子爵も加わった。もちろん連座として、二親等までが集められ、民衆の前での絞首刑が王命によって実施されることとなったのだ。
『帝国に強い恨みを持つ大富豪サム・クラフリンがヴァルストロム前侯爵夫人レベッカと共謀をして、麻薬中毒にした王妃を巧みに操り、様々な悪事に加担したのは間違いない事実。もちろん、レベッカ夫人の前夫オーケルマン伯爵や夫人の実父となるレックバリー子爵も同様である。オーケルマン伯爵は運命の愛の相手として宣言をしたカティア・リリベル嬢とレベッカ夫人と離婚後、すぐに再婚をしたが、カティア嬢は今はもうこの世に居ない。オーケルマン伯爵はリリベル子爵家が所有する鉱山を自分の物とするために彼女と結婚し、採掘された鉄鉱石はレックバリー子爵を通してポルトゥーナ王国に売却した。多額の資金を手に入れた伯爵と子爵は邪魔者となるカティアを亡き者としたことが明るみとなったのだ』
『この鉱石の売買にはもちろん、サム・クラフリンが関わっているのは間違いない。彼はこの悪事は王妃の先導で行ったというように仕組んでおり、王妃を溺愛する国王はリリベル子爵の調査を一旦打ち切る形としているのだから、彼の思惑通りに全ては動いていたのだろう。だがしかし、オスカル殿下は自国を食い物とする悪徳貴族や富豪の悪行を見逃すことなど出来やしなかったのだ。殿下が綿密に調査を重ねたところ、オーケルマン伯爵とレックバリー子爵の叛逆の証拠を手に入れた』
『多くの貴族が我々ヴァールベリ人を食い物にしてきたのは間違いない事実。しかも、今回の事件で、我々ヴァールベリが所有する資産がこともあろうに他国の利益となるように売買されていたことが明るみとなったのだ。今後も悪徳貴族の摘発はオスカル殿下の手によって行われていくことになるだろう。まずは第一の断罪処分として、レベッカ夫人とその親族の公開処刑が中央広場にて行われることになる』
辺境の修道院へと身柄を移されたヘレナは、渡された新聞を読み進めながら体を小刻みに震わせていく。背中には冷たい汗が流れ、全身を氷で覆われたかのように冷たく感じていく。
「こ・・これは本当のことなの?」
王都からやってきた神官は無表情のまま頷いて答えた。
「そうです。処刑処分はレベッカ夫人の二親等まで、修道院へお入りになったヘレナ様も含まれることになります」
「そ・・そんな・・」
「ですので、私がイザベルデ様の指示で貴女様を救いに来た形となります」
「そんな・・そんな!そんな!」
手に持った新聞を握りしめたヘレナは床に叩きつけながら言い出した。
「そもそも!なんでお母様が死刑になるのよ!イザベルデ様が絶対にお救いになると約束して下さったではないですか!」
「イザベルデ様は努力されたのですが、貴女様の義姉であるグレタ様が特別に差配されたようなのです。自分の結婚式の披露宴パーティーを潰したヘレナ様を、披露宴パーティーで自分を突き飛ばした貴女を絶対に許さないと、そうグレタ様は仰っているそうですよ」
「は・・はああ?」
確かにヘレナは義兄であるステランの披露宴パーティーでグレタを呼び出し、取り巻きたちと一緒に取り囲んで暴言を吐いた末に、突き飛ばすようなことまで行った。なんなら、特別に素敵なパーティー会場を用意したのは自分であると吹聴して、いかに自分が兄思いかということをアピールしていた。
「だけど・・だけどそのことについては!すでにオスカル殿下の手で断罪が済んでいるじゃない!」
その断罪の結果、ヘレナは辺境の修道院に送られることになったのだ。ヘレナの取り巻きたちだって、婚約者が居る者は即座に解消、世間体が悪いとして領地送りとなっている。
「その断罪はグレタ夫人が直接下したものではないでしょう?」
床に落ちた新聞を拾った神官は、
「ヴァールベリ王国にある新聞社は、何処もかしこもグレタ夫人の言いなりなのですよ」
しわだらけの新聞を指先で伸ばしながら言い出した。
「情報操作なんて簡単なこと、レベッカ夫人やその親族に連なる者を、民衆を煽る形で死刑にまで持っていくなど簡単に出来るのですよ」
ヴァルストロム侯爵家に嫁いだグレタにとって義母となるレベッカや義妹のヘレナが邪魔だったのは間違いない。結婚式の後、一度、姿を消している間に、邪魔者を排除する準備を整えていたのだろう。
「新聞の力は偉大ですよ、ヘレナ様も王都でその力を確認された方が良い」
そう言って修道院からヘレナを連れ出してくれた神官は、変装したヘレナを処刑場に案内してくれたのだった。
「今回の処刑は王妃様を利用し、尚且つ害をなそうとした輩を処分するものなのです。ですが、周りを見てください。集まった民衆は、国の上層部の思惑とは別のことを叫んでいるでしょう?」
集まった民衆は確かに怒っていた、激しい怒りを爆発させていた。
「ミディをわざと国に広げた悪人が!」
「この売国奴!」
「売国奴は死ねーー!」
処刑台まで連れて来られる罪人に、雨のような礫が降り注ぐ。
「お母様たちがミディを国内に広めたわけではないのに・・」
「庶民の間ではミディ中毒が問題となっていた。新聞では連日取り扱うほどの熱の入れようでしたし、そこで処刑となれば、ミディ絡みでの処分だと考える者も多いでしょう」
「な・・なぜ・・お母様やお父様・・おじい様やおばあ様が処刑されなければならないの?」
「それはグレタ・ヴァルストロムに関わることになったからですよ」
神官はヘレナの耳元で囁いた。
「貴女たち親子はグレタ夫人の結婚披露宴をただただ、黙って見守っていれば良かったのです。だけど、己の欲を優先して夫人の邪魔をするようなことをした」
ヘレナの大切な人たちが処刑台に登り、首に縄をかけられていく。
「グレタ夫人は今ではオスカル殿下の参謀とも言われているのですよ。彼女がそう望めば、何でも可能になるのです」
踏み台が外されて、次々と命が消されていく。最後の最後で、処刑台に立つ母と目が合った。民衆の中で自分を見上げるヘレナの姿に気が付いた母は、最初、心底驚いた様子で目を見開いたけれど、自分の隣に立つ男を見て口を大きく動かした。
何度も、何度も、同じ形に母は口を動かすと、踏み台を外されて母はぶらぶらと力なくぶら下がることになったのだが、
「お母様・・」
母の姿を凝視していたヘレナは、その場にへたり込んでしまったのだった。
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