第十八話 ウェントワース王の苦悩
こちら、間違えて違うお話の続きを載せていました!!改めて載せ直しております!!
ヴァールベリ王国の国王であるウェントワース陛下は、王妃の寝室からサロンの方へと移動をすると、椅子に座り込み項垂れるようにして頭を抱えていた。
麻薬の禁断症状に苦しむ妃を何とかするために、イレネウ島から聖女を呼び寄せることとなったのだが、
「聖女を連れて来ると豪語するから、私は藁にもすがる思いで待ち続けたのに、わざわざ王家の船を使って運んで来たのが幼子とは!これは一体どうなっておるのだ?」
六歳と四歳の幼い娘を紹介され、ウェントワースは驚愕に震えることとなったのだ。
ヴァールベリ王国の国王ウェントワースにとって、ルイーザは自分の命よりも大切な存在だ。そもそも、第二王子だったウェントワースが王位を継承出来たのは、今の皇帝の妹であるルイーザ皇女が輿入れして来たからというのが大きな理由の一つでもある。
ウェントワースの兄となる第一王子は体も弱く、王位を継ぐには不適当であるということもあって、兄を傀儡にして自分たちの好きなように国を動かそうという勢力から国を守るために、ウェントワースは王位を獲得するために奮闘した。
自分が王位を継承するためには後ろ盾となるヴィキャンデル公爵家の力だけでなく、オルランディ帝国の力をも借り受けたいと考えたウェントワースは、単身で帝国に乗り込み、そこでヴァールベリ王国の後の王妃となるルイーザ皇女と出会うことになる。
二人の結婚は政略などが全く絡まない、ただただ二人が互いを愛していたからということで認められたものであり、
「妹を不幸にしたら貴様の国などすぐに滅ぼしてやるからな!」
と、妹を溺愛する今の皇帝に散々言われることになったのだ。
ルイーザ王妃は帝国の姫君だっただけに、のんびりとした性格の人でもあったのだ。だからこそ、イザベルデ妃が自分の姉を押しのける形で王国に嫁いで来た時にも、
「あら、あら、困ったものね」
と、片手を自分の頬に当てて小首を傾げながら、少し困ったような様子で笑うばかり。
嫁いで来たイザベルデを諌めるでもなく、虐めるでもなく、大きな心で受け入れた。そのうち王妃はイザベルデのことを擁護するようなことばかりを言うようになった時には、
「妃がそこまで気に入ったのか」
と、ウェントワースは思ったし、
「妃が気に入った嫁なら大事にしなければならないな」
と、思うことになったのだ。
兄を退ける形で王位を継承したウェントワースは民に寄り添った政治を行い続けたことから『賢王』とも呼ばれ、多くの民に慕われてきた王ということになるのだが、愛する妻が絡むと途端にポンコツになるのがこの王の悪いところでもある。
「我が妃がイザベルデのことを気に入っているのであれば、誰に王位を継承させるかについてはまだ明言せずにおこう」
と、言い出す程度にはポンコツだ。
「安陽茶を永続的に我が国で飲めるようにするためには、安陽の植民地化は絶対に必要なことです!」
と言われれば、
「確かに安陽茶は妃も愛飲していたな。では、議会に安陽の植民地化への是非について議案を提出してみよう」
と、言ってしまう始末。
おっとりとした妃をサポートしてくれるのが、帝国から付き従って来てくれた専属侍女で、
「王妃様はイザベルデ妃様のことを大変頼りにされているようでございます」
と言われれば、そうなのだろうなと思うし、
「逆に、マデレーン妃については苦言を呈することも最近増えているようにございます」
と、言われれば、そうなのだろうなとウェントワースは思ったのだ。
妃は最近、第一王子であるオスカルよりも第二王子のカールの方を溺愛しているらしい。第二王子とイザベルデ妃は不仲であるという噂が流れているようだが、そのことに心を痛めていると聞けば、息子のカールにもっとイザベルデ妃のことを気にかけろと声をかけるくらいのことは行った。
「次の王位を王妃様はカール王子に継承いただきたいと考えられているようで」
侍女の言葉に、ウェントワースはそれはないなと考えていた。何しろ第二王子のカールは長らく国内に居ないのだ。だからこそ、王位を継承するのはオスカル以外には存在しない。
ただ、妻が悲嘆しては困ると考えて、オスカルが王太子に決定する時期を少しだけ遅らせただけなのだ。そう、ウェントワース王はカール第二王子に王位を継承させる気は全くないような状態だったのだ。
「父上、父上」
声をかけられたウェントワースが顔を上げると、第一王子であるオスカルが立っていた。
「オスカルか・・」
王妃の離宮のサロンで、一人頭を抱えていたウェントワースは皮肉な笑みを浮かべると、
「今日は何処に行っていたんだ?」
と、問いかける。
ウェントワースが公務を放り出しているため、オスカルは目が回るほど忙しいことだろう。彼の頭頂部が最近になって目に見える形で減っていることにも気が付いているのだが、妻が心配すぎて仕事が手につかない国王陛下はとにかく役立たずだった。
「今日はエスタード新聞社に行って、カーライル伯爵を拘束して来ました」
「カーライル伯爵だと?」
カーライルは第一王子を推す派閥に属していたと思ったのだが・・
「伯爵は私に協力すると見せかけて、裏では安陽茶の売買に深く関わりながら大きな利益を得ていたのです。新聞社の情報をポルトゥーナ側に流していたのは伯爵だと判明した為、身柄を拘束しています」
「伯爵が紅茶の販売に関わったというと、奴も紅茶に麻薬を混ぜ込むようなことをしていたのだろうか?」
「これから調査を進めていかないと分かりませんが、多くの貴族が麻薬に手を染めているのは間違いない事実です」
オスカルは目の前の席に座ると、窶れきった自分の父を見つめながら言い出した。
「侯爵家の嫡男だったファレス・ヴァルストロムがレベッカによって重度の麻薬中毒となり亡くなった、その罪を償うために死刑処分が決定となりました。レベッカ夫人の元夫であるオーケルマン伯爵や夫人の実家であるレックバリー子爵家は母上の発言によって無罪放免となりましたが、その母上が麻薬中毒とされていた。この裏にはイザベルデとポルトゥーナ王国が存在していることはご理解頂けていますよね?」
「ああ・・それは分かっている」
ウェントワースは苦々しげに答えながら俯いた。妻の発言を鵜呑みにして、妻の立場を守るため、帝国からの差配なら仕方がないと言い切ったのは自分なのだ。
「オーケルマン伯爵とレックバリー子爵は麻薬入りの紅茶を売買したという罪で身柄を拘束します。我が国に黙って鉄鉱石をポルトゥーナに売り払うなど万死に値するのは間違いない事実。父上がどう言おうと、何をしようと、私は彼らを許しません」
「ああ・・分かっている」
麻薬入りの紅茶の売買がでっち上げだとしても何の問題にもならない。理由をつけて拘束をすれば、彼らの悪行はすでに明るみとなっているため、処分は早急に行われることになるだろう。
「母上を麻薬漬けにされて、私だって怒っているんですよ」
「ああ、分かっている」
「今回のことは皇帝に申告します」
「・・・」
絶句するウェントワースに針のような視線を向けながら、
「例えわが国が滅んだとしても、私はポルトゥーナ王国並びにイザベルデを許す気はないんですよ」
と、断言した。
皇帝が妹姫であるルイーザを溺愛していることをウェントワースは十分に理解している。絶対に幸せにすると宣言したというのに、愛するルイーザが麻薬中毒にされていたなどと知られたら、皇帝は王国に対してどんな手で出てくるかはわからない。
「帝国にわが国を滅ぼされたら・・」
「今の状態でも十分に滅びそうなのですよ!」
厳しくそう告げられたウェントワースがビクリと体を揺らすと、オスカルは不敵な笑みを浮かべながら言い出した。
「帝国には無駄に時間稼ぎをしたり、嘘をついたりせずに、今あることをそのまま伝えた方が良いと私の参謀が言うのです」
「お前の参謀とは誰なのだ?」
「イレネウ島から幼い聖女を呼び寄せた者ですよ」
そう言ってオスカルは立ち上がると、父に自分の手を差し出しながら言い出した。
「幼い聖女は非常に優秀で、母上の意識も戻ったとのことですよ?これから一緒に母上のところへ行きませんか?」
「な・・・」
幼い二人が王妃の寝室に招き入れられて数刻と経っていないと言うのに、もう意識を取り戻したというのか。
「そういえば、イレネウ島では麻薬中毒に特化した茶の栽培が進んでいるらしいな」
「それは今後、新聞記事を使って広く知らしめていく予定ですよ」
そう言ってオスカルは父の手を掴むと、引っ張るようにして立ち上がらせたのだった。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
モチベーションの維持にも繋がります。
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