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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第十一話  富豪の脅迫

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 サム・クラフリンは、曽祖父の時代までポルトゥーナ王国で商人をやっていたのだが、この曽祖父がヴァールベリ人の富豪の娘に気に入られる形となって、婿入りすることになったのだった。


 曽祖父は婿入りした先で、妻の家が持つ商会とはまた別の商会を立ち上げたのだが、類稀なる才を持つ祖父の力によって、クラフリン商会はあっという間に大商会へと成長した。


 父の代で男爵位を叙爵し、確固たる地位を王都で築くこととなったサム・クラフリンとしては、男爵から爵位を伯爵にあげることを狙っている。勿論、島国であるヴァールベリ王国ではよそ者を嫌う風潮にあるため、それが不可能に近いことであることも分かっているが、豊富な財力を生まれた時から手に入れているサム・クラフリンとしては、自分の代では誰からも馬鹿にされない権力を欲してしまうのは仕方がないことだろう。


「君たちのような三流新聞で毎日連載の小説と聞いた時には、どうせ大した内容ではないのだろうと思っていたのだが、それは大きな間違いだったと後から思い至ることとなったのだ。多くの後ろ盾を持つレッドメイン伯爵を、創作話ひとつで破滅へと追いやることになったのだ。君らのような三流紙を媒体としているというのに、一つの伯爵家を醜聞まみれにした力は本物だ。そんな力を持つ作家に、是非とも会ってみたいと私は考えているのだが」


「「無理です」」

 編集長とアデルはほぼ同時に答えていた。

「「本当の本当に無理です」」


 グレタがまだ子爵家の令嬢の身分であれば交渉の余地はあったかもしれないが、玉の輿に乗ってしまったグレタは今では立派な侯爵夫人である。いくら富豪の商人だからと言っても、三流新聞の仲介で紹介できる訳がない。


「クラフリン様は作家に小説を書いてもらって、かの人の地位を失脚させたいと考えているのですよね?」

 編集長は真剣な眼差しで目の前の男を見詰めながら言い出した。


「かの作家は、本当にあった貴族の醜聞を調査し、それを作品の中に落とし込んで作り上げていくのです。非常にセンシティブな内容にも触れることが多いため、作品を作り上げている最中には、誰にも会いたくないし、会えば筆を折るとまで断言するような人なのです」


「そ・・そうです!そうです!作家は非常に頑固で、私たちの話すらまともに聞いてくれません。我々の想像を超える発想力を持つ人間なのは間違いなく、作家のことを知る人間は声を揃えて『奇妙』で『キテレツ』で『今までにない発想を兼ね備えた』『パワーがある作品』を作り出す人だと言うのです。つまり、作家の気分が乗らない限りは、絶対に物事が前には進まないということなのです」


 グレタと何年もの付き合いがあるアデルは彼女がどんな人間なのかを知っている。やると言ったらどんな無茶でもやる、やらないと言ったらどんなことがあってもやらない。


「クラフリン様が直接作家と会うというのは悪手であると私は断言させて頂きます!」


 目をギラギラさせながらそう言い切るアデルの表情を見つめたクラフリンは、胸の前で腕を組みながら、

「いわゆる天才という奴なのかな・・」

 と、言い出した。


「そ・・そうです、そうです、いわゆる天才という奴なのです。ですので、どれだけ言われても、作家に小説を書かせることが出来るかどうかは、私どもには分からなくてですね」

「分かるとか分からないとかじゃなく、書かせる一択なんだよ」


 クラフリンはそう答えると、秘書に大量の金貨を二人の目の前に持って来させたのだった。


「所詮は三流紙なのだから、これだけの金があればどうとでもなるだろう?作家が書きたくないとごねたなら、この金をその作家の目の前に積んでも良いし、この金を脅迫に使っても良い。とにかく作家に小説を書かせるのだ。でなければ、作家も、そして君たちにも、明日は来ないと宣言してやろう」


 王都でも有名な富豪であるサム・クラフリンが明日は来ないと言えば、絶対に来ないということになるのだろう。自分が殺されるのか、はたまた新聞社が潰されるのか、家族が殺されるのか・・どちらにしても、彼なら簡単にやってのけることだろう。


「それと・・『サンライフ』では鉛入りの白粉を糾弾するスクープ記事を書いていたと思うのだが、それもまた全て間違いであったという謝罪記事をすぐに書くように」


「「はい?」」


「鉛入りの白粉なんて情報は嘘だったのだ、安陽から来る商品に健康被害を起こすものは何一つ存在しない。それはもちろん、安陽の紅茶も同じで、いくら飲んでも何も問題がないということを一面の記事にして載せろ」


 クラフリンは嘲笑うように二人を見つめながら言い出した。

「命が惜しいと思うだろう?君たちの会社を存続したいと思うだろう?いつ戦争が起こるか分からないというようなこの状況で、君たちだって失業なんかしたくないだろう?」


 ねっとりとした眼差しでクラフリンに見つめられたアデルは、膝の上に置いた自分の拳を握りしめたのだった。


 サム・クラフリンにとって、大衆紙である『サンライフ』は、取るに足らない新聞であることは間違いない。市民に密着した新聞社だけあって、王都の中で密かに広まっていた鉛中毒に目を付けたのは流石と言えるかもしれないが、安陽の白粉に目をつけたところから、紅茶の中の成分にまで言及したところがいただけない。


 クラフリン商会はイザベルデ妃の口利きで、安陽との商売には大きくかんで来たことで今まで莫大な利益を得てきたのだが、たかだか三流紙のスクープ記事が理由で、大きな損害を出しているような状態なのだ。


 だからこそ、その三流新聞で『伯爵夫人の夜の楽しみ』以上の作品でマデレーン妃を追い落とし、妃を潰した原因となった新聞社に非難の目が向くように差し向ける。『サンライフ』は小説を載せようが載せまいが、クラフリンに大きな損害を与えた時点で、破滅は決定しているのだ。



サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

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