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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第二十話  紅茶と焼き菓子

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ヴァールベリ王国は将来的にはポルトゥーナ王国の属国となる、これはすでに決まったのも同じことだ。だからこそ、次の王妃の座に就くことになるイザベルデに媚を売ろうとヴァールベリ人の貴族が蝿のように集ってくる。その蝿がどこを飛んで行こうが、それはイザベルデが気に掛けるようなことではない。


 王妃への見舞いは先触れなしの訪問となる。豪奢なドレスを身に纏ったイザベルデが、八人の貴婦人たちを後ろに侍らせながら王宮の豪奢な回廊を闊歩する。堂々と歩くイザベルデの行進に、通りかかった王宮に仕える人々は、皆一様に端に寄り、波のように順々と頭を下げていく。


 その回廊の向こう側から、何やら大きなお盆を掲げた数人の侍女を従えて、第一王子妃であるマデレーン妃がこちらに向かって歩いて来たのだ。


 ライバル関係にある第一王子妃と第二王子妃の遭遇。第一王子妃マデレーンの後ろには、盆を持った侍女のみが侍っているが、第二王子妃イザベルデの後ろには、八人の貴婦人が付き従っている。


 マデレーンの後に控える侍女が持つ、盆の上に並べられた菓子が何であるかを確認したイザベルデは、口元に勝ち誇った笑みを浮かべた。


「まあ、まあ、遂にマデレーン様も我が母国の焼き菓子ババの美味しさに気が付いてくださったのね!」


 イザベルデが思わずといった調子で感嘆の声をあげると、マデレーンはその美しい口元に微笑をたたえ、瞳を細めた。


「いいえ、イザベルデ様、この焼き菓子は貴女様の国で好んで食べられるものではございません。サヴァランという名前の菓子なのです」


 直径5センチほどのドーナツ型の焼き菓子にはたっぷりとシロップがかけられており、その中央の穴の部分には、たっぷりのクリームと、鮮やかな果物が飾り付けられていた。


 中央にクリームを盛ろうが、フルーツを盛ろうが、焼き菓子ババ焼き菓子ババ。珍妙な名前を付けてわざわざ別物のように装ったところで、母国ポルトゥーナ王国に憧れを持って真似ているに他ならない。


 思わずイザベルデが、バカにしたように鼻で笑うと、マデレーン妃はにこりと笑って、

「このサヴァランは、息子のお茶会で振る舞うつもりですの。もちろん、お土産として持たせるつもりでもあるのです」

 マデレーンはイザベルデの後ろに控える貴婦人たちに向けて言い出した。


「もちろん、息子のお茶会で使用する茶葉はロムーナ茶ですのよ。ふふふ、貴重な茶葉をお土産に、どれだけの人に持たせようかと悩んでおりますの。だってほら、今ではロムーナ茶は何処に行っても手に入れられないではないですか」


「ロムーナの茶葉ですって?」

 イザベルデはつくづく呆れ果てた様子で声を上げた。

「あの二級品の茶葉を後生大事に飲んでいらっしゃるのでしょうか?なんとまあ、つくづく紅茶の味などわからない方なのね!」

「うふふふふふ」


 普段なら気落ちしたような表情を浮かべるマデレーナ妃が、この時ばかりは、それは楽しそうに、朗らかな笑みを浮かべている。


「ようやっとイレネウ島から運ばれて来たのですもの、今なら、多少はふるまってあげても良いかしら、と、思っておりますの」


 貴婦人たちに向けられたマデレーンのあまりの発言に、イザベルデは呆れてものが言えなくなってしまったのだ。


 安陽国なんていう遠い国から輸入せず、自国で生産をすれば良いじゃないかと、何処かの侯爵が始めた茶葉の生産は、結局、作れてもミドルクオリティ程度のものしか作れなかったのだ。結果、誰にも見向きもされずに、売れ残りが大量に残っているような状態だという報告をイザベルデは受けている。


 そんな売れ残りの茶葉を有難がって飲む人間がいる訳がない。呆れたままにマデレーン妃をそのまま置いて、王妃の宮へと足を運んだイザベルデは、

「あら?何故、誰も居ないの?」

 後ろを振り返り、誰一人後からついて来ていないことに気がついた。


 確かに途中で、気分が悪い、用事を思い出したと言って、帰っていく者たちも居たけれど・・その者たちの名前は侍女に記させて、二度と呼ぶことはないだろうと心に決める。


 なにしろ自分には王妃という強力な後ろ盾がいるのだ。すでに中毒となった王妃は、イザベルデの言う通りに行動を起こすようになっている。


「第二王子妃であるイザベルデ殿下が王妃様のお見舞いに参上いたしました」


 侍女が宮の前で声をかけたが、誰も反応をしない。

 扉を守る衛兵ですら、こちらを見ずに、完璧な無視を決め込んでいるのだ。


「第二王子妃であるイザベルデ殿下が王妃様のお見舞いに参上いたしました」


 再度、侍女が声を高らかにあげたが、誰も彼もが無視を決め込んでいる様子に嫌な予感を感じたイザベルデは、

「お見舞いはいいわ、今日は帰りましょう」

 と言って、くるりと体の向きを変えたのだ。


 どうやら王宮の中で何かが起こっている。その何かを早急に確認しなければ、我が身の破滅を呼ぶことになるような・・イザベルデはそんな気がして足を早めることになったのだった。


サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

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