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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第十四話  新聞大作戦

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 『サンライフ』で毎日掲載される小説『秘密』に購読者が夢中となっている頃『エスタード』を発行する新聞社の社長であるゲイリー・ホランドは冷や汗をかきながら小さく縮こまっていた。ホランド社長の前に座るカーライル伯爵は不愉快な感情を隠しもせずに言い出した。


「エスタードは王家を礼賛する記事だけを書いていれば良いとあれほど言っておいたというのに、最近の記事はなんなんだ?まさか、三流紙の真似事を始めたわけじゃあるまいな?」


「いや、あの・・その・・」

「社長として社員を管理出来て居なさ過ぎるんじゃないのか?このことをオスカル殿下が知ったらどう思われるか、君には想像をすることも出来ないのかね?」

「いや・・私は・・その・・」

「王家は賞賛を浴びることを求めている、民が王家を賞賛するように仕向けるのが君たちの役割ではないのかね?」


 カーライル伯爵はホランド社長の前に本日発行された新聞を投げつけながら言い出した。


「私は随分前に、エスタード紙でイザベルデ妃が我が国にもたらした焼き菓子ババについて特集記事を組むように言ったよな?だというのに、ババについての記事が紙面に載ることもなくどれほどの日が過ぎた?お前のところの記者が怠けている間に、見てみろ!『サンライフ』でサヴァランが特集されて、平民の興味がそっちに向いてしまったではないか!」


 サヴァランとはヴィキャンデル公爵の披露宴パーティーではじめて登場した焼き菓子のことであり、ババがレーズンシロップに浸した焼き菓子とするのなら、サヴァランは紅茶のシロップに浸して作る菓子ということになるらしい。


 このサヴァランを溺愛するマデレーン第一王子妃が、孤児院や教会の慰問で千個近くを寄付されたため、民に無料で配られたという記事が『サンライフ』の王族特集記事として掲載されている。


 サヴァランはタクラマ神聖語で『あなたを愛しています』という意味になるのだが、これはヴィキャンデル公爵の溺愛する令嬢に、結婚相手であるハラルド・ファーゲルランが愛を込めて作り出した菓子だとか、いやいや、オスカル殿下が愛するマデレーン妃に対して作った菓子であるとか、色々と噂をされているのだが、実はこのサヴァランは全く別の人物によって作り出されたものらしい・・次回、その作り出した人物について明らかになるだろう・・という購読者の興味を引っ張る形で記事は終わっているのだった。


「サンライフで『白粉』に対する追求記事が収まったと思いきや、今度は君のところで『鉛中毒』についての特集を始めている始末!お前らには誇りがないのか!三流紙の真似をしてどうするんだ!」


 伯爵はテーブルの上を拳で叩きつけながら言い出した。 

「何が健康被害だ!貴様らの新聞の所為で!安陽の紅茶が売れなくなってしまったんだぞ!」


 カーライル伯爵は安陽からの紅茶の輸入で大儲けした貴族の一人でもあり、今起こっている安陽茶の買い控えが本格的になれば非常に困る事態となってしまうのだ。

「すぐに訂正記事を載せろ!分かったな!」

 震えるエスタードの社長をその場に置いてコーヒーショップ後にした伯爵は、斜め前の店に長蛇の列が出来ていることに気が付いて、思わず眉を顰めたのだ。


 最近、王都で人気となっている『サヴァラン』という焼き菓子は、マデレーン妃が貧民に配って歩いている菓子であり、

「このお菓子を食べると元気なる!」

 という噂が広がっていくに従い、王都でサヴァラン専門店なるものがあっという間に開店していくことになったのだ。


 イザベルデ妃がヴァールベリ王国に広めたババは、レーズンシロップに漬け込んだ焼き菓子ということになるのだが、サヴァランは紅茶のシロップに漬け込んだ焼き菓子ということになるらしい。


