第十二話 新作となる小説
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『サンライフ』に毎日掲載されていた『伯爵夫人の夜の楽しみ』の続編や、全く違う内容の新作を希望する声は多かった。連載は終了された後も多くの人々が作品を望み、時には脅迫まがいなことまで行って要求したものの、話が通ることはなかったのだ。
彼が新聞社を訪れた翌日には、サンライフで新作が連載されるということが発表されたのだから、頑なに新作を拒否し続けてきた『サンライフ』がサム・クラフリンに屈することになったのは間違いない事実だ。
生まれた時から富豪であったクラフリンにとって、不可能なことは何も存在しない。
今のところ安陽の商品について、今までの記事は全て嘘であったという謝罪記事が載せられていないのだが、
「今、謝罪記事を載せてしまえば新作の小説の陰に隠れて、購読者の注目を浴びずに終わることとなりますが?」
と、編集長に言われてしまえば、確かにそうかもしれないクラフリンは考えた。
作家に対しては相当に無理を言って要求を通したらしく、クラフリンを前にしても編集長や担当者は、
「とにかく、作品の連載に力を入れたいから」
「外野は黙っていて欲しい」
と言って取り合おうとしない。
何しろ新しい作品はオスカル第一王子の妻となるマデレーン妃を糾弾する作品となるのだ。二人の目が殺気だった上に血走っているのも仕方がないことなのかもしれないのだが・・
「我々は新作に命を懸けているのです」
「始まったらもう走り出すしかないのです」
「ですから、いくらクラフリン様といえども、我々に横槍を入れるような行為はやめて頂きたい」
横槍を入れるような行為とは、連載の進捗状況を逐一確認に来たり、連載内容について茶々を入れたりする行為のことで、
「王家の秘密を暴露するような行為をこれから行っていくのです。ですから、クラフリン様も今後は我が新聞社には近づくことなく、掲載される小説を一購読者として楽しむ形として欲しい」
そう言い切った編集長を見て、これは自分が口出しするべきことでもないのだろうと判断することになったのだ。
とにかく、大量の金貨を彼らが受け取った上で連載を開始したのは間違いない事実。王家の秘密に切り込む形で物語を作りあげていくというのなら、クラフリンは『サンライフ』と距離を取った方が良いのは間違いない。
そうして『サンライフ』では満を持して新作の連載を開始したのだった。
『秘密』というタイトルで始まった小説の冒頭では、先妻の娘であるカリナと後妻の娘であるマリアが出てくることになる。二人の父親となる侯爵は正妻が健在な時から愛人を囲っていたような男で、病で正妻が亡くなると、即座に後妻として愛人とその子供を侯爵邸に招き入れることになるのだった。
後妻とその娘であるマリアは、侯爵邸に入るのと同時に、先妻の娘カリナからあらゆるものを奪い取り、苛烈な虐めを繰り返すようになっていく。この時点で、平民の読者は侯爵家の正式な嫡女であるカリナが平民よりも酷い扱いを受けることに心打たれ、夢中で作品の中に没入していくことになるのだった。
二人の娘の父である侯爵は後妻とマリアの苛烈な虐めに対しては、見て見ぬふりを貫き通し、そんな主人の態度を見てか、使用人たちのカリナに対する態度も最悪なものへと変貌する。
孤独なカリナの心の支えとなったのは、母が健在の時に決められた婚約者である公爵家の令息の存在であり、二人は仄かな愛を育みながら、結婚する日を夢見て今を耐えているような状態だったのだ。そうして、二人の結婚が半年後に迫ったという時に、
「私が彼と結婚するわ!お姉様よりも私の方がふさわしいもの!絶対に!絶対に!私が結婚する!」
と、マリアが大騒ぎを始めた為に、カリナは愛する婚約者までマリアに奪い取られることになってしまうのだった。
毎日連載している『秘密』をここまで読んで、クラフリンはマデレーン第一王子妃に思いを馳せることになったのだ。
マデレーン妃はラトランド公爵家の令嬢なのだが、彼女の母親は公爵にとって二人目の妻であり、過去に愛人として囲っていたとかそういうことではなく、政略的な意味で決められた結婚ということになる。
公爵は一人目の妻との間に、一男一女をもうけており、マデレーンは二人の異母妹として公爵家に生まれ落ちた事になる。
「そういえば・・最初にオスカル殿下の婚約者として名前が上がったのは、マデレーン妃の異母姉となるカタリーナ嬢だったはず・・」
カリナとマリア、小説の中の二人の令嬢は、カタリーナとマデレーンという二人の公爵令嬢を描いているのに違いない。
「なるほど・・名前まで似たようなものを持ってくるとは・・さすが『伯爵夫人の夜の楽しみ』の作家だけある」
登場人物に実在の人物の特徴をこっそりと盛り込んでいくのがこの作者の醍醐味であり、多くの貴族が、それぞれの登場人物が誰に当たるのかと想像を膨らませながら作品を楽しむことになるのだった。そろそろ読者も、悪辣な妹マリアがマデレーン妃であると思い付き始めていることだろう。
結局、マリアの我儘は受け入れられる形となり、必死の抵抗も虚しくカリナと公爵家の令息は別れることになってしまう。マリアの母方の祖父は広大な穀倉地帯を所有するバーナーズ伯爵であり、孫を溺愛する伯爵を敵には回したくないという配慮から、愛する二人は引き裂かれることになるのだった。
そうして結婚式を終え、晴れて公爵家の令息の妻となったマリアは、
「お前を生涯、愛することはないと宣言する!」
と、告げられ、初夜である一晩だけ抱かれることにはなるのだが、以降、マリアが夫から手を付けられることはなかったのだった。
貴族の義務とは子を作ることにあり、子が産めない妻は役立たずと罵られ、三年の間子供が生まれなければ離縁されても文句は言えないというような世の中でもある。
姉と自分の夫がどれほど愛し合っていたのか知っているマリアは、一晩のチャンスだけで全てが終わってしまうのではないかと恐怖に駆られることになったのだった。一度は抱いた、義務は果たしたとして夫が文句を言われる筋合いはない。だがしかし、夫の子供を授かれなかった妻の方は将来的にどういう扱いを受けることになるのか?
「いやよ・・いや!愛する二人を引き裂いた私が悪者になるのだけは絶対に許せない!」
公爵家に嫁いできているマリアには常に監視の目があることもあって、不貞によって子供を授かることは到底出来ない。であるのなら・・
「お嬢様、子種をお持ちしました」
「あら、そう?だったらそこに置いておいてくれる?」
夫に良く似た髪と瞳の色をした男の子種がコップに入れられて運ばれて来る。侯爵家からついて来た専属の侍女をマリアは部屋から下がらせると、一人、ベッドに横になりながら、まだ生温かいコップの中身を自分のなかに塗りつけていったのだった。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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