第二十四話 ヴァールベリ王国の王位継承
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ヴァールベリ王国には三つの公爵家が存在し、いつの時代でも王位継承争いに公爵家が関わることになる。今の王が即位する時には第一王子にラトランド公爵家、第二王子にヴィキャンデル公爵家が付く形となって、結果、ウェントワース第二王子が王位を継承することになった。
アンデルバリ公爵家はこの時、前王の後ろ盾となっていた為、傍観を決め込むこととなったのだ。だからこそ、ウェントワース王の後ろ盾となったヴィキャンデル公爵家は、今起こっている王位継承争いでは傍観を決め込む立場にある。
第一王子の妃がラトランド公爵家の令嬢だということからも分かるとおり、オスカル第一王子の後ろ盾はラトランド公爵家であり、カール第二王子の後ろ盾はアンデルバル公爵家になっているのだが、所詮は様式美のようなもの。
何代にも渡って一つの公爵家が後ろ盾になるということにはならないように、後ろ盾になる順番というものが決まっているようなものなのだ。前回はヴィキャンデル公爵家だったから、今回はラトランド公爵家。そうして次の代にはアンデルバル公爵家が王の後ろ盾として就くことになるのだろう。
ハプランスから妻となるアウレリアが嫁いで来た時には、
「次の王位はオスカル殿下で決まっているようなものだから」
と、アンデルバリ公爵は説明をしたのだが、
「そんなこと、まだ分からないじゃないですか?」
と、扇子で口元を隠したアウレリアは上目遣いとなって言い出した。
「私は嫁ぎ先であるアンデルバル公爵家に栄華をもたらすために来たのです」
「いや、君が我が家の栄誉に関わるわけではない。君は我が国がハプランスから穀物を輸入するための繋がりの一つとして、我が公爵家に嫁いでくることとなったのだ」
島国であるヴァールベリ王国では穀物を作っていても、他国に頼らなければならないほどに自給率が低い。一時期はオルランディ帝国から輸入をしていたのだが、ハプランスの穀物の方が安く手に入れることが出来るということで、今ではハプランスに頼り切りのような状態になっている。
「ですが旦那様?」
アウレリアは翡翠色の大きな瞳を向けながら、
「せっかく旦那様が愛する婚約者を捨ててまで私を選んでくれたのですもの」
公爵に向かって言い出した。
「だったら、自分の存在価値を提示しなければ、旦那様が、やっぱりあちらの方が良かったと思われるかもしれないじゃありませんか?」
確かに公爵は、長年仕えてくれた自分の婚約者を捨てて、アウレリアを娶ることになったのだ。
ヴィキャンデル公爵がナルビク侯国の姫を娶り、ウェントワース王は皇帝の妹を娶っている。年上のラトランド公爵はすでに結婚して子供も居る状態だった為、ハプランスの公爵令嬢を娶るには自分しか居なかったというのは間違いない。
「旦那様が愛する人を捨ててまで私を選んでくれたのですもの、だから私、絶対に旦那様を後悔させないように努力をいたしますわ!」
この時、確かにアウレリアは覚悟を決めたような様子でそう言って、花開くように笑ったのだ。
「旦那様!旦那様!私はどうなっても構いません!ですが、どうか!どうかベンジャミンの命だけはお助けくださいませ!」
邸宅の地下に設けられた牢から連れ出されたアウレリアは、黄金の髪を振り乱しながら、後ろ手で掴む兵士から逃れるように前へと出ながら言い出した。
「ベンジャミンは旦那様の子なのです!どうぞお慈悲を!お慈悲を!」
「何を言う、私の子ではなくお前の従兄の子なのだろう?」
「いいえ、違います!違うんです!」
「よくもまあ、ぬけぬけと嘘を吐けるものだな」
そもそも、ベンジャミンは産み月からしておかしかったのだ。公爵がアウレリアに手を付けた日は限られており、そこから計算しても一月ほど早く生まれた赤子は、早生まれにしては随分と大きな子供だったのだ。
「腹を痛めて産んだブランドンにミディを盛り続けて殺そうとした上で次の公爵にはベンジャミンこそ相応しいと、散々言っていたお前の狙いは良く分かっている。私に良く似たブランドンを可愛がろうともしなかったお前は、父も母もハプランス人となるベンジャミンこそ愛おしいと思ったのだろう?そうして、ハプランス人の手で我が公爵家を乗っ取ろうと企んだ!ただでさえお家乗っ取りは重罪だというのに、異国の血にすげ替えようとは死刑は決まったようなものだぞ!」
「そんな!死刑なんて嘘です!嘘!私はそんな!」
アウレリアは涙をポロポロとこぼしながら言い出した。
「そもそも、あなたがいつまでも昔の婚約者を思い続けていたから・・あなたがいつまでも昔の女を忘れないからいけないのよ・・」
アウレリアが俯けた顔を上げた時には、憤怒の色に染まり、怨嗟の声をあげていた。
「殺したっていつまでも思い続けているのだもの!妻としてこれほど心傷付くことはなかったわ!あなたは、いつまでも、いつまでも、昔の女のことばっかり考えて!私のことなんか見向きもしないのだもの!」
「カリスタを殺したのは貴様か!」
公爵が自分の妻に飛びかかってその細首を絞めようとしたところ、後ろから押さえつけにかかったステラン・ヴァルストロムが言い出した。
「お待ちください!公爵!この女は城で厳しい取り調べをすることになります!今後、どれだけの罪が積み上がっていくことになるかは分かりませんが、極刑となるのは間違いないでしょう!」
「だが・・それだって・・」
「父上!父上!助けてください!父上!」
地下の牢獄から連れ出されたベンジャミンが必死の声を上げている。
「僕は知らなかったんです!知らなかったんです!助けてください!父上!」
「公爵、輸送は私の部下が責任を持って行いますので、一旦、ここからは移動をしましょう」
ステランに促された公爵は、ふらつく足取りでその場を後にした。オスカル殿下の名代としてこの場を取り仕切ることを任されたステランは、
「二人に猿轡を噛ませろ、暴れるようなら縄で拘束しても構わない!」
そう言って、早急に二人の輸送を開始するように命じたのだった。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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