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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第九話  イザベルデ妃の困惑

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。


「安陽国の紅茶が全く売れなくなったってどういうことなの?」

 ヴァールベリ王国の第二王子妃であるイザベルデは、出入りの商人との商談中、思わず驚きの声を上げてしまったのだった。


「妃殿下は新聞の記事などお読みになりませんか?」

 宝石を並べていた商人は母国ポルトゥーナの間諜であり、宮殿の中ではなかなか仕入れることが出来ない外の情報をイザベルデにもたらしてくれるのだった。


「十日ほど前に大衆紙である『サンライフ』が報じたのが、白粉による乳児の連続死についての取材記事でした。最近、庶民の間にも広がり出した白粉なのですが、その中に鉛が混入しており、白粉をはたいた母親の乳房を飲んでいた乳児が、鉛を含んだ白粉も口に含むことで中毒死を起こす。王都だけでも二十人以上の乳児が死亡したという事で、この報道記事の後に白粉の販売店が摘発されたんですよ」


「白粉と安陽国の紅茶は関係がないじゃない?」

「いいえ、そうではありません」


 商人はイザベルデにダイヤのネックレスを勧めながら言い出した。


「鉛入りの白粉は安陽国から輸入されたものでした。乳児であればすぐに中毒死をしてしまう代物でも、大人が中毒となれば手足の震えが発生するばかりで死にはしません。安陽国の紅茶を飲んで、手足の震えが出て来たと訴える者が多数出てきているのもまた事実であり、安陽茶にも健康被害を引き起こす鉛が含まれているのではないかという記事をエスタード紙でも報じているため、多くの貴族たちが無視できない状態となっているのです」


「それは違うじゃない!」


 安陽から輸入した高級の茶葉を飲む貴族の中には、あえて、ミディを加えた紅茶を下賜した貴族が何人も居る。その中の数人に、禁断症状から手足の震えなどを起こしている者が出ただけで、鉛による被害では決してない。


「何と言いましても、世間では、安陽国の紅茶を飲めば不妊に繋がる。例え赤子が無事に生まれたとしても、障害を持って生まれることが多いとまで言われるようになりまして」


「それはまずいわね」


 貴族の結婚は政略によるもの、尊き血を残す事こそが最大の使命と言われているようなものなのだ。飲めば不妊、生まれても障害が残ると言われた紅茶であれば、どれほど美味だと言ったところで、口をつけるわけがない。


「エスタード紙といえば、最近では王家の礼賛記事しか載せないように命令しておいたじゃない?ホランド社長はどうなっているのかしら?」


「ええ、そうですね。天下のエスタード紙まで鉛中毒について報じているのは由々しき事態と言えるでしょう。カーライル伯爵が社長の方は対応するとは言っておりましたが・・」


「王妃様を動かさないといけない事態ということかしら?」

「ええ、私にはそのように思います」


 ヴァールベリ王国のルイーズ王妃はオルランディ帝国の皇帝の妹であり、皇帝はルイーズのことを溺愛しているのは有名な話でもある。


 今のウェントワース王が兄を退ける形で王位を継いだのは、ルイーズ皇女を妃にしたのが大きな理由でもあるし、ルイーズは王国内で誰もが無視できない力を持っている。


「実際に、王妃様が介入されることでレックバリー子爵とオーケルマン伯爵は無罪となりました。リリベル子爵家の領地から産出される鉄鉱石も、王妃様の差配で輸出をしたといえば黙り込む。王妃様の意向でこの国はどうとでも出来るという証のような出来事でしたね」


「そうよ、だからこそ、王妃様の寵愛を受ける私は特別な存在で居続けることが出来るの」

「それではそんな素晴らしい威光を持つ妃殿下に、是非ともやってもらいたいことがあるのですが?どうでしょう?」

 目の前の商人は自分の手を擦り合わせるようにしながら言い出した。

「妃殿下には孤児院や教会の慰問に是非とも行って頂きたいのです」

「はあ?」


「今、マデレーン妃は教会や孤児院の慰問に力を入れており『サヴァラン』という焼き菓子を一千個、二千個単位で、無料でお配りになっているのです。何でも妃殿下のためにオスカル殿下が作り出した菓子らしく、だからこそ『サヴァラン』タクラマ神聖語であなたを愛すると言う意味がついた菓子となるのです」


 イザベルデはヴァールベリ王国にババという焼き菓子を広めたが、サヴァランはそのババとよく似た焼き菓子だ。ババはレーズンシロップに漬けるのだが、サヴァランは紅茶のシロップに漬けているのだという。


「マデレーン様は私のことが羨ましくて仕方がないから、私の真似事をしているだけでしょう?貴族には私のババ(焼き菓子)がすでに広まっているから、自分は平民を相手にするしか方法がないのよ」


「ですが、マデレーン妃に対する国民の人気が非常に高まっているような状態なのです!イザベルデ様、あなた様は何に対しても負けるのがお嫌いではないですか?だからこそ、マデレーン妃に向けられる国民の好意を奪い返してやらないと!」


「はあ!馬鹿馬鹿しい!」

 イザベルデにとってヴァールベリ王国の庶民など、地べたを這いつくばる蟻と同義であると言えるだろう。蟻の好意がこちらの方へ向けられると考えるだけで気持ちが悪くなってくる。


「いやよ!いや!今でも十分に貴族たちの支持を集めているのだから、これ以上、何かが必要とは思えないのだけれど?」


 扇を広げたイザベルデは、目の前の商人を睨みつけるようにして言い出した。


「とにかく、エスタード紙に余計なことは記事として載せないようにきちんと命令をしておいて!それから、嘘でも何でも良いから、マデレーン妃の醜聞になるような話を毎日載せるように命じなさい!そうすれば、庶民とやらの人気もあっという間に消えることでしょう」


 そう言い出したイザベルデは、何かを思いついた様子となって、商人の方へ顔を寄せながら言い出した。

「『伯爵夫人の夜の楽しみ』の作者を見つけて来てちょうだい」

「はい?」

「あれは実に痛快で面白かった覚えがあります。あの作品の作者に協力をさせて、マデレーン妃の評判を落っことしたら面白いと思うのよ」


 イザベルデは扇子をパタパタと煽いで、自分の首元に風を送りながら言い出した。


「本当でも嘘でも何でも良いのよ。マデレーンが思わず泣き出しちゃいそうなネタを毎日連載する形にするの。とっても面白いことになると思うのだけれど?」

「妃殿下がそう望まれるのなら・・」


 そう答えながらも、商人は頭の中で『伯爵夫人の夜の楽しみ』と言う小説の情報を頭の中でかき集めていく。確かあれは5年ほど前に『サンライフ』で毎日連載された小説であり、赤裸々な伯爵夫人の性や伯爵家当主の悪辣ぶりが、時にはコミカルに、時にはシリアスに、面白おかしく綴られていた。最終的に復讐者によって伯爵夫妻は裁きを受けることになるのだが、実際にモデルとなった伯爵も罰を受けることになり、爵位を息子に譲って領地に引っ込んでしまったはずだ。


「作者が不明となってはいますが、なあに、サンライフに問い合わせればすぐに見つけることが出来るでしょう」


 商人はそう答えながらも、我儘なイザベルデを結局奉仕活動に引っ張り出すことは今日も出来なかったと、心の中で嘆いていたのだった。


サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

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