 専門店ではこの焼き菓子にホイップクリームやフルーツでデコレーションされたものが売り出されているらしく、

「可愛らしくて美味しいなんて最高!」

 と言って、貴婦人たちに大人気となっているらしい。


「くそっ、くそっ、くそっ」


 カーライル伯爵はオスカル第一王子を次の王へと押す派閥に属しているのだが、紅茶で一儲け出来るという話に乗る形となって密かに第二王子派に与している。第一王子の情報を第二王子派に流すのが伯爵の役割であるし、オスカル殿下が購入した新聞社を自分の好きなように動かしているのもカーライル伯爵ということになる。


「私は間違っていない・・私は間違っていないんだ!」


 イザベルデ妃の後ろにはポルトゥーナ王国だけでなく、ハプランス王国までもが存在する。ラトランド公爵家の後ろ盾しかないマデレーン妃よりもよっぽど強力な力を持っていると言えるだろう。


 その翌日『エスタード』から世間を驚かせるスクープ記事が発表されることになったのだが、そのスクープ記事を読んだ伯爵は、顔を真っ赤にしながら怒りの表情を浮かべた。


『女性の化粧品というものが一般にまで広まるようになり、特に安価で手に入りやすい『白粉』は肌触りが良いものか悪いものなど、さまざまなものが安陽国より輸入されるようになったことは皆も知っていることと思われる。この度、王国の衛生局の調査によって、白粉の普及と乳児の死亡率が同じ推移を辿っていることが判明し、乳児の死亡と白粉との関係が調査されることになったのだ。結果、安陽からもたらされる白粉には鉛が混入していることが判明。首元から胸元まで白粉をはたくことは多く、白粉が付着した乳房を含んだ乳児が鉛を口中に含み、結果、中毒死を起こしたということが判明。周辺諸国へも注意喚起がもたらされることになった。


 乳児が鉛による中毒症状を起こすと死にいたることが多いが、大人の場合、頭痛、倦怠感、脱力、手足の震え、骨や関節痛の増強による歩行障害、口中の不快感による食欲不振、嘔吐、腹痛、人格の変化などの症状が見られることになる。


 実は、安陽国から輸入される紅茶の飲用習慣がある者に、これらの症状を呈する者がいることが判明したため、紅茶の主成分について調査されることとなったのだ。高額で取引されることで有名な安陽産の高級茶葉ではあるが、この茶葉欲しさに金を使い尽くし、没落した貴族も居るという話は最近、世間を騒がせた。多くの貴族を夢中にさせる茶葉を調べたところ、なんと、茶葉の中にミディの成分が混入されていることがこの度、明るみとなったのだ。


 どうやら、紅茶ブームに沸くわが国に長く紅茶を売りつけるために、クラフリン商会が紅茶に中毒性の高いミディを混ぜこみ、貴族たちに購入させ続けるようと画策したのではないかとのこと。すでに健康被害を起こしている貴族の数は多く、大きな社会問題となるのは間違いない。すでにクラフリン商会には国の査察官が入る形となり、会頭のサム・クラフリンは逮捕をされ、従業員への事情聴取も進めているという。


 以前『サンライフ』が取り上げた陰謀説が世間を騒がせることとなったのだが、実はサンライフの記事は眉唾ものでも何でもなく、真実を指し示したものであるのかもしれない。実際に我が国では貴族の間にまでミディ(麻薬)が広がり、多くの中毒者を出しているような現状なのだ。では、何処の国がわが国を陥れようと画策しているのか?それは今後の調査で明らかとしたい。                         』


「バカヤローッ!今後の調査で明らかにしたいだと!王家の御用新聞のくせに!生意気なことを言ってんじゃないぞーー!」


 叫び声を上げたカーライル伯爵は、新聞社にまでクレームを言うために出向いて行ったのだが、その場でオスカル殿下に出迎えられることになったのだ。

 そうして、

「売国奴のカーライル伯爵、私が所有する新聞社まで来て何か言いたいことでもあるのかね?」

 と、問われながら兵士に拘束されることとなったのだった。




本日、もう一話更新します!

サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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