第十五話 オスカル殿下と新聞
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ヴァールベリ王国は大陸の西方に浮かぶ島国であり、乏しい資源、食糧難にすぐ陥りそうな穀物の自給率を武力で賄って来たような国でもある。
大型船が作られるようになり、未開の地を占領、植民地化することによって国力を増強してきたお国柄ゆえに、征服すれば後は何とかなると、至極簡単に思い込んでいる貴族の数がやたらと多い。更には、島国ゆえに他国民をあまり受け入れないという風潮もある。
そんなヴァールベリ王国にポルトゥーナ王国の第八姫君が嫁いで来たのは、ヴァールベリ王国の食糧事情に絡んでくることになる。
ポルトゥーナ王国から嫁いで来たイザベルデ妃の母は、大陸中央にあるハプランス王国の姫となる。大陸の食糧庫とも言われる広大な穀倉地帯を抱えるハプランスの王は愛娘であるイザベルデの母を愛し、婚家で意地悪をされたと訴えがあった時には、ハプランスからの穀物が止められるというような事件が、過去にも数度、起こっている。
イザベルデの母を怒らせるとハプランスの穀物が止められる。つまりは、イザベルデが自分の母に、婚家であるヴァールベル王家で虐められたと訴えれば、ハプランスからの穀物が止められる可能性があるということだ。
イザベルデ妃および、その後ろにいるポルトゥーナ王国がヴァールベリ王国に麻薬を広め、国力を削ごうとしているのかもしれない。王国に紅茶の文化を広めたイザベルデ妃が王妃を麻薬漬けにしようとしたのかもしれない。
王妃に対して麻薬を微量ずつ与え続けたのは帝国から付き従って来た侍女であり、侍女に麻薬を与えたのはフラクリン商会の会頭だということが判明している。イレネウ島に麻薬を売り捌いていた商人はポルトゥーナ人だったけれど、国をあげて関わった訳ではない。商人が暗黒大陸と人々から蔑まれる未開の地から安くミディを仕入れて、勝手に他国で売り捌いていただけのことと言われてしまえば、麻薬に関わった商人に極刑を執行することで、ポルトゥーナに牽制をかけるしか方法がない。
ポルトゥーナは島国であるヴァールベリ王国を属国にしようと企んでいるのは間違いない、なにしろ彼の国は何年も前から麻薬を広めるために王国に人を送り込んでいた形跡が見つけられたからだ。
だがしかし、明確な証拠もなしにイザベルデ妃やポルトゥーナに制裁を加えるようなことをすれば、その後ろにいるハプランス王国が黙っていやしないだろう。なにしろハプランスの国王はイザベルデ妃の祖父にあたり、自分の孫であるイザベルデを溺愛しているのは有名な話でもあるからだ。オスカルは大いに嘆くこととなったのだ。
「八方塞がりとはまさにこのことだろう。穀物を人質に取られているのも同じような状況の中では、母上のミディ中毒が判明したとて、証拠がないようでは母上を良いように使っていたイザベルデ妃を追求することが出来ない。なにしろ悪い奴はサム・クラフリンであるとされるように、全ては仕組まれているような状態だったのだから・・」
サム・クラフリンの曽祖父はポルトゥーナ人であり、ヴァールベリ人の富豪の娘に見初められるような形で婿入りし、その後、独自に商会を立ち上げて成功させたような人物である。富豪ゆえに男爵位を金で購入したクラフリンは野心がある男だと王家でもマークしていたのだが、まさか、ひ孫の代でポルトゥーナと手を組むとは思いもしない。
このひ孫というのがポイントで、敵側は彼のことをうまく利用しながら、いつでも尻尾が切れるようにしていたのだろう。
「王家が直接動くと、国と国の問題となりかねないとして国王陛下は及び腰となっている。その腰が引けた状態を敵は十分に理解しているようで、やりたい放題の状態だったと言えるだろう。今では王宮の中の誰が味方で誰が敵かもよく分からない。ああ、この国はついに滅びてしまうのか・・」
つい最近までそんなことを言っていたオスカルの髪の毛は、頭頂部を中心にどんどんと抜けていっているような状態だったのだが、若ハゲが進行したオスカルに対して、
