第二十九話 イザベルデ妃の差配
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イザベルデはエスタード新聞を一読すると、侍女を呼んで、
「王妃宮の様子はどう?」
と、問いかけたのだった。
「現在各離宮は封鎖されて出入り出来ないような状態なのですが・・」
ヴァールベリの王宮は、本宮と呼ばれる白亜の城に政務関係を執り行う諸機関や、各国を招くことになる迎賓館、大舞踏会場や謁見の間などがあるのだが、王族が生活をするのが、本宮とは別に用意された王族が各々所有する離宮ということになる。
「王妃宮の方は相変わらず厳戒態勢が敷かれているような状態であり、出入できる王族は国王陛下のみ。第一王子のオスカル様でさえ出入りは禁じられている状態となっているようです」
「あらまあ・・」
イザベルデは新聞に掲げられている『ルイーズ王妃!危篤!』という文字を眺めながら、口元に美しい微笑を浮かべた。
イザベルデが入手した情報によると、一時的に王妃は起き上がって生活が出来るまでに回復をしたのだという。完全に王妃が回復してしまったら困るイザベルデは早めに手を打つことにしたのだが、
「典医がうまくやったみたいね」
そう呟きながら、イザベルデは満足そうな笑みを浮かべた。
「エリザベート様からイザベルデ様へ、なるべく早くアウレリア様を処分にするようにとのことです」
ハプランス王国の公爵令嬢だったアウレリアはアンデルバリ公爵の元へ嫁いで二人の息子を産んでいる。二人目の息子ベンジャミンは生粋のハプランス人となるため、ベンジャミンに公爵家を継承させるため、長男を麻薬中毒としていたのだ。
しかし、最近になって公爵が長男の中毒症状に気がつくこととなり、アウレリアとベンジャミンは現在、王宮の地下牢に幽閉されることになったのだ。
余計なことを言う前に処分をした方が良いとはイザベルデも考えていた為、
「大丈夫よ、レベッカと一緒の日に公開処刑にすることになったから」
侯爵家嫡男を殺した罪で死刑判決が出ているレベッカは、公開処刑となる予定でいる。この公開処刑に紛れる形で処分をするように手配は済ませている。
侍女がイザベルデに渡してきた手紙は母であるエリザベートがしたためたものであり、ヴァールベリ王国の鉄鉱石が大量にポルトゥーナ王国に運び込まれたことによって武器の生産も進み、現在、フェロール港に運び込まれているということ。そのフェロール港には二千隻の平底の輸送船が集められているということが記されていた。
島国であるヴァールベリ王国を征服するためには、上陸作戦を実行に移さなければならない。その上陸作戦のためにハプランス・ポルトゥーナ連合軍として3万の兵士を港に集めて、平底の輸送船でヴァールベリ王国へ運び込む予定でいるのだ。
この作戦の肝となるのが『王妃様の容態』だったのは間違いない。
オルランディ帝国の皇帝は妹であるルイーザを溺愛しているのは有名な話で、
「妹に何かあれば、貴様の島を滅ぼしてやる!」
と、ウェントワース王相手に豪語したというのは有名な話だ。
その王妃が亡くなるようなことにでもなれば、帝国は大切な妹を守り切れなかったとして、ウェントワース王ならびにヴァールベリ王国を激しく憎むこととなるだろう。弱体化が進んでいるヴァアールベリ王国を狙って、ポルトゥーナとハプランスが動いたとして、果たして皇帝はヴァールベリ王国を守ろうと動くのだろうか?いや、動くことはないだろう。
オスカル殿下の後ろ盾として名乗りをあげたナルビク侯国にしても、彼の国が最も恐れているのはハプランス・ポルトゥーナ連合軍の侵略戦争がナルビクに向けられることだ。ヴァールベリ王国を狙うと見せかけて、実はナルビク侯国を狙っていたという事態に陥ることを恐れて、自国の守りを厚くしているという情報が入って来ている。
ヴァールベリ王国の貴族たちの地盤は、ミディ(麻薬)を流し込んだことによって崩れかけているのは間違いない事実。こちらの想定よりもかなり早い時期にミディの汚染が発覚することにはなったものの、すでにヴァールベリ王国の負けは決まったようなものなのだ。
「ふふふ・・カール様が王位を継ぐ日も近いですわね・・」
イザベルデはカール第二王子の妃となった。王国内では第一王子のオスカルこそ次の王に相応しいという声が多かったのだが、それをひっくり返したのは一重にイザベルデの手腕によるものとなる。
連合軍に実効支配されたヴァールベリ王国の王族は、カール王子以外を全て処刑処分する予定でいる。暫定的な王としてカールを次の王位に据えたあとは、一年ほどでカールを廃して、次の王位を息子に据える予定でいるし、
「カール様を殺すようにとも言われていたけれど、病に倒れたということにして、私が女王としてこの国を支配しても良いし・・」
イザベルデの未来が薔薇色なのは間違いない。
「ところで・・アウレリア夫人をすぐに処刑しても大丈夫なのでしょうか?」
アウレリアはハプランス王国の最も有力な貴族とも言われるゲッティンゲン公爵の娘である。何代にも渡って王族が降嫁していることもあり、準王族としての扱いでもある公爵令嬢アウレリアは、ハプランスの姫という扱いを以って輿入れしたという経緯もあるのだ。
「大丈夫よ!悪いのはアンデルバリ公爵家であり、ヴァールベリ王国なのだから、私は全く関係ないもの!」
そう答えたイザベルデは花開くような笑みを浮かべる。
多少、イレギュラーなことはあったものの、全ては予定通りに動いているのは間違いないのだから。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
モチベーションの維持にも繋がります。
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