閑話 しつこい侯爵
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『伯爵夫人の夜の楽しみ』の作者が妻のグレタであると知った私は、秘書のウルリックが心配するほど動揺を露わにしていたようだ。
イレネウ島で妻に受け入れて貰った私は、妻の全てが無垢であったことを確認しているし、自分が妻にとって最初の男であったと断言することが出来る。初めてのわりには物慣れた様子で私を受け入れた妻ではあったが、確かに、あの時彼女は初めてを私に捧げてくれたのだ。
そんな妻が十五歳の時に筆を執った作品が『伯爵夫人の夜の楽しみ』なのだという。あの、今まで誰もが描ききることが出来なかった暴力的な性と、それを感受する年若い男のふしだらで、どうしようもないほど未来がない世界。太ったおばさんと若者による愛憎云々や、欲に走って金と権力にしか興味がない夫と妻の云々を、私の妻がわずか十五歳の時に書いていただって?
「アンネ!アンネ!アンネ!アンネ!」
私は即座に妻の専属侍女を捕まえて追求することにしたのだ。
「グレタが『伯爵夫人と夜の楽しみ』の作者で、初めて筆を執ったのが十五歳の時のことだったと聞いたのだが?」
「さようでございますね」
「あんな物語を書き出してしまうということは・・アレか?アレなのか?まさかのまさかで、アレでコレして、ソレで、アレで!」
言語になりきらない私の言葉を、冷めた眼差しを向けながら最後まで聞いていたアンネは、大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「一応、グレタ様の名誉を守るために言っておきますけれど、グレタ様に秘密の恋人がいたとか、若い時にはそれは派手な遊びをしていたとか、世情に長けた年上の恋人から教育を受けたとか、そんな訳ではないということを、幼い時からグレタ様にベッタリとくっついて仕えている私が断言致します」
女は決定的な行為にまでいかなければ純潔は守られる。まさかあのグレタが・・そんなバカな・・だがしかし・・あんな小説を書いている程だから・・という私の考えを否定しながら、アンネは重ねるように言い出した。
「お嬢様が天才というのはすでに侯爵様も十分に理解されているとは思うのですが、様々なあり得ない知識を披露する際に、いつでも『昔に読んだ本から引用しただけよ〜』と、グレタ様は言うのです」
「その言葉、私もグレタから聞いたことがあるぞ!」
「でしょうね、グレタ様の口癖のようなものですから」
アンネはため息を吐き出しながら言い出した。
「私がお仕えし始めた時に、グレタ様はまだ六歳の少女でした。そんなグレタ様が教会のバザーに出品するためにと考え出したのが、ストーン商会を大きくするきっかけとなったゴム製品です」
ゴムの木の樹皮を切りつけて溢れ出す白い液体が、伸縮自在なゴムという製品に変化する。それを考えついたのがグレタだとアンネは言うのだが、最近の私はもうそんな程度では驚かない。
「バルーンアートにしても、工場見学に行ったから作り方を知っていると言うのです。何処の工場?と、みんな疑問に思いましたがグレタ様の言うことなので、全てをスルーするようになっているのです」
お茶にしてもそうだった、今まで誰もが作ったこともない製法で様々な茶を作り出したあの知識。それ以外にも結婚披露宴のあの仕様はなんだったんだ?グレタはゼ◯シィという本を読んだから知っていると言っていたが、そんな本は世界中、何処を探しても存在しない。
「お書きになっている小説にしてもそうなのです。昔、山ほど読んだことがある、無料で読んだアルアルネタをぶちこんでいるだけだから何の問題もないと仰るのです」
「もう、天才がどうこうという話ではなくなっているな・・」
「そうなんです」
「これはもう、グレタに直接聞いてみるしかないな」
私がそう呟いていると、
「結果が分かったら是非とも私にもお教えくださいませ」
と、アンネがぺこりと頭を下げながら言い出した。
その日、マリーとソフィーとケイシー親子を王妃宮へと案内したのだが、聖女が幼すぎるとか何とかで、色々と揉めるようなことはあったのだ。
結局、幼いソフィーが水の魔力で出した水を使って、マリーが癒しの力を込めながらデトックス茶を淹れる。このデトックス茶だけでも王妃様の顔色はだいぶ良くなったのだが、とにかく凄かったのが二人の母親であるケイシーのマッサージ技術だった。
癒しの魔力を込めながら行うマッサージは、王妃をみるみるまに回復させる力があったようで、
「平民とかそんなのは関係ない!妃の側でその技術を惜しみなく発揮し続けて欲しい!」
と言って号泣するウェントワース王からの王命によって、三人は王妃宮で過ごすことが決定することになったのだ。
「いやあ・・聖女の年齢で国王陛下がゴネ出すとは思いもしませんでしたけど、無事に王妃様が回復して本当に良かったですよ」
私たち夫婦は寝室を共にしているので、満足げにそんなことを言ってベッドに横たわる妻に私は覆い被さるようにしてじっと見つめた。
「グレタ、私に言っていないことがあるだろう?」
「はい?」
「今まで君は様々なことを短い期間でやってのけた。今ではオスカル殿下の参謀殿と渾名されているようだが、その君の知識、一体何処で手に入れたものなのだ?」
「え?えええ?」
「君が多くの読者が夢中になっている『秘密』を執筆していることを知っているが、短い時間でチョチョイのチョイで書くようなネタじゃないだろう?なんなんだ?あの!自分でやればなんとかなる!こんなんでも妊娠できちゃうんだよ〜みたいなくだりは!」
「いやいやいや・・」
「あんな方法で妊娠が出来るのか?本当の本当に妊娠するのか?多くの読者に衝撃を与える作品になったのは間違いない!あんな知識、何処で手に入れた?」
「それは!本で読んで知っていただけだし!」
「でた!本を読んだと言ってなんでも済ませるやつ!」
私は妻をしつこく攻め立てた。ねちっこく、しつこく、もうやめてくれと言ってもやめずに攻め立てた。そうしたら妻は、全身汗まみれとなってゼエゼエ言いながら遂に自分の秘密を告白したのだった。
その秘密の告白を聞いて、
「・・・・」
妻の体を抱きしめながら、しばらく考え込むことになったのは仕方がないことだろう。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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