第二十三話 アンデルバリ公爵家
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ヴァールベリ王国には三つの公爵家があるのです。この前、披露宴パーティーを行なったヴィキャンデル公爵家と、オスカル殿下の奥様であるマデレーン妃の実家にあたるラトランド公爵家。そして、もう一つの公爵家であるのがアンデルバリ公爵家なのですが・・
「夫人の小説を読んでアンデルバリ公爵も色々と思うところがあったようで、よくよく調べてみたようなのだが」
急にオスカル殿下がそんなことを言い出した為、
「小説ってどっちの小説ですか?」
と、私こと、聖女様を呼び寄せたことにより、王妃様の治療の責任者となったグレタが問いかけると、
「夫人が毎日連載している『秘密』を読んで、公爵は自分の息子が本当に自分の子供なのか自信がなくなっているらしい」
と、オスカル殿下はため息を吐き出しながら言い出した。
アンデルバリ公爵の妻は二人の息子を産んでいるけど、現在、嫡男が病床に伏しているような状態のため、次の公爵には次男の方が相応しいのではないかという話が出ているんですって。
この次男なんだけど、瞳の色が父親と同じ色でも、顔立ちは父にも母にも似ていない。どうやら夫人の従兄に良く似ているみたいなんだけど、妻と従兄の不貞とかは考えられない。なにしろ二人は個室で二人っきりになったこともないような間柄なんですって。
他国から嫁いで来た妻の元へ、王国を訪れた際に従兄が顔を出すのは良くあるものの、絶対に逢瀬を交わすような機会はないと断言できる。
親族ということもあって、顔が似るようなこともあるのか・・納得いかないながらも、そんな風に考えていた公爵は『秘密』を読んで、拭い難い疑惑を感じるようになったというんですね!
「そこに来てレベッカ夫人の騒動があっただろう?」
前ヴァルストロム侯爵に後妻として迎えられたレベッカだけど、アンデルバリ公爵夫人が主催するサロンでヴァルストロム侯爵家の嫡男ファレスと出会ったってことなのです。
そのファレスが『ミディ』に手を出した末に中毒症状となっているようだと、レベッカが先代侯爵に知らしめた。すでに手遅れ状態となっていたファレスは麻薬の過剰摂取によって死亡したんだけど、心労で弱りきった侯爵を支えた末に後妻として侯爵家に潜り込んだのがレベッカとなるんですね。
このレベッカが故意にファレスに麻薬を摂取させて死ぬように仕向けたのは、夫のステランが連れて来た証人によって明らかとなったのは最近の話ですし、結果、レベッカには死刑判決が出ているのです。
このレベッカにファレスを紹介したのがアンデルバリ公爵夫人とあって、官吏による取り調べが行われることになったんだけど、公爵様は、官吏の取り調べの前に妻と次男の身柄を拘束することにしたんだそうです。
アンデルバリ公爵の長男は病に伏しているし、お抱えの医師は持病が悪化したので予断を許さないと言っていたそうなんですけど、結局、彼はミディの中毒症状を起こしていたのです。ヴァルストロム侯爵家と同じようなことが繰り返されようとしていたわけですね。
公爵直々に厳しい聴取を行なったところ、担当医師は公爵夫人に命じられてミディを息子に与え続けていたと白状した。
父にも母にも似ていない次男は、結局、妻の従兄の子供だったそうなのです。商船に乗って王国へとやってきた妻の従兄を捕まえて責めたてたところ、子種は侍女頭経由で妻の元へと渡るように手配されていたらしい。
アンデルバリ公爵の妻は広大な穀倉地帯を持つハプランス王国の公爵令嬢だったんです。ヴィキャンデル公爵夫人がナルビク侯国の姫君だったのは有名な話なんですけど、アンデルバリ公爵の妻はハプランス王国の公爵令嬢だったんですね。
どうやら、ハプランスのお姫様は、ハプランスの血を引く次男に公爵家を継がせることで、公爵家のお家乗っ取りを企んでいたみたいなのですよ。
しかもしかも、取り調べを進めていくうちに、王妃様の麻薬中毒を見逃し続けていた担当医が、アンデルバリ公爵夫人と繋がっていることが判明したのです。
