第二十一話 聖女と母親
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二人の姉妹は最近、王妃宮の方へとやって来たそうで、姉の方がマリー、妹の方がソフィーという名前らしい。王妃宮の庭園には見えないところに薬草が群生していることが多いらしく、胃薬を作るためにマリーが言うところの『草』を摂りに来たところ、ルドルフが草の群生地の上で小さくなって泣いていたということになるらしい。
「何か嫌なことがあったのかもしれないけど、嫌なことがあった時にはお芋を食べるの」
「お腹が膨れると!幸せになれるから!」
二人はルドルフが悲しそうに泣いていたのを忘れたわけではないらしく、手を引いて自分たちが住んでいる居住区の方へと案内してくれたのだった。
二人は王妃宮の裏にある小さなコテージのような建物にルドルフを案内したのだが、そのコテージの前には警備兵も立っていて、
「なっ!どうしてここに!」
と、兵士はルドルフを見るなり驚きの声をあげていたけれど、
「泣いていたから連れて来たのよ!」
と答えて、問答無用でマリーが手を繋いだルドルフを家の中へと連れていく。
すると台所で料理をしていた母親が芋を揚げながら、
「もうすぐお芋が揚がるから、椅子に座って待っていてちょうだい」
と、こちらを見もせずに言っている。
「薬草を洗ってくるわ」
「一緒に手を洗いましょう!」
二人に連れられてコテージの裏へと出たルドルフが、水場で手を洗っていると、
「二人とも!お芋が揚がったわよ!」
と、母親がこちらに顔を覗かせながら声をかけてきたのだが、二人と一緒に手を洗うルドルフを見て、目玉が飛び出るかと思うほど大きく目を見開いた。
「お芋!お芋!」
「油がいっぱいあるから、いつでも、いっぱい、揚げられる〜!」
「・・・」
歌う二人に挟まれながらルドルフは小さくなって移動をすると、
「さあ!座って!お芋を一緒に食べましょう!」
と、マリーがルドルフの前に椅子を置きながら言い出した。
「マリー・・そのお子さんは・・」
「ここで働く人の子供じゃない?」
「侍女さんの子供かもしれないよ?」
「時々、自分の子供も遊びに来るって言っていたもん」
「あら・・そうなのね」
二人の母親であるケイシーは、
「下々の食べ物なので、お口に合うか分かりませんけれど・・」
と言って揚げた芋をテーブルの上に置いた途端、マリーとソフィーは指で摘むようにして芋を口に運び出したのだった。
ちなみにルドルフは、芋を指で摘んで食べたことなど一度もない。だけど、花の蜜だって指で摘んで食べたし、お芋だって指で摘んで食べた方が美味しいのかな?と、思ったので、恐る恐る指で摘んで口に運んでみたのだが・・
「あっちゅ〜」
と、言いながらホクホクの芋を口の中で転がすようにして噛みしめた。
今までもちろんお芋は食べたことがあるのだが、揚げたてなど口にしたことがないルドルフは、
「おいしい〜!」
と言って、次から次へと自分の口の中に運んでいく。
「あらまあ、お口に合ったようで良かったわ」
素晴らしく上等な衣服を着ている子供だけれども、平民のケイシーにはお貴族様のランクがちっともよく分からない。
王妃宮に勤めるのは貴族籍の人間しかいないらしいけれど、
「うちなんて下位も下位!平民と同じようなものよ〜!」
と言ってくれる人もいたし、いくら上等の服を着ているとしても、王妃様に仕える専属侍女の誰かの子供なのだろうとケイシーは思い込むことになったのだ。
泣き腫らしたような真っ赤な目で芋を食べている幼い子供の姿を見ていると、お母さんの仕事が終わるのを待っている間に寂しくて泣いていたのかなとも思ったし、お仕事中だろうから、その間はこちらで面倒をみていても良いかしらとも思ったのだ。
芋を食べ終わった三人が縄を手に取って、
「お母さん、裏で縄跳びして遊んできても良い?」
と、マリーとソフィーが言い出した時には、
「縄跳び?」
キョトンとしている男の子の顔を見て、この子は縄跳びで遊んだこともないのだと思って悲しくなってくる。
夫が亡くなってからというもの、寝込みがちだったケイシーに代わって飛び回るようにして働いていたマリーは、一時期、子供らしく遊ぶような余裕もなかったのだが、今は笑顔で遊ぶ時間が出来たのだ。もしかしたらこの子も、貴族としてのお勉強ばかりで遊ぶこともなく過ごしているのかもしれないと思うと、胸が締め付けられるような気分に陥ってしまう。
「マリー、ソフィー、お友達にきちんと教えてあげてちょうだいね」
ケイシーがマリーとソフィーの頭をそう言って撫でると、羨ましそうに見上げる男の子を見下ろして・・
『お貴族様の子供は頭を撫でられることも、抱きしめられることもあまりないのかもしれないわね〜』
と、思うとなんだか可哀想になってしまって、
「縄を回してぴょんぴょん飛ぶのよ、頑張って試してみて!」
と言って、ケイシーは男の子の頭も、二人の娘と同じように撫で回してあげたのだ。
平民身分のケイシーと二人の娘が王妃宮で働くことは異例中の異例で、色々と揉めることもあったようだけれど、最終的に庭番が利用するコテージをケイシーたちが利用するということで、何かあればすぐに対応出来るように待機することを命じられることになったのだ。
こんな辺鄙な場所に遊びに来るのだから、二人の娘と遊んでいても問題ないのに違いない。片付けをしたら警備に立つ兵士に声をかけて、子供はこちらで預かっていると宮の方へ声をかけて貰えば良い。そんなふうに考えながら鍋を洗っていると、表の方がどんどん騒がしくなって来ていることに気が付いた。
「あらまあ、お迎えが来たのかしら」
王妃宮には多くの貴族たちが働いている。王妃宮で働く侍女の方々はとっても良い人ばかりのため、子供をお預かりすることで少しくらいは役に立ったかしら?そんなことを考えながらケイシーが外へと出て行くと・・
「殿下!殿下!お探ししていたんですよ!」
「こんなところにまで来ているなんて!」
「どうして我々に黙って出かけたんですか!」
偉そうな人たちが男の子に飛びつくようにして声をあげている。
「え・・殿下って・・え・・え・・」
「お母さん、あの男の子、王子様だったんだって」
「お母さん、王子様」
二人の娘にそう言ってエプロンを引っ張られたケイシーは、白目を剥いてそのまま気を失ってしまったのだった。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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