「あの、一言、申し上げても宜しいでしょうか?」
と、言い出したのが、腹心の部下の妻となる人だった。
「王宮の中の人間の誰も彼もが信用出来ないと言うのなら、王宮の外の人間を使えば良いのですよ」
男並に背が高く、スラリとした体型のヴァルストロム侯爵夫人は、胸を張って言い出した。
「外の人間だけを利用した形でことを済ませることは出来ます、簡単に今の状況をひっくり返すことが出来ると断言します」
「はあ?」
「もちろん、オスカル殿下とマデレーン妃にはインフルエンサーになって貰わなくてはならないですが、それ以外の貴族の協力など必要ありません」
「はああ?」
「世論さえ上手く誘導出来れば、我に勝機ありです」
すると夫であるステランまでもが胸を張って言い出したのだった。
「妻がやると言えばやると断言します。殿下、私の妻はヴィキャンデル公爵家の無茶な要求を全て飲み込んだ上で、あれほど見事な結婚披露パーティーを企画した女なのですよ?あの奇妙キテレツで最高に格好いいバルーンアートを作り出したのは私の妻なのです!」
確かにあのバルーンアートは凄かった。
ヴァールベリ王国のシンボルであるライオンとナルビク侯国の鷹を見事にバルーンとやらで作り出して参加者を圧倒させたのは間違いない。
あのバルーンアートはヴィキャンデル公爵も作製に参加していたそうなのだが、あの巨大なオブジェの両脇に掲げられた両国の旗が、ヴァールベリ王国とナルビク侯国、両国の絆の深さを象徴することにもなったのだ。
「つまりは、私を支援してくれると表明してくださったナルビク侯国とヴィキャンデル公爵家の力を使うというわけか?」
「そんなことをしたら、国を二つに分けた戦いになってしまうではないですか!」
グレタはそう言って呆れた表情を浮かべると、
「そんなものを使わなくても十分にひっくり返せます。殿下、新聞を使うんですよ!新聞を!」
と、言われた時には半信半疑だったオスカルも、兵士に拘束された状態で足元に転がるカーライル伯爵を見下ろした時点で、
「新聞の力!凄いなーー!」
と、感動することになったのだった。
新聞を利用して『鉛中毒』や『麻薬中毒』の危険性を平民レベルにまで知らしめ、我が国の国力を削ぐために暗躍している貴族がいるのではないかという『陰謀説』を流布する。
イザベルデ妃が広めた紅茶に夢中となっているヴァールベリ王国の貴族たちは、紅茶のためなら戦争だってやってやる!という程ののめり込みを見せていたのだが、その紅茶自体に問題があると言われてしまえば流石に常識ある人間は立ち止まる。
何故、家を破産させてまで紅茶に夢中となっていたのか?
何故、紅茶を飲みたくて、飲みたくて仕方がなかったのか?
何故、あれほど夢中になって紅茶を追い求めていたのだろうか?
中には自分の手足の震え、紅茶に対する飢餓感、渇望感に気が付いた者もいただろう。なにしろ、クラフリン商会で取り扱う安陽の紅茶の一部には、麻薬成分が混ぜ込まれていたのだから。
恐らく、新聞記事を読んでパニックに陥っている貴族は相当数いるに違いない。
「殿下!それではそこの椅子に座って、縛り付けられたカーライル伯爵を足で踏んづけてください!」
エスタード紙の編集長となったコリン・ハーディーは、一人がけの椅子にオスカルを座らせると、優雅に足を組ませた上で片方の足を床に這いつくばる伯爵を踏みつけるように指示を出した。
「紅茶!早く紅茶を持って来て!」
「はーい!」
職員が用意した紅茶のカップを受け取ったオスカルは、カーライル伯爵を踏みつけながらティーカップを持ってにっこり。紅茶を優雅に飲んでいるシーンをパシャリ、何枚もの写真を撮られていくことになったのだ。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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