王妃様に直接ミディを飲ませていたのが帝国から連れて来た専属侍女だとすれば、その悪行を見逃す形で野放しにしていたのが担当医師ということで、王妃の麻薬中毒にはイザベルデ妃が絡んでいるかと思いきや、意外な人物が浮上することになったわけなのです。
オスカル殿下が顔を覆って項垂れると、脱毛によって更に薄くなった頭頂部が良く見えます。
「我が国を属国にしようとポルトゥーナ王国が企んでいたのは間違いないのだが、ポルトゥーナの更に隣となるハプランスまで我が国を狙っていたということになるのだろう」
一国を相手にしても大変だというのに、二国を相手。しかも、自国での自給率が低いヴァールベリ王国は大量の穀物をハプランス王国に頼りきっているような状態でもあるのです。
「アンデルバリ公爵を責めることは出来ぬ、我が国への穀物の供給を安定したものとするため、公爵がハプランスの姫と政略結婚をすることになったのは王家が原因でもあるのだから」
今の国王陛下が王位を継承される時には、一番目の王子にするか二番目の王子にするのかで散々揉めることになったのです。最終的には帝国の姫君であるルイーズ皇女を娶ったウェントワース王子が王位を継承したのです。
ハプランスは姫君の輿入れの申し込みをしていたんですけど、皇帝の溺愛する妹姫を妃として迎え入れたウェントワース王が側妃として誰かを娶ることは出来ないですよ。かといって穀物を輸出しているハプランスを袖にするわけにもいかないし、継承争いに敗れた体の弱い第一王子の妃とするわけにもいかないし。
アンデルバリ公爵家は先王の後ろ盾となっていた関係で、今回の王位継承争いでは傍観する形となっていたんです。その為、白羽の矢が立ち、ハプランスの姫君を妻として迎えることになったわけ。
「今の公爵は泣く泣く婚約者と別れて、ハプランスの姫を娶られたのだ。その姫が裏切り行為をしていたとしても、王家は公爵家に対してあまり強く言うことなど出来ぬ」
一旦、王位を継承してしまえば安定する政権も、代替わりとなる度に沈没してしまうのではないかと思うほどグラグラ揺れるのがヴァールベリ王家の特徴でもあるみたい。今回は複数の国が裏で暗躍をしているため、今までにないほど大きく揺れているのは間違いないです。
「とりあえず、ハプランスとかポルトゥーナとか、そういう大きい問題は横に置いておいて、まずは聖女様をアンデルバリ公爵家に送り込んだ方が良いんじゃないですかね?」
私は抜け毛が激しい王子様に向かって言いましたとも。
「公爵家の嫡男様がミディ漬けだってことなら、早急に対応しないとまずいですよ。マリーの調薬技術は確かなものなので、すぐにでも処置をしに向かわせた方が助かる確率が上がるでしょうし、アンデルバリ公爵家にも恩を売ることも出来るでしょう」
ヴァルストロム侯爵家の嫡男ファレス様を救うことは出来なかったけれど、公爵家の嫡男はまだ救える見込みがあるのだからさっさと動かない理由はないでしょう。
「王妃様の容態もようやっと安定してきたみたいですし、作者として読者でもある公爵様から感想を聞いてみたいとも思うし、私が三人を連れて公爵邸に行って来ましょうか?」
「そうしてくれるか?」
「はい。ケイシーたちも王宮の敷地内に閉じ込められてだいぶストレスが溜まっているとも思うので、息抜きがてら連れ出さなきゃいけないなと思っていたので、ちょうど良かったですよ!」
その時、まさか王子様だとは思わずに普通の子供と同じようにルドルフ王子を扱ってしまったケイシーが白目を剥いて失神していたなんて、私は知るよしもなかったんだけど、
「オスカル殿下は頼んでおいた手配の方を早急に終わらせるようにお願いしますね〜」
と言って、殿下の執務室を後にすることにしたのだった